「殿下、人違いです」どうぞヒロインのところへ行って下さい

みおな

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悪役令嬢回避編

目覚め

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 ゆっくりと意識が上昇していく。そんな気がした。

 右の頬が温かい。
まるで誰かが触れてくれているみたい。
気持ち良くて、スリっとその温かさに頬擦りしたら、がびくりと震えた。

 ん?これ、本当に誰かの手だったりするの?

 疑問に思って、一気に目を開いたら、至近距離にマリウス殿下の顔があった。

 まるでキスでもしそうな距離感に、顔に一気に血がのぼる。

「ま、ま、ま、マリ様!!な、何を・・・」

「アニエス?アニエス、気が付いたのか?よ、良かった。本当に良かった」

 その距離の近さと、何をしようとしていたのかを問い詰めようとしていた私は、安堵に目を潤ませ、涙声で私に抱きついてきたマリウス殿下を呆然と見つめるしか出来なかった。

 アニエスが言ってた・・・
私の手を握りしめて悲しんでるマリウス殿下って。
 ずっと、そばにいてくれたんだ。
こんなに心配していてくれたんだ。

「マリ・・・様」

「目覚めないのではないかと、いや、信じていたけれど、それでも怖かった。アニエスがいなくなるのではないかと思うと、怖くて仕方なかった。アニエス。君が僕のことを好きでなくても、僕はもう君を手放してあげられない。君でなくては駄目なんだ。お願いだから、どこにも行かないで欲しい」

「わた・・・しは・・・」

「1ヶ月も眠ったままで、声がかれてしまったね。今、医師と飲み物を頼むから、少し待って」

 は?1ヶ月?
ええと、アニエスと話したの、ほんの少しの時間だよ?それなのに、1ヶ月も私、眠ってたの?

 そりゃ、心配するわ。
マリウス殿下、顔色が悪い。

「アニエス?」

「マリさ・・・ま。顔色が悪い・・・です」

「大丈夫だよ。それより喉が痛いだろう?すぐに医師を呼ぶから、もう黙って」

 全然、大丈夫そうに見えない。
確かに喉は痛いけど、みんなが来る前に、殿下と話しておきたい。

「いか・・・ないで」

「どうしたの?すぐに戻るよ」

「マリ様・・・に、お話が、あり・・・ます」

「話?」

 宥めるように、袖を掴んだ私の手を、ポンポンと叩いていたマリウス殿下は、私の言葉に、少し顔をこわばらせた。

 あ。これ、悪い方に考えてるんだろうな、きっと。

 今までの自分の態度から考えても、そう思われても仕方ない。

 でも、アニエスと約束したんだから。
ちゃんと素直になるって。年齢とか、乙女ゲームとか、ラノベとか、そんなこと全部取っ払って、自分の気持ちだけと向き合うって。

「マリ様・・・あの・・・」

 くっ。情けないな、自分。アラサーだと、いや違う。前世は関係ないんだ。私は私で、今13歳のリリウム公爵令嬢で、王太子殿下の婚約者なんだ。

「マリウス・ハイドランジア王太子殿下」

「・・・」

「わたくし・・・いえ、私はあなたのことが好きです」
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