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不安のかけら

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「リアナ様、お茶をどうぞ」

「あ、ありがとう。ソル」

 ソルに差し出されたカップを受け取り、口に運ぶ。

「あまくて・・・美味しい」

「上質の蜂蜜が手に入りましたので」

 あの日以来、ソルも、シオンも、優しい。いや、元々優しくしてくれていたけど、それ以上というか、壊れ物に触れるように優しく接してくれている。

 あの日から学園はお休み中だ。体は平気なのに、学園に行こうとすると震えが止まらなくなる。
 学園に行ってもリリー嬢はいないと聞いているのに。シオンもみんなも私を嫌ったりしないって言ってくれるのに。

 私、学園に行けないままなのだろうか。このまま、ずっと不安のかけらが消えないのだろうか。

 私は、こんなじゃなかったはずだ。成人女性として、社会人として、打たれ強さがあったはずだ。
 なのに、どうしてだめなんだろう。平気だと言いたいのに、笑ってやり過ごせるはずだったのに、どうしてだめなんだろう。

 私は、いつのまにかシオンを花乙の攻略対象ではなく、お兄様として見ていたと、いうことなのか。
 ハロルドを、ソルを、そしてフローラを大切に思っていたということなのか。
 だから、彼らから嫌われることを何より恐れているのか。

「リアナ様、こちらもどうぞ」

「チョコレート?」

 綺麗な箱を差し出され、目を丸くする。この世界では、チョコレートは宝石と称される高級品だ。
 もちろん、王族といえど頻繁に口にすることはない。民に寄りそうことを心掛けている我が王家は嗜好品に無駄遣いをしたりしないので、私もこの世界に転生してからチョコレートを見たのは初めてだ。

「どう・・・して?」

「お嫌いでしたか?」

「そうじゃなくて・・・高いでしょう?こんな無駄遣いしたら」

「大丈夫です。公費は使っていませんから」

 そう言ったソルの顔をマジマジと見てしまう。公費でない?それって、ソルのお金ってことじゃない!

 私がジッと見ているせいか、ソルが目を逸らす。その端正な顔がほんの僅か赤く染まっているように見えるのは、私の気のせいなのだろうか。

 差し出された箱から、チョコレートを1粒取り出す。口に含むと、カカオの香りと甘い優しさが広がった。

「美味しい。ソル、嬉しい。ありがとう」

「・・・いえ」

 この世界に転生して初めて口にしたチョコレートは、私の心の不安を甘く甘く溶かしていくようだったー



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