【完結済】逆恨みで婚約破棄をされて虐待されていたおちこぼれ聖女、隣国のおちぶれた侯爵家の当主様に助けられたので、恩返しをするために奮闘する

ゆうき

文字の大きさ
28 / 45

第二十八話 お世話になりました!

しおりを挟む
 翌日の早朝、私達はこれ以上ラピア様のお邪魔をするのは申し訳ないということで、屋敷に帰ろうとしていた。

 昨日の一件のせいで、おでこがまだ痛むわ……でも、回復魔法を使わなくても我慢できそうだから、このままでいいかしらね。

「はぁ、やっとうるさい連中がいなくなって、清々するわい」

 憎まれ口をたたきながら、ラピア様は今日も葉巻を吸っている。

 この二日間で、ラピア様は実は良い人だけど、今までの経験のせいでちょっと素直になれなかったり、やり方が少し人と違うだけで、私達のことを考えてくれているのがわかった。

 それがわかったから、今みたいなことを言われても、動じなくなったわ。

「小僧」
「はい」
「儂は今まで様々な人間を見てきたが、小娘のような人間は中々いない。せいぜい大事にしてやるんじゃぞ」
「もちろんです。私は彼女に多大な恩がある……これからも彼女を大切にすると約束します」
「ウィルフレッド様……」

 堂々と胸を張って宣言するウィルフレッド様は、とても格好良くて、ドキドキが止まらない。

「かーっ、儂にこれ以上砂糖を吐かせるでない! さっさと帰らんか馬鹿者!」
「ラピア様、お世話になりました! 私、絶対に上達してウィルフレッド様を治してみせます!」
「ありがとうございました、ラピア殿」

 私達は深々と頭を下げてから、小屋を出て外に置いておいた馬車に乗りこむ。すると、少し慌てた様子のホウキが馬車に乗りこんできた。

「ラピア殿のホウキ? どうかされましたか?」
「これ、よかったら帰り道に食べてください!」

 ホウキが渡してくれたのは、小さな麻袋。そのの中には少し形の悪いクッキーが入っていた。若干焦げが目立っている。

「ご主人様が、帰り道で腹が減ってはいかんだろうって、作ってたんです! って……あっ! これは言っちゃいけないんだった! えーっとえっと……ホウキ達で作ったんでしゅ!!」
「ふふっ、そうでしたか。ありがとうございます。ラピア様にもよろしくお伝えください」
「わかりました! ご主人様はあんな感じでちょっと捻くれてますけど……また遊びに来てくださいね! きっとご主人様も喜ぶと思うので! では……さようなら!」

 ホウキはピョンッと馬車から飛び降りると、その場で何度もジャンプをして私達を見送ってくれた。

 突然来たと言うのに、最初から最後まで気を遣わせてしまった。何かしらの形でちゃんとお礼をしないといけないわ。

 まあ……ちょっぴり素直じゃないラピア様だから、嫌がる素振りを見せてくるかもしれないけどね。

「ラピア様、とっても良い人でしたね」
「ええ。聞いていた話から想像していた方とは全然違った、優しい方でした。やり方は少々手荒いですが」
「本当ですよ! ウィルフレッド様は見てないからわからないと思いますけど、目の前で偽物のウィルフレッド様が倒れた時、本当に焦っちゃって!」
「私が逆の立場だったら、私も取り乱すでしょう。でも大丈夫、私はちゃんとここにいます」

 重ねていた手で私の手を強く握りながら、微笑を浮かべるウィルフレッド様。

 本当に、ウィルフレッド様が死んでしまわなくて良かった。彼を失ったらと思うと、胸が張り裂けそうになるわ。

「ありがとうございます。あれ……ウィルフレッド様にそう言ってもらえたからかな……安心して、眠くなってきちゃいました……」
「それは奇遇ですね。私も少々眠気が……」
「まだ屋敷までは時間がかかるので、それまでお休みになられてはどうですか?」
「はい、そうさせてもらいます……」

 一緒に来てくれた使用人に答えてから、ゆっくりと瞼を閉じると、睡魔は更に強くなっていき、私はそのまま眠りについた。

 ウィルフレッド様と手を繋いだままだったからだろうか? その時は自分でも驚くくらい、ぐっすり眠れた――


 ****


■ウィルフレッド視点■

 無事に屋敷に帰ってきた俺は、エレナと別れて自室へと帰ってきた。

 さほど屋敷を離れていた訳じゃないのに、随分と屋敷を離れていたような気がするな……って、机の上に書類の山が。

「俺がいない間に、随分と仕事が溜まっているようだ」

 事情が事情だったから、これは仕方がないな。数日は誰かに会う予定は入れていなかったが、こういった書類の類は、知らないうちに溜まってしまうものだ。

「これはしばらく仕事に集中しなければいけないな……エレナ殿や、ルナと一緒の時間を増やしたいが、こればかりは仕方がない」

 エレナ殿にはたくさん世話になっているし、ルナには寂しい思いをさせてしまっている。だから、何かで返してあげたい。

 だが、今回のようにまとまった時間を確保するのは、いつになるかわかったものじゃない。今回はたまたまタイミングが良かったから、すぐに時間を取れただけだからな。

「困ったな……む? どうぞ」

 書類の山を前に腰を降ろすと、扉をノックする音が聞こえてきた。扉が開くと、そこにはエレナ殿のことを相談した、初老の使用人が立っていた。

「失礼致します。おかえりになられたと耳にしたもので」
「丁度今戻ってきたんだ」
「左様でしたか。ご挨拶と様子を見に伺わせていただいたのですが……お疲れでしょうし、今日はもうお休みになられた方がよろしいのでは?」
「いや、大丈夫だ。疲れていないよ」
「いえ、ワタクシの目は誤魔化されませんぞ。だいぶお疲れですし、また何か悩まれておりますね」

