聖女の地位も婚約者も全て差し上げます〜LV∞の聖女は冒険者になるらしい〜

みおな

文字の大きさ
7 / 134

守るべき家族

しおりを挟む
 この黒猫の名前は、クロと言う。

 ネーミングセンスがないのは分かっているので、白けた目で見ないで欲しい。

 私とクロが出会ったのは、つい半年前だ。

 私は元々が孤児だったから、教会にいるのも孤児院にいるのも生活は大差なかった。

 三歳の頃から教会にいて、結界を張るのもポーションを作るのも当たり前と教えられて来たから、それに違和感を抱き出したのは最近だ。

 それに、私にはずっと親しくしていた平民の聖女がいた。

 私が言うことを聞かないと、彼女が責められたから。

 私ひとりなら、こんな国簡単に逃げることが出来たけど、友人の彼女を見捨てることは出来なかった。

 私がいなくなれば、結界の維持やポーション作りで、下位貴族や平民の聖女は、寝る間すら惜しんで働かなければならない。

 それが分かっていて、出て行くことは出来なかった。

 家族もいなくて、聖女と呼ばれていても便利のいい『金のなる木』としか見られていなかった私にとって、彼女は姉みたいなものだった。

 だけど、半年前。
彼女は突然、聖女をやめて親元に帰ってしまった。

 さよならすら言えなかった。

 親元に帰ったと、他の平民の聖女から聞いたのだ。

 何故、何も言ってくれなかったのか。
私にはわからない。

 親しくしていると思っていた。
でも、下位貴族の聖女が言うように、孤児で貴族令嬢でもない私が、王太子の婚約者だということに、本当は腹を立てていたのかもしれない。

 下位貴族の聖女や平民の聖女と、全く会話をしないわけではない。

 でも、陰口は叩かれていたのは知っている。

 彼女がいなくなった日から、私は本当にひとりぼっちになった。

 そんなある日、教会の裏庭で見つけたのがクロだった。

 親に見捨てられたのか、今にも死にそうな子猫は、私にとって唯一の家族となった。

 餌を与え、癒しの魔法をかけ、大切に大切に育てた。

 クロは私が聖女としての務めをしている間は、部屋で大人しく眠っていた。

 クロの存在は、誰にも知られていないはずだった。

 だけどあの婚約破棄の前日。

 部屋に戻った私が見たのは、傷だらけで息も絶え絶えのクロだった。

 クロは警戒心が強い。
私以外の人が部屋に入って来たなら、すぐに隠れようとするはずだ。

 それなのに、クロの毛は血だらけで、動くことさえできないみたいだった。

 この時ほど、聖女であって良かったと思ったことはない。

 治癒魔法をかけ、他人から見えないように隠蔽魔法をかけて懐に入れた。

 治癒魔法で傷は回復するが、失われた血は戻らない。

 ゆっくりと時間をかけて、体が回復するのを待つしかない。

 目覚めないクロを抱きしめ、犯人に対する罠を仕掛けた。
しおりを挟む
感想 109

あなたにおすすめの小説

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

愚かな者たちは国を滅ぼす【完結】

春の小径
ファンタジー
婚約破棄から始まる国の崩壊 『知らなかったから許される』なんて思わないでください。 それ自体、罪ですよ。 ⭐︎他社でも公開します

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜

AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。 そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。 さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。 しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。 それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。 だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。 そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

投獄された聖女は祈るのをやめ、自由を満喫している。

七辻ゆゆ
ファンタジー
「偽聖女リーリエ、おまえとの婚約を破棄する。衛兵、偽聖女を地下牢に入れよ!」  リーリエは喜んだ。 「じゆ……、じゆう……自由だわ……!」  もう教会で一日中祈り続けなくてもいいのだ。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている

潮海璃月
ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。

処理中です...