【完結済】逆恨みで婚約破棄をされて虐待されていたおちこぼれ聖女、隣国のおちぶれた侯爵家の当主様に助けられたので、恩返しをするために奮闘する

ゆうき

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第九話 自分のことなど二の次で

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■ウィルフレッド視点■

 予定よりも早く鍛錬を切り上げた俺は、毎朝の日課である墓参りにやってきた。

 目の前に静かに佇む墓石は、今日も汚れ一つついていない。これもエクウェス家に仕える使用人達が、しっかりと磨いてくれているからに他ならない。

 この墓には、エクウェス家の当主やその伴侶が眠っている。その中には……もちろん俺の父上と母上も含まれている。

「おはようございます、父上、母上。今日は少々変わった話を持ってきましたよ」

 俺はこの花畑には咲いていない花を一輪供えてから、いつもの様に語り始める。

「先日川で助けた少女が、目を覚ましまして。その少女が、まさか聖女だったのです。それも父上と母上もご存じの、あのエレノア様の娘だったのです」

 墓に話しかけても、当然何の返事も返ってこない。でも、俺には両親が笑顔で聞いてくれていると、心の底から信じている。

「まだ出会ったばかりだというのに、俺のためにわざわざ回復魔法を使ってくれたどころか、俺のために泣いてくれたんですよ。自分のことしか考えてない貴族ばかりを見てきたので、とても新鮮で……嬉しかった」

 俺が今まで見てきた他人という存在は、己の利益だけを考えている連中ばかりだ。

 他人の顔色を伺い、思ってもいない世辞を言い、自らの欲求を満たすために陰口を叩く。それ以外にも、様々な汚いものを見せつけられてきた。

 だから、俺は他人とはそういうものだと認識していたが、彼女は俺の提案を遠慮し、出会ったばかりの俺の過去を聞いて涙を流し、心配をして治療を試みた……それが信じられない。

「ルナもその優しさがわかったのか、大層懐いておりまして。俺があまり長い時間構ってあげられないので、ああして楽しそうにしている姿を見ると、本当に嬉しくて……同時に、ルナには寂しい思いをさせていたんだと、改めて痛感しました」

 父上と母上が亡くなってから、俺は動けるようになってから、すぐに新たな家長として働き始めた。その時は、まだルナは言葉も喋れないくらい幼かった。

 そんなルナの世話は使用人に任せてしまっていたから、ルナには家族の愛をあまり注いであげられなかった。それが……今でも心残りだ。

 ルナが高等魔法の精霊を呼ぶ魔法が使えるようになったもの、ルナの寂しさから来ているものだと、俺は理解している。

「本当に……俺は何をしているんでしょう。お二人に命を懸けてまで助けてもらったというのに、多くの使用人に助けてもらって、ルナには寂しい思いをさせて……エクウェス家は落ちぶれたと、他の貴族に馬鹿にされ、哀れまれ、嘲笑されて……!」

 エクウェス家は長い歴史の中で、優秀な騎士が当主として存在し、多くの優秀な騎士を育て上げ、国に貢献した。

 それなのに、俺は体がまともに動かなくて、騎士としてやっていくのは不可能だ。かろうじて指導することは出来ても、所詮俺はまだ若輩者。父上やご先祖様には、遠く及ばない。

 その結果、エクウェス家はもう終わったという烙印を押された。多くの貴族達に哀れまれ、中には俺やエクウェス家を中傷する人間もいた。

 ――もうエクウェス家の時代は終わった。

 ――可哀想に、両親を亡くして大変だろう。

 ――散々調子に乗っていた罰だ。本当に良い気味だ。

 そんなことを言われ続けていたら、少しだけ言われることに慣れてしまった。そんな自分が恥ずかしくて、情けなくて……。

 それだけに留まらない。元々俺には婚約者がいたが、この体になってしまったことで、もう家にも俺自身にも価値が無いといわれ、婚約破棄をされてしまったんだ。

 ……悔しい。心の奥底が、悔しさで熱くなっていくのがよくわかる。どうして俺は、こんなに情けないんだ……!!

