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聖女覚醒編
あなたの罪は
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押さえつけられているチェリー嬢に、ゆっくりと近づく。
マリウスは、私を止めようとして伸ばしかけた手を、一瞬躊躇して、それから元へ戻した。
危険なことには、近付いて欲しくないのだろう。
だけど、私がどれほどマリアを心配していたか知っているから・・・
私も、拘束されていない彼女に近付くほど無鉄砲にはなれない。
多分、この世界に転生したばかりの頃の私なら、そんなことなど気にせずに、無鉄砲な行動をしただろう。
今の私は、どれだけ周囲の人間が、私のことを大切にしてくれているのかを知っている。
私が不用意に怪我でもすれば、マリウスも、家族も、それからマリアも心を痛めるだろう。
だから私は、自分を大切にしないといけない。
それは理解しているけど、目の前で拘束されているチェリーに対する怒りが、どうしてもおさまらなかった。
あと、ほんの少しカイが遅かったら・・・
マリアの命は消えてしまっていたのだから。
カイのあの傷は、マリアが舌を噛もうとしていたのを防ぐために、咄嗟に口の中に指を差し込んだから。
実行犯たちは、チェリーからマリアを殺すように指示されていたそうだ。
だが、彼らはチェリーから渡された報酬だけでは満足せず、マリアを他国へと『商品』として売り渡すことにした。
商品。
このハイドランジア王国には、娼館はない。それは、国王陛下と王妃様がこの国の暗部と呼ばれる部分をなくそうと、努力されてきたからだ。
私が侍従にしたカイも、浮浪児だった。
それでもカイに聞くと、この国は本当に孤児に優しいのだそうだ。
食べ物や寝る場所に困らないように、手が差し伸べられ、働けるように文字や計算を教えられる。
貴族と平民、その格差が大きければ大きいほど、国の暗部は大きくなる。
飢えから、盗みに手を染める子供。
売られたり、また自らお金のために、その体を売るしかない女性たち。
陛下たちは即位されてから、それらを一掃するために、弛まない努力をされてきたのだろう。
だから、この国には娼館はない。
路上で餓死する子供もいない。
だけど人がいる限り、争いが起きることはあるし、罪に手を染める人間もいる。
この国の、犯罪に対する処罰は厳しいものだ。
実行犯たちは、他国から流れてきた者らしいから、おそらくは知らなかったのだろう。
だけど、目の前のチェリーは?
転生したばかりだとしても、学園に入学して1番最初に学ぶのが、この国の歴史と司法である。
実行犯でないからと、許されることではないのだ。
それを理解していない彼女の耳元で、私は呟いた。
「ここは乙女ゲームの世界ではないの。わかるかしら?ヒロインもどきさん」
マリウスは、私を止めようとして伸ばしかけた手を、一瞬躊躇して、それから元へ戻した。
危険なことには、近付いて欲しくないのだろう。
だけど、私がどれほどマリアを心配していたか知っているから・・・
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多分、この世界に転生したばかりの頃の私なら、そんなことなど気にせずに、無鉄砲な行動をしただろう。
今の私は、どれだけ周囲の人間が、私のことを大切にしてくれているのかを知っている。
私が不用意に怪我でもすれば、マリウスも、家族も、それからマリアも心を痛めるだろう。
だから私は、自分を大切にしないといけない。
それは理解しているけど、目の前で拘束されているチェリーに対する怒りが、どうしてもおさまらなかった。
あと、ほんの少しカイが遅かったら・・・
マリアの命は消えてしまっていたのだから。
カイのあの傷は、マリアが舌を噛もうとしていたのを防ぐために、咄嗟に口の中に指を差し込んだから。
実行犯たちは、チェリーからマリアを殺すように指示されていたそうだ。
だが、彼らはチェリーから渡された報酬だけでは満足せず、マリアを他国へと『商品』として売り渡すことにした。
商品。
このハイドランジア王国には、娼館はない。それは、国王陛下と王妃様がこの国の暗部と呼ばれる部分をなくそうと、努力されてきたからだ。
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それでもカイに聞くと、この国は本当に孤児に優しいのだそうだ。
食べ物や寝る場所に困らないように、手が差し伸べられ、働けるように文字や計算を教えられる。
貴族と平民、その格差が大きければ大きいほど、国の暗部は大きくなる。
飢えから、盗みに手を染める子供。
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だから、この国には娼館はない。
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だけど人がいる限り、争いが起きることはあるし、罪に手を染める人間もいる。
この国の、犯罪に対する処罰は厳しいものだ。
実行犯たちは、他国から流れてきた者らしいから、おそらくは知らなかったのだろう。
だけど、目の前のチェリーは?
転生したばかりだとしても、学園に入学して1番最初に学ぶのが、この国の歴史と司法である。
実行犯でないからと、許されることではないのだ。
それを理解していない彼女の耳元で、私は呟いた。
「ここは乙女ゲームの世界ではないの。わかるかしら?ヒロインもどきさん」
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