【完結済】逆恨みで婚約破棄をされて虐待されていたおちこぼれ聖女、隣国のおちぶれた侯爵家の当主様に助けられたので、恩返しをするために奮闘する

ゆうき

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第四十二話 私の願い、みんなの願い

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「……?」

 アーロイの魔法を前にして、私は強くまぶたを閉じてしまったが、いつまでたってもなにも起こらないし、体もどこも痛くない。

 おかしい、確かに私はアーロイの魔法を受けたはずだ。あんな規模の魔法を生身で受けたら、痛いどころか即死してもおかしくない。

 も、もしかして本当に即死してて、痛みを感じる暇もなかったとか……? とにかく、自分で見て確認すればわかることよね。

「……えっ……?」

 ゆっくりとまぶたをあげると、そこには先程まで倒れていたはずのウィルフレッド様が悠然と立ち、アーロイの雷を剣で受け止めていた。

 あまりにも突然のことすぎて、頭の整理が追い付かない。

 どうして、さっきまで倒れていたウィルフレッド様が、何事もなかったかのように立っているの?

 どうして、あれだけすごい雷を剣だけで受け止められるの?

 どうして――あなたは一人で立ち上がり、両手で剣を持てているの……?

「エレナ殿、怪我はないか?」
「は、はい……あの、あの……?」
「それならよかった。俺のことは心配するな」

 いつもの丁寧な口調は鳴りを潜め、頼もしさと神々しさすら感じるウィルフレッド様に、私は間抜けな声を出すことしか出来なかった。

「まさか、あの傷が癒えたというのか!? それに、動かなくなった体を治すなんて、あんな無能に出来るはずが……!」
「アーロイ殿、随分と俺の大切なエレナ殿を罵り、いたぶってくれたな。その罪は重い」

 ウィルフレッド様は、聞いてるこちらの背筋が凍ってしまうのではないかと思うほど冷たい声で、ゆっくりと歩く。

 ……歩く? え、ウィルフレッド様は体が不自由なはずなのに、普通に歩けている?

 もしかして、ウィルフレッド様の体が治った? 私の回復魔法が……ついに成功したの? え、えぇ??

「体が多少動くようになったからって、あまり調子に――」
「本当に、うるさい口だ」

 アーロイが魔力を杖に溜めようとした一瞬に、ウィルフレッド様はアーロイの懐に潜り込むと、剣を横に振り抜く……が、寸前の所でアーロイは後ろに下がって剣を避けた。

「貴様ぁ……! このボクに尻餅をつかせるとは……!」

 避けるのに必死だったようで、尻餅をついてしまったアーロイは、怒りの形相で魔法陣を大量に展開し、四方八方に光弾を飛ばし始めた。

 さっきの雷に比べれば、一個の威力はさほどじゃないかもしれないけど、あんなにたくさん当たったら、致命傷は避けられないだろうし、そもそも避けるの自体が困難を極めている。

「エレナ殿はそこで安心して見ていてくれ」

 ウィルフレッド様は、一瞬だけフッと笑った顔を私に見せてから、その場から姿を消す。それから間もなく、光弾達は端から順番に真っ二つに切られ、光の粒子となって消えていった。

 これって、ウィルフレッド様がやっているのよね? まるでウィルフレッド様の方が光になったかのように、一瞬で移動しているように見えるわ。

 これがウィルフレッド様の本当の力なの……? 何かの魔法を使っているのだろうけど、あまりにも桁外れの強さだ。

「馬鹿な……!? なんだその動きは! 一体何の魔法だ!?」
「俺の使える魔法は一つのみ。ただ身体能力を強化するだけだ」
「身体強化!? ふざけるな、その程度の魔法で、ボクの雷を防ぐなど……!」
「どんな物にも弱点は存在する。それを瞬時に見極め、力が発揮される前に切ればさほど脅威ではない。まあ、先程の雷は全てを防ぎきれなかったから、俺の体を盾にしてある程度は防いだが」

