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みおな

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58.踏み止まってくれ

「その令嬢は、パイライト王国の人間で間違いないのか?」

 オブシディアン王国、国王執務室。

 そこで、国王陛下と正妃システィーナ、側妃マーガレット、第二王子カイル、第一王女ビオラは、特殊部隊隊長の報告を受けていた。

 オブシディアン王国には、外部の人間が知らない特殊部隊が存在する。

 王族や貴族の監視や間諜を主な仕事としている彼らは、もし監視対象が危険な目にあったとしても助けはしない。

 あくまで監視であり、あくまで間諜である。

「第一王子殿下との接触を確認。アメトリン公爵令嬢の結婚の情報を漏らし、ユークレース王国へ行くように誘導。第一王子、その誘いに乗る模様」

「あの馬鹿が!」

 オブシディアン王国国王は吐き捨てる。

 隣に立つシスティーナは厳しい表情のまま、手の中の扇子をきつく握りしめた。

 マーガレットとカイル、ビオラは複雑そうな表情を浮かべている。

 彼らにとってユリシスは、優秀で未来の王太子になる、支えるべき相手だった。

 幼い頃から、特に同い年で同性であるカイルは、母マーガレットからそう教わって来てつい先日までその気持ちを抱いていた。

 異母兄ではあるが、常に臣下のつもりで一歩引いて接していたし、学園でも距離を取っていた。

 だが、ユリシスが婚約者のティファにとんでもない発言をしたと知った時には、ユリシスに注意はしたのだ。

 だがそれを、ユリシスは考えすぎだと軽く笑い飛ばした。

 そう。
ユリシスは、常に侍従たちの注意もカイルの注意も、全く聞こうとしなかった。

 確かに、下位の貴族だからといって見下すのは間違いだ。

 未来の王太子、未来の国王として、多くの貴族たちと分け隔てなく過ごすことも間違いではないだろう。

 だが、毒味もせずに物を口にするのは違う。

 それをして、本当に毒が入っていた時に責められるのは、毒に倒れたユリシスではない。

 侍従として、ユリシスを守り時には諌める役目の彼らが罰せられるのだ。

 何も受け取るなと言っているわけではない。

 自分の立場を考えろと言っているのだ。

 それをユリシスは、本当に甘く見ている。

 それに、婚約者であるティファがいながら「学園では一人の男として過ごしたい」という発言も、言わない言葉だ。

 何を考えてそう言ったのか、カイルには全くちっとも理解できないが、普通の人間からしたらただの浮気宣言である。

 それなのに、ユリシスはティファに執着していて、実母であるシスティーナから「気持ち悪い」とまで言われている。

(兄上・・・このままでは毒杯を賜ることになる。どうか踏み止まってくれ)
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