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イレギュラーな転校生

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 その、ピンク色の髪を見た時、私は首を傾げた。

 花乙のゲームで転校生なんていなかった。もしかして、私が死んだ後に続編が出たり、本になったりしたの?
 攻略キャラが記憶と全く同じだから、続編ではないか。なら、アニメとか本とかかな。

 転校生なんて、いかにも主人公っぽいんだけど。しかも、あのピンク!あれ、実際に見ると、目が痛いわ。

「リリー・ナーシサスです」

 にっこりと微笑みかけるリリー嬢に、教室の男子は色めき立つ。
 ふわふわのピンクの髪に、ピンクの瞳。小柄な体に、ピンク色の唇。
 庇護欲をかきたてる・・・のかもしれないが、いやいや、フローラの可憐さに比べたら月とスッポンだろう。
 大体、フローラは来年には聖女として認定されるのだ。稀有な存在、それがヒロインであるフローラなのだから。

 そんなことを考えながら、リリー嬢を見ていると、彼女はピタリとその視線を止めた。見ているのは・・・ソル?

 リリー嬢はうっとりとした顔で、ジッとソルを見ている。まぁ、ソルは超美形だからね。

 授業そっちのけで、ずっとソルを見ているリリー嬢の様子に、気にはなるものの関わりたくないので、私は授業に集中することにした。

 そして、昼休みー

「リアナ!」

 女子生徒の黄色い悲鳴が聞こえ、私を呼ぶ声に顔をあげる。
 攻略対象全員と顔合わせが終わった翌日から、お昼にはシオンが教室まで迎えに来るようになっていた。そして、毎回この現象が起こっていたのだが・・・

 今日はひと味違った。
こともあろうに、攻略対象者全員がそこにいたのだ。
 いや、何で?
もうシスコンのシオンは仕方ないとして、ハロルドもジェイムスもイリアスもフローラと先に行けばいいじゃない。
 いや、フローラが来るから彼らも来るの?だけど、フローラは天使だからなぁ。きっと、聖女の優しさで私を迎えに来てくれてるんだよね。なら、仕方ないのかなぁ・・・

「あのっ!私、今日転校してきたリリーと言います!」

 突然、後ろから突き飛ばすようにぶつかられ、体がよろめいた。すぐさま、ソルが抱き止めてくれる。

「大丈夫ですか?」

「うん。ありがとう」

「あの、お名前伺ってもいいですか?」

 私のことなどそっちのけでシオンに話しかけているリリー嬢に、ハロルドが苦々しく口を開いた。

「そんなことより、ぶつかったことを謝ったらどうだ?」

「え?ええと・・・」

「礼儀知らずにも程があるね。姫君を突き飛ばすなんて」

「転入を取り消したほうがいいんじゃないか?」

 ジェイムスとイリアスまで、苦々しくリリー嬢を見ている。シオンに至っては、全くリリー嬢と視線を合わせようとしない。いつも笑顔のシオンが、無表情になっている。

「大丈夫ですか?リアナ様。お昼に行きましょう?」

「ありがとうございます、フローラ様。お兄様、参りましょう?」

 何か空気が凍りそうだし、ここはさっさと退散するに限るわよね。シオンの腕に触れて顔を見上げると、ようやく私を見て微笑んだ。

「僕の可愛いリアナ。怪我はなかったかい?」

「大丈夫ですわ。ソルがいてくれますもの」

 そう。ソルは私を暗殺するけど、護衛としてちゃんと守ってくれている。

「そうだな。ソル、リアナから離れるなよ」

「わかっております」

「ちょっ・・・ちょっと」

 私に伸ばされる手から守るように、ソルが私の背に手を当てて、教室から出るように促した。

「あのっ!待って下さいっ!」

 リリー嬢の声に、全員が振り返り、シオンが初めて口を開いた。

「2度と話しかけないでもらおうか。次に愛しいリアナに危害を加えたらタダではおかない」

「っ・・!」

 突き刺すようなシオンの視線に、リリー嬢が言葉を詰まらせる。

 私たちはその場に立ち尽くす彼女を置いて、カフェテラスへと向かった。
 だけど私は、背中にリリー嬢のあからさまな敵意の眼差しを感じていたー


 
 
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