「俺は……本当に情けない……悔しい……! 父上に教わった騎士道精神を胸に頑張ってきましたが、結局何も解決できていない……大切な家も、家族も、使用人も、なにも守れていない……!」

 ……泣き言を言っていても仕方がない。俺がやらなければ……家は廃れて無くなってしまう。そうなったら……ご先祖様や両親に顔向けが出来ない。

 それに、家が無くなったら……使用人達を路頭に迷わせてしまう。そしてなによりも……ルナの人生が狂ってしまう。

 俺はこんな状態だから、仕事は出来ないのは明白だ。しかし、家が無くなれば、生活するために稼ぐために仕事をしなければならない。そうなれば、自ずとルナが仕事をしないといけなくなる。

 それに、俺は一人で生きていくのは困難だから、ルナが俺の面倒をみることになってしまうだろう。そうなったら……きっとルナの人生は、俺の介護で終わってしまう。

 俺がどうなろうと構わない……でも、それだけは避けなければならない。

 ……とにかく今の俺に出来ることは、少しでも家を存続できるように、家長の仕事をしながら、僅かな望みにかけて、みんなに迷惑や心配をかけないように、鍛錬をするしかない。

「俺がやらなければ……父上、母上。お二人に助けていただいたこの命を全て燃やし尽くしてでも、俺は大切な人達と家を守ります」

 俺は墓に深く頭を下げてから、その場を後にしようとすると、背後に一人の女性が立っていることに気が付いた。

「エレナ殿? どうしてここに? 部屋に戻って休むようにお伝えしたはずでは?」
「あ、その……あの後、ウィルフレッド様が心配になってしまって。使用人の方に居そうな場所を聞いて、探しに来たんです」
「そうでしたか。俺……ごほん。私の体の心配をしていただき、ありがとうございます」

 わざわざ聞いてまで俺を探しに来てくれるなんて……本当に優しいお方だ。これでもし何か打算があって優しくしているフリをしているのだとしたら、俺はしばらく人間不信になりそうだ。

 ……それにしても、エレナ殿の優しさに甘えて、思わず素が出そうになってしまったのはよろしくない。気を付けなければ。

「このお墓って、ご両親の……?」
「ええ。両親と、ご先祖様が眠る墓です」
「やっぱりそうなんですね。先程のウィルフレッド様の言葉からして、そうだと思いました」
「聞かれていたとは、お恥ずかしい限りです」

 い、一体どこから聞いていたのだろうか? あんな弱音を吐いたところを聞かれていたなんて、恥ずかしくて顔から火が出そうだ。

 どこから聞いていたのか、エレナ殿に確認をしたいところだが……知らない方が幸せなような気もする。

「私もお祈りをしてもいいですか?」
「もちろんです。きっと両親もご先祖様も喜ばれるでしょう」

 快く許可を出すと、エレナ殿は墓の前で両膝をつき、両手を組んで祈り始める。

 一体何を祈ってくれているのか、何を伝えているのかはわからなかったが、エレナ殿は数分程祈りを捧げてくれた。

「すみません、お待たせしてしまって」
「いえ。わざわざ沢山祈ってくれて、ありがとうございます。ところで……ここで聞いたことは、ご内密にしていただきたい。なるべくルナや使用人達には、心配をかけたくないので」
「わかりました」

 突然のお願いだったが、快く受け入れてくれて、正直ホッとした。家長がそんな弱音を吐いてたなんて知られたら、またみんなに心配をかけてしまう。

「ありがとうございます。では戻りましょうか」
「あ、車椅子押しますよ!」
「これはかたじけない」

 感謝を述べる俺に、エレナ殿はいえいえと笑顔で返しながら、車椅子を押し始める。

 ……他の貴族達も、エレナ殿のように優しくて思いやりのある人になってくれれば、俺の心労も少し減ってくれるのだろうに。
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