転生モブは分岐点に立つ〜悪役令嬢かヒロインか、それが問題だ!〜

みおな

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侍従、感謝する。

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 何度も、その柔らかく甘やかな唇を堪能する。

 ここは学園の救護室だと頭の中では分かっているのに、やめられない。
 誰よりも愛する相手から「離れないで」と言われて、我慢できるわけがない。

 繰り返す口付けに、アイル様の顔が赤く、そして蕩けていく。

 歯止めが効かなくなってしまう。
回された手が背中を叩くのに気付いて、ゆっくりと顔を上げる。
 アイル様が目を潤ませて俺を見上げていた。

「シキ、苦しい」

「すみません・・・」

 ローラン伯爵夫妻も事情をご理解してくれているから、アイル様の記憶が戻ったのなら婚約者になれるだろうが、婚約していないご令嬢相手に失敗した。

 周囲からみれば、アイル様は身持ちが悪いと思われてしまう。

 俺は枕元の椅子へと戻ると、アイル様の右手を握った。

「アイル様、本当に記憶が?」

「これが正解なのかわからないけど、思い出したと思うの。私、カレリア様をラトビア様から守ろうとして斬られたのよね。ラトビア様は、ティアラ・プルメリア様から剣を受け取ってた。そうよね?」

 アイル様は、あの時のことを淡々と語る。恐怖はないのだろうか?
 握った手に力が入る。

「あの後、すぐに時間を戻してくれたの?」

「はい」

「あの2人には、巻き戻りの記憶は?」

「ないはずです。巻き戻りの直接対象であるアイル様とあの2人は、忘れてしまうはずなのです。ただ、アイル様のように思い出す可能性はあるかもしれません」

 巻き戻しには、色々と制約がある。
当事者の記憶の喪失もそのひとつだ。

 アイル様の記憶が戻ったように、あの2人の記憶も戻るかもしれない。

 まぁ、戻ったからといって、あの愚行が治るとは思えないが。
 だからこそ、周囲の記憶は残っているのだと、我々は思っている。

「私が思い出したのは、神様とお会いしたからだわ。神様がね、私の幸せのために思い出すようにして下さったのだと思うの。あの2人に神様が手を差し伸べるとは思えないわ。少なくとも、私がお会いした神様はなさらないわね」

「神様、ですか」

「そうよ。信じない?」

 悪戯な表情を浮かべたアイル様に、俺は首を横に振った。

 俺が、アイル様のお言葉を疑うことなんてあり得ない。
 そして、それがもしも夢の中のことだとしても、俺はその神に感謝する。

 アイル様の記憶を、呼び戻して下さったことを、心から感謝する。

 忘れていても、これから時間をかけるつもりではいた。
 だけど、他の誰かを好きになってしまう可能性もあったのだ。

 だから。
心から、感謝する。俺に、アイル様を返してくれて、ありがとうございます。
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