聖女の地位も婚約者も全て差し上げます〜LV∞の聖女は冒険者になるらしい〜

みおな

文字の大きさ
8 / 134

しおりを挟む
 私の大切なクロ。

 クロがいてくれたから、私は彼女がいなくなった寂しさを我慢できた。

 最初からいなければ寂しさも感じずに済んだのに、一旦知ってしまった温もりを手放すことは出来なかった。

 それに、あんなに小さくて可愛い存在を傷つけるなんて許せない。

 どんな報復にするか、クロを助けてからずっと考えていた。

 この世界には呪い、呪術というものがある。

 でも『人を呪わば穴二つ』だ。

 人を害すると密かにやったつもりでも、同じ仕打ちにあうことを覚悟しなければならない。

 だから、私はクロを傷つけた誰かを呪ったりはしない。

 そもそも、私には呪術の知識がない。

 聖女としての務めが忙しかったのもあるが、興味がなかったので調べようとも思わなかった。

 私がやるのは、使える魔法を駆使して、クロを傷つけた誰かが自滅するように罠をはることだ。

 私に恨みがあるのか、それとも自分より弱いものを甚振る性格なのかは知らないが、後悔してもらおう。

 幻覚魔法を使って、クロの幻覚を作る。

 ああいう手合いは同じことを繰り返すから、クロの姿を見たら再び傷つけようとするだろう。

 その幻覚に危害を加えたら、同じことが傷つけた人間に跳ね返るように仕組む。

 倍返しにするか迷ったけど、自分のしたことを理解してもらうためにも等価にすることにした。

 腕を折れば同じように骨折し、切りつければ同じように傷を負うように。

 もしもクロが死んでいたら、と思うと許すという選択肢はなかった、

 私は聖女としての力をなくすとしても、絶対に報復する。

 だから、この罠の過程で相手が死ぬようなことがあっても、後悔なんてしない。

 まだ私自身に向かって来られた方が、何倍もマシだ。

 懐の中で眠っているクロをそっと撫でる。

 そろそろ出て行こう。
クロが懐から落ちないように、しっかりと抱き上げた。

 高速移動の呪文を唱える。

 この呪文は、魔力の消費が激しいがその分、魔力切れにならない限り持続できる。

 騎馬並みの速さで走れるのと、山を登るのも疲れたりしないので、二日もあればカルディア帝国に着くだろう。

 帝都に入るのには入国証がいるらしいので、まずは国境付近の町で冒険者登録をするつもりだ。

 冒険者ギルドは各国にあり、全て繋がっているのだが、シンクレア王国王都には冒険者ギルドがない。

 というのも、シンクレアの王都は聖女の結界で魔物は入ることが出来ないからだ。

 しかもポーションの作成も聖女がしているため、ギルドへの依頼が王都ではほとんどないのだ。

 もっとも、私がいなくなればギルドが必要になる。

 一週間で結界に綻びが出来始め、一ヶ月たたないうちに結界は消えてしまうだろうから。


 


 
しおりを挟む
感想 109

あなたにおすすめの小説

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

愚かな者たちは国を滅ぼす【完結】

春の小径
ファンタジー
婚約破棄から始まる国の崩壊 『知らなかったから許される』なんて思わないでください。 それ自体、罪ですよ。 ⭐︎他社でも公開します

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜

AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。 そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。 さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。 しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。 それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。 だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。 そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

投獄された聖女は祈るのをやめ、自由を満喫している。

七辻ゆゆ
ファンタジー
「偽聖女リーリエ、おまえとの婚約を破棄する。衛兵、偽聖女を地下牢に入れよ!」  リーリエは喜んだ。 「じゆ……、じゆう……自由だわ……!」  もう教会で一日中祈り続けなくてもいいのだ。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~

白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。 王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。 彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。 #表紙絵は、もふ様に描いていただきました。 #エブリスタにて連載しました。

処理中です...