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最終話:私がそばにいたい人④〜ライアン視点〜

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「アナ。お茶にしないか?」

 今日の王太子妃教育を終えた様子の婚約者に声をかける。

 アナ・オフリー男爵令嬢と婚約者になって一年がたった。

 元平民で下位貴族の彼女には大変だろうが、泣き言一つ言わずに頑張ってくれている。

 母上からも、教育後は二人でお茶をしたり出かけるなどして、気晴らしをさせるようにと言われている。

 ルーナ・フィオレンサ公爵令嬢がいなくなった日から、母上は変わった。

 かつての母上は、何度ルーナ嬢とは婚約しないと言っても聞こうとしなかった。

 このままではアナに何かするかもしれないと、父上とも話し合い、幽閉することまで考えた。

 彼女は、規格外の存在だ。

 全魔法使いで、魔力量も桁違いに多い。

 だから、母上が王家に取り込みたいと考えたこと自体は、間違いではない。

 だけど、彼女が僕をそういう目で見たことは一度もない。

 これでも一応、身分は王子だし、容姿だって母上に似て悪くないと思うのだが。

 彼女は誰とでも、分け隔てなく接する。
だけど、僕や僕の側近であるアレックスやダグラスには近付こうとしない。

 そのうち、僕の双子の妹であるリリアナもルーナ嬢たちと一緒にいるようになった。

 リリアナに笑顔が戻って来た頃、僕はクラスの中で孤立しがちになった。

 そんな僕に、魔法学の課題のペアにならないかと声をかけて来たのがアナだった。

 平民から男爵令嬢になった彼女は、聖女と呼ばれる存在だ。

 稀少な聖魔法使いのアナ。

 僕の従兄弟であるセドリックは、神官長である叔父上の息子だ。

 セドリックに婚約者がいなければ、きっとアナ嬢を婚約者にと望んだことだろう。

 それほどまでに、アナは素敵な女性だ。

 聖女という身分に胡座をかくことなく、身分をわきまえた言動をとる。

 自分は元平民だと、慎ましやかでありながら、必要なことはハッキリと口にする。

 努力家で、高位貴族に見劣りしないマナーを身につけている。

 彼女に惹かれない要素がない。
現に僕も、アナに惹かれてしまった。

 だが母上は・・・ルーナ嬢以外を認めない。

 父上はアナ嬢を認めてくれているし、アナ嬢も母上が認めてくれるまで頑張ると言ってくれた。

 僕と父上は、母上の幽閉を真剣に考えた。

 そして、決行の一週間前。

 ルーナ嬢がこの国から出て行った。
友人や両親に手紙一枚残して。

 その日から母上が変わった。
いや、元の母上に戻ったというべきか。

 母上は決して愚かな方ではない。
王妃としての公務もキチンとされていた。

 ルーナ嬢のことさえなければ、少々僕に甘い母親、だったのだ。

 今の母上は、アナのことを本当の娘のように可愛がってくれているし、リリアナのことも可愛がって、逆に僕と父上が除け者にされている状態だ。

 多分・・・
いや、きっとルーナ嬢が何か話をしてくれたんだろう。

 彼女は今頃、好きな人と二人でこの空を見上げているのだろうか。

 帰って来た彼女に叱責されないよう、僕は王太子として頑張らねば。

 目の前の愛しい婚約者の笑顔に、僕にも笑みが浮かんだ。
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