罪深きシュトーレン

小春佳代

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「まじ、だりーわー、進路の紙、これで何回目だよ―っ」

今年もまた、柔らかい春が徐々に姿をくらませようとしていた。
教室に届く風に混ざり始めたのは、初夏の心地良さ。
しかし、そんな爽やかな状況をものともしない、うんざりした会話が今日も頭上で繰り返されていた。

「あ!他にもだりーことあったー。バイトにまじでやばいヤツ入ってきたからな、まじで」

窓際にある机の上に片腕を枕にして突っ伏している俺は、友人たちのくだらない会話をBGMに何となしに廊下を見ていた。

「やばいって、どうやばいんだよ」

はぁ。

「うん、やばさのレベルがまじでやばいやつ」

どこかに可愛い子いないかなぁ。

「いや、だからね、どういう……、
ってゆうか、お前よりやばいやついんのかよ」

あれ?

「ふぇ?俺、やばい?
あ!そういえば今日、職員室でまじで可愛い子見た!」

俺は思わず上体を起こして、教室前方の出入り口あたりから姿を覗かせた、廊下を歩く女子に釘付けになった。

「今度こそ、どう可愛い子だよ。
子供でも分かるぐらいにちゃんと説明してみろよ」

歩を進める度たび、教室と廊下を隔てている窓枠越しにちらちらと見せるその姿が。

「うーん、子供?
あー、じゃあー、
目が……おめめが、青かった!」

日の光をまばらに遮さえぎる木漏れ日のように、閃光を放つ。

「お、おめめて…、とゆうか何、カラコン…?
だめだ、よし、会話を休憩させてくれ」

突然ガタンという音をさせて、椅子から立ち上がった俺は。

「んあ?夏樹?」

このまま廊下の奥へと消え去ってしまうのではないかと思わせるような彼女を、つかまえようと。

アイン

急いで、教室後方にある戸に向けて。

ツヴァイ

俺は、俺は。

ドライ

「理沙っ」

気づけば、ちょうど彼女の道をふさぐ形で戸枠に左手を掛け、息を弾ませてその名を呼んでいた。

「夏樹くん……」

今や幻のようになってしまったあの頃に比べれば

手足はスラリと、長袖の白シャツ、そして緑と紺のチェック柄スカートから伸びていて

焦げ茶色のさらさらな髪は、襟下を彩る赤いリボンを越えて膨らむ胸の下まで伸びていて

でも

透き通る青い目は、変わらない。

「今まで……どこに」

あの日、俺が住む街から突然姿を消した彼女。

街どころじゃない、この広い世界から姿を消していた『大好きな、僕の理沙ちゃん』。
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