 ……まいったな。彼には本当に隠し事が出来ない。したところで、こうして一発でバレてしまう。

「疲れているのは確かだけど、ちょっと悩んでいてね」
「聖女探しが上手くいかなかったのですか?」
「そっちは問題無かったよ。ただ……」

 俺は溜息を一つしてから、エレナ殿やルナのことを話す。すると、彼はふむ……と何か思案してから、静かに口を開いた。

「なにも難しいことを考える必要は無いのではありませんか? お二人共、一緒にいてさしあげるだけで、とてもお喜びになられるかと」
「それは……そうかもしれないが」
「以前、恋には様々なやり方があるとお伝え致しましたよね? 感謝を伝える方法も同様に、色々やり方がある……大掛かりなものじゃなくても、気持ちは伝わりますよ」

 大掛かりなものじゃなくても、か……すぐには思い浮かばないが、あまり凝り固まった考えをしないで、些細なことでも良いから、二人に何かできることを考えてみよう。

 ……だが、その前にこの目の前の書類を片付けなくてはな。さて……やるとするか!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。

猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。 復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。 やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、 勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。 過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。 魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、 四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。 輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。 けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、 やがて――“本当の自分”を見つけていく――。 そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。 ※本作の章構成:  第一章:アカデミー&聖女覚醒編  第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編  第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編 ※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位) ※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。

異世界から本物の聖女が来たからと、追い出された聖女は自由に生きたい! (完結)

深月カナメ
恋愛
十歳から十八歳まで聖女として、国の為に祈り続けた、白銀の髪、グリーンの瞳、伯爵令嬢ヒーラギだった。 そんなある日、異世界から聖女ーーアリカが降臨した。一応アリカも聖女だってらしく傷を治す力を持っていた。 この世界には珍しい黒髪、黒い瞳の彼女をみて、自分を嫌っていた王子、国王陛下、王妃、騎士など周りは本物の聖女が来たと喜ぶ。 聖女で、王子の婚約者だったヒーラギは婚約破棄されてしまう。 ヒーラギは新しい聖女が現れたのなら、自分の役目は終わった、これからは美味しいものをたくさん食べて、自由に生きると決めた。

【完結】真の聖女だった私は死にました。あなたたちのせいですよ?

恋愛
聖女として国のために尽くしてきたフローラ。 しかしその力を妬むカリアによって聖女の座を奪われ、顔に傷をつけられたあげく、さらには聖女を騙った罪で追放、彼女を称えていたはずの王太子からは婚約破棄を突きつけられてしまう。 追放が正式に決まった日、絶望した彼女はふたりの目の前で死ぬことを選んだ。 フローラの亡骸は水葬されるが、奇跡的に一命を取り留めていた彼女は船に乗っていた他国の騎士団長に拾われる。 ラピスと名乗った青年はフローラを気に入って自分の屋敷に居候させる。 記憶喪失と顔の傷を抱えながらも前向きに生きるフローラを周りは愛し、やがてその愛情に応えるように彼女のほんとうの力が目覚めて……。 一方、真の聖女がいなくなった国は滅びへと向かっていた── ※小説家になろうにも投稿しています いいねやエール嬉しいです!ありがとうございます!

国に尽くして200年、追放されたので隣国の大賢者様に弟子入りしました。もう聖女はやりません。

香木陽灯
恋愛
 聖女は217歳!?  ルティシア国の聖女であるニーナは、不老不死の存在として国を200年間支えていた。  ルティシア国境のみに発生する瘴気の浄化や人々の治癒。  ニーナは毎日人々のために聖女の力を使い続けていた。  しかし、ある日突然王子に国外追放を言い渡される。  それも聖女の座を恋人に渡したいという馬鹿らしい理由で……  聖女の力を奪われ追放されたニーナは、隣国セレンテーゼ帝国の大賢者に弟子入りを決意する。 「力が使えないなら知識をつければいいわけよ」  セレンテーゼの大賢者フェルディナンドはルティシア嫌いで有名だったが、なぜかニーナには優しくて…… 「貴女の目を見れば誠実な人であることくらい分かります」  フェルディナンドのもとで暮らすことになったニーナは、大賢者の弟子として街の人々の困りごとを助けていく。  人々の信頼を勝ち取り、ついには皇帝陛下にも認められるニーナ。  一方、ルティシアでは新聖女が役目を果たせず国が荒れ始めていた。  困り果てた王子はニーナの力を借りようとするが……  ニーナを追放したルティシア、受け入れたセレンテーゼ。  それぞれが異なる問題を抱え、やがて聖女の力に翻弄され始める。  その裏には糸を引く人物がいるようで……。 ※ふんわり設定です

