全てを捨てた私に残ったもの

みおな

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 私は階段を降りながら、手すりを拭き始めた。

 メイリンさんにお願いしてから三日後、ルヒト様から無理のない程度ならお掃除をしても良いという許可がおりた。

 お借りしているワンピースでは汚したら困るから、侍女の着るお仕着せをお借りしている。

 さすが筆頭公爵家のお仕着せ。
生地自体が、私が持っているドレスよりも高級品だわ。

 食事も美味しいし、お風呂は一人で入れますからってマッサージとかお断りしてるけど、石鹸や洗髪剤もいい香りがして高級感がある。

 私、ここで働かせてもらいたいな。

 お給料はそんな高くなくて良いから、住み込みとか駄目かな。

「アンリ」

 そんなことを考えていたからか、急にかけられた声に、階段を踏み外してしまった。

「きゃっ!」

「危ない!」

 急いで手すりに掴まったけど、雑巾を持っていたために滑ってしまう。

 落ちるのはいいけど、どうか壺とかに当たりませんように!

 そう思っていた私は、そのまま力強い腕に抱き止められていた。

「・・・え、あ・・・」

「大丈夫かね?ルヒト、急に声をかけるんじゃない。危ないだろう」

「すみません、父上。アンリ、大丈夫だったかい?ごめんね」

 私はおそるおそる、私を支えてくれている方を見上げた。

 艶やかな金髪に青い瞳。
ルヒト様と同じ色彩の、おそらくルヒト様がお年を召されたらこんな感じになられるんだろうなって思える男性が私を見下ろしていた。

 今、ルヒト様・・・父上って言った?

 ま、まさか・・・

「しっ、失礼しました!」

「いや、急に声をかけたルヒトが悪い。怪我はないかな?」

「はっ、はい!ありません」

 緊張している私の肩を軽く叩くと、公爵様はルヒト様を振り返った。

「応接室で話すか。すまないが、メイリンにお茶を応接室に持ってくるように伝えてもらえるかな?」

「はい、かしこまりました」

 私が頭を下げて見送ると、ルヒト様と公爵様はそのまま立ち去られた。

 私は急いでメイリンさんの元へと向かう。

「応接室ですね。少し早いですけど、アンリ様は休憩に入られて下さい」

「わかりました」

 ルヒト様は私がお手伝いすることを認めて下さったけど、他家の者が公爵家で手伝いをしてるなんて公爵様に叱られてしまう可能性があるものね。

 お世話になっていることもあるし、ルヒト様にこれ以上ご迷惑をおかけしたくなかった。

 お仕着せを借りて着ていたことで、きっと公爵様は私を侍女のひとりだと思われたことだろう。

 私は、お借りしている部屋へと下がることにした。



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