 い、言っていることの次元がおかしすぎないかしら? 一瞬で弱点を見つけて、そこに的確に攻撃する? しかも雷が相手よ? 凄すぎて、言葉が出ないわ。

「ふざけるな! その程度の魔法と、剣一本でボクの魔法が破られるはずもない! 岩よ、奴を貫け!!」

 焦りを含めた大きな声をあげながら、杖を地面に突き刺すと、私よりも大きな尖った岩がいくつも地面から突き出し、ウィルフレッド様を襲う。

 しかし、その岩は一瞬にして切られ、砂のようになってどこかに飛んでいってしまった。

「何をしても無駄だ。どんなものでも、全力の俺に斬れないものは無い」
「な、ならこれだ!」

 今度は青い魔法陣をウィルフレッド様の足元に作る。すると、ウィルフレッド様は大きな泡の中に閉じ込められた。

「まだだっ! くらえ!!」
「ぐっ……!?」

 アーロイは杖を持っていない手の先に紫色の魔法陣を作ると、そこから雷をウィルフレッド様に向けて放つ。

 雷は泡に吸収されて、閉じ込められているウィルフレッド様を痺れさせていた。さすがのウィルフレッド様も、辛そうな表情を浮かべている。

 だが、それもほんの数秒だけだった。なんと、ウィルフレッド様は泡の中から剣を振り、泡を真っ二つに切ってしまった。

「くそっ……これがエクウェス家の力ということか……!」
「先祖代々から伝わる剣技と、積み重ねた鍛錬は裏切らない。もう勝ち目はない……大人しく俺の剣の錆になれ」
「くそっ……くそっ! こんな所で死んでたまるか!!」
「あの魔法陣は……逃がさない!!」

 私にはわからないけど、ウィルフレッド様は何か感じたのだろう。急いでアーロイに向かって飛び掛かったけど、たどり着く前にアーロイの姿はどこにも無くなっていた。

 今のは、転移魔法……? 実際に見たのは初めてだけど、あんな一瞬で消えてしまうのね。

「……逃げられたか。いや、皆が無事ならそれでいいか……エレナ殿、大丈夫ですか?」
「……ウィルフレッド様……」

 私の元に戻ってきたウィルフレッド様は、いつもの柔らかい物腰に戻っていた。いつもと違うのは、自分の足で立ち、自分の足で歩いていることだ。私の肩に乗った手も、動かなかったはずの右手だ。

 服も血だらけでボロボロだけど、本人に怪我は一つもない。本当に……治ったんだ……!

「無事なら良かった。ところでルナは? 他の皆は……」
「ウィルフレッド様!!」
「え、エレナ殿!? いけません、今の私は血で汚れてますし、ビショビショで――」
「よ、良かった……あなたが生きてて……体が治って……本当に良かった……!」
「エレナ殿……」

 ウィルフレッド様が無事に回復し、一人で動けるようになった。私の願いが……いえ、みんなの願いが叶ったのが嬉しくて、私はウィルフレッド様の胸の中で涙を流した。

 ああ、本当に良かった。もうそれしか思えない。感情が高ぶり過ぎると、簡単なことしか考えられなくなるのね……。

「ああ、やっとあなたを両手で抱きしめられた。やっと両の目であなたを見れた。あなたの温もりを……全身で感じられた」

 私を抱きしめる力が、更に強くなったのを感じる。それに応えるように、私もウィルフレッド様の背中に回す腕に力を込めた。

「それで、他の人達は?」
「え、えっと……ルナちゃんは疲れて寝ちゃってるだけですけど……ウンディーネさんが……!」

 ウィルフレッド様の言葉で我に返った私は、一緒にウンディーネさんの元に行く。ぐったりとしているが、息はあるようだ。

「エレナ……」
「ウンディーネさん、大丈夫ですか! 今すぐ手当てを……!」
「いえ、それは不要です……私は精霊。少し眠りについて魔力を回復すれば……元通りになります」
「で、でも……」

 そう言われても、やはり心配なことに変わりない。意味が無いかもしれないけど、残った魔力で回復魔法を――

「私はいいです。それよりも……ウィルフレッドが普通に立っていますが……」
「皆のおかげで、私の怪我は無事に治りました。本当に、ありがとうございます」
「そうでしたか、それは本当に良かった……」
「え、ウンディーネさん……体が段々透明に……」
「しばらく休むだけですよ。眠る前に……あなた達にしっかりと恩返しが出来てよかった。いつか、どこかでまたお会いしましょう」

 別れの言葉を残して、ウンディーネさんも他の精霊達と同じように、姿を消していった。

 せっかく知り合えたのに、こんな別れは悲しい。でも、死んじゃったわけじゃないんだから、いつかきっとまた会えるわよね。

「本当にありがとう、ウンディーネ殿……さあ、ここでこうしていても仕方がありません。早く皆の所に戻りましょう」
「そうですね。もう戦わなくていいって伝えないと!」

 私はルナちゃんを背負ったウィルフレッド様と一緒に、森の出口へと向かって走り出す。

 色々あったけど、あとは私達を行かせるために、アーロイの兵を足止めしている使用人達と合流して帰るだけだ。みんな、無事でいて!
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