「異常」と言われて追放された最強聖女、隣国で超チートな癒しの力で溺愛される〜前世は過労死した介護士、今度は幸せになります〜

赤紫
恋愛
 私、リリアナは前世で介護士として過労死した後、異世界で最強の癒しの力を持つ聖女に転生しました。でも完璧すぎる治療魔法を「異常」と恐れられ、婚約者の王太子から「君の力は危険だ」と婚約破棄されて魔獣の森に追放されてしまいます。  絶望の中で瀕死の隣国王子を救ったところ、「君は最高だ!」と初めて私の力を称賛してくれました。新天地では「真の聖女」と呼ばれ、前世の介護経験も活かして疫病を根絶!魔獣との共存も実現して、国民の皆さんから「ありがとう!」の声をたくさんいただきました。  そんな時、私を捨てた元の国で災いが起こり、「戻ってきて」と懇願されたけれど——「私を捨てた国には用はありません」。  今度こそ私は、私を理解してくれる人たちと本当の幸せを掴みます!

聖女の代わりがいくらでもいるなら、私がやめても構いませんよね?

木山楽斗
恋愛
聖女であるアルメアは、無能な上司である第三王子に困っていた。 彼は、自分の評判を上げるために、部下に苛烈な業務を強いていたのである。 それを抗議しても、王子は「嫌ならやめてもらっていい。お前の代わりなどいくらでもいる」と言って、取り合ってくれない。 それなら、やめてしまおう。そう思ったアルメアは、王城を後にして、故郷に帰ることにした。 故郷に帰って来たアルメアに届いたのは、聖女の業務が崩壊したという知らせだった。 どうやら、後任の聖女は王子の要求に耐え切れず、そこから様々な業務に支障をきたしているらしい。 王子は、理解していなかったのだ。その無理な業務は、アルメアがいたからこなせていたということに。

聖女を騙った罪で追放されそうなので、聖女の真の力を教えて差し上げます

香木陽灯
恋愛
公爵令嬢フローラ・クレマンは、首筋に聖女の証である薔薇の痣がある。それを知っているのは、家族と親友のミシェルだけ。 どうして自分なのか、やりたい人がやれば良いのにと、何度思ったことか。だからミシェルに相談したの。 「私は聖女になりたくてたまらないのに!」 ミシェルに言われたあの日から、私とミシェルの二人で一人の聖女として生きてきた。 けれど、私と第一王子の婚約が決まってからミシェルとは連絡が取れなくなってしまった。 ミシェル、大丈夫かしら?私が力を使わないと、彼女は聖女として振る舞えないのに…… なんて心配していたのに。 「フローラ・クレマン!聖女の名を騙った罪で、貴様を国外追放に処す。いくら貴様が僕の婚約者だったからと言って、許すわけにはいかない。我が国の聖女は、ミシェルただ一人だ」 第一王子とミシェルに、偽の聖女を騙った罪で断罪させそうになってしまった。 本気で私を追放したいのね……でしたら私も本気を出しましょう。聖女の真の力を教えて差し上げます。

【完結】期間限定聖女ですから、婚約なんて致しません

との
恋愛
第17回恋愛大賞、12位ありがとうございました。そして、奨励賞まで⋯⋯応援してくださった方々皆様に心からの感謝を🤗 「貴様とは婚約破棄だ!」⋯⋯な〜んて、聞き飽きたぁぁ! あちこちでよく見かける『使い古された感のある婚約破棄』騒動が、目の前ではじまったけど、勘違いも甚だしい王子に笑いが止まらない。 断罪劇? いや、珍喜劇だね。 魔力持ちが産まれなくて危機感を募らせた王国から、多くの魔法士が産まれ続ける聖王国にお願いレターが届いて⋯⋯。 留学生として王国にやって来た『婚約者候補』チームのリーダーをしているのは、私ロクサーナ・バーラム。 私はただの引率者で、本当の任務は別だからね。婚約者でも候補でもないのに、珍喜劇の中心人物になってるのは何で? 治癒魔法の使える女性を婚約者にしたい? 隣にいるレベッカはささくれを治せればラッキーな治癒魔法しか使えないけど良いのかな? 聖女に聖女見習い、魔法士に魔法士見習い。私達は国内だけでなく、魔法で外貨も稼いでいる⋯⋯国でも稼ぎ頭の集団です。 我が国で言う聖女って職種だからね、清廉潔白、献身⋯⋯いやいや、ないわ〜。だって魔物の討伐とか行くし? 殺るし? 面倒事はお断りして、さっさと帰るぞぉぉ。 訳あって、『期間限定銭ゲバ聖女⋯⋯ちょくちょく戦闘狂』やってます。いつもそばにいる子達をモフモフ出来るまで頑張りま〜す。 ーーーーーー ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。 完結まで予約投稿済み R15は念の為・・

処理中です...