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悪役令嬢、推しを満喫する

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 ああ。今日も推しが尊い。

 婚約して以来、カイルは毎日アデリーン公爵家を訪れてくれている。

 そして、それを微笑ましく見てくれるお母様と使用人たち。

 お父様とお兄様は・・・
ちょっと不貞腐れているけど。

 もちろん私は、カイルが帰った後にちゃんと二人にフォローしている。

 特に兄のジュリアンは攻略対象。
仲良くしていたら、ヒロインが現れてもラノベほど酷い扱いにはならないかもしれないじゃない?

 それに、出来ればお兄様にはハーレム要員ではなく、素敵な婚約者を作って欲しい。

 話は戻るが、カイルが我が家を訪れるのは、婚約者つまり私ね、との交流という名を借りた手作りお菓子を食すのが目的だ。

 え?嫌じゃないのかって?
全く。全然。ちっとも。

 だって、手作りお菓子がカイルの攻略ポイントだと理解ってて、それを差し出したのは私だもの。

 推しが、ヒロインと結ばれて幸せになるのならともかく、ハーレム要員とか嫌なんだもの。

 あれでもカイルは幸せだったのかもしれないけど、やっぱり一般常識的な幸せを掴んで欲しいんだもの。

 私との婚約が、それにあたるかはともかくとして、これでもアナスタシアは美少女だし、公爵令嬢で身分も釣り合うし、悪くはないと思うのよ。

 アナスタシア王太子のことが好きだったけど、私カイルが推しだから、カイル以外を見ることはないし。

「今日は、アップルパイを焼きましたの」

「!」

 すごく嬉しそうなカイルに、私も頑張った甲斐がある。

 パイを焼くのは大変なのよね。
材料は全て冷やしておかなきゃなんだもの。

 それでも、上手くパリッと焼き上がると感無量なのよね。

「美味しい!シアは本当にお菓子作りが上手だね」

「カイル様に喜んでいただけたなら、作った甲斐がありますわ」

 指先が冷えて真っ赤になるものだから、終わった後に侍女がお湯で温めて、マッサージをしてくれたの。

 侍女は「お嬢様の綺麗な指が」とか言ってたけど、冷えただけだし、お菓子作りはバターとか使うから意外と手は荒れないのよ。

 それに、推しがこんなに喜んでくれるなら、冷たいのなんてなんでもないわ!

「何かリクエストはありますか?できるかどうかは分かりませんけど、我が家の料理人に聞くなどして作ってみますわ」

「母が・・・僕の幼い頃に『だいふく』というものを作ってくれたんだ。でも、どこにも売っていなくて・・・」

 大福。
それはでは売っていないわね。

 そういえば、ヒロインとカイルの仲を強固にしたのが、大福をヒロインが作ってあげたことだったわね。

 大福か。
作り方は分かるけど、もち米ってこの世界にあったかしら。


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