恋煩いの回転木馬

小春佳代

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四度目の白桜

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お題「タイトルに『桜』、本文に『食洗機』の入る詩または小説」





流るる水の音
慣れた手つきで重ねられる水滴のついた白い皿
薄っぺらいカーテンがそよぐ先に見えるのは

「あの桜って案外、白いよね」
いつの間にか止められた水音の代わりに
素肌の唇からこぼれた抑揚のない君の声

君が僕のアパートから満開の桜を見たのは
もう四度目になるだろうか

君は初めて
「綺麗だね」
と言わなかった




「結婚したら、食洗機買ってね」

次の営業先へ急ぐ途中

家電量販店の前を通り過ぎた時にふと
君の冗談混じりのお願いを思い出した

あれは何度目の春のお願いだったろうか

街中を一瞬、春風が吹き抜ける

無意識に目で追いかけた桜の花びらの先に
平日には会うことができない君がいた

オープンカフェの店先
君は書類の詰まった鞄を腕に
小さな手鏡で前髪を直している

カフェの扉が内側から開くと同時に鐘が揺れ
弾かれたように君は振り向く

現れたのは
スッとした出で立ちで
僕らより年を重ねたスーツ姿の男性

その手を伸ばすは
君の髪

見せる指先
桜ひとひら

薄桃色に光るのは
「綺麗」と笑んだ
君の唇
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