悪役令嬢になりたくない(そもそも違う)勘違い令嬢は王太子から逃げる事にしました~なぜか逆に囲い込まれました~

咲桜りおな

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デビュタント

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 あれからあっという間にフォスティーナは帝国へと留学する為、学園から転校していった。生徒達の間ではフォスティーナがイアンの逆鱗に触れた為国外追放されたらしいという噂が流れ、どこから入手したのか聖女虐めも全てフォスティーナがエミリアを貶める為に仕組んでいたとの話まで広まっている。

 今回の事で次期王妃に対する侮辱及び反乱の意があるとしてサモン公爵家もフォスティーナへの処罰を受ける形で一人娘を帝国へと送り出しただけでなく、空席になった跡継ぎは親戚筋から養子を迎える事となったらしい。更に領地の一部を王家へ返還、現公爵夫婦は跡継ぎに公爵の座を譲り田舎の領地に引っ込む事になった。

 長年、筆頭公爵家であったサモン公爵家であるがフォスティーナ一人の不祥事によって、かなりなダメージを受けたのは誰から見ても明らかだった。

 一連の状況を受けてエミリアは改めてこの国は前世の世界とは全く別の世界なのだという事や、王家の権力の大きさなどを実感していた。

(改めて考えてみるとわたくし……よく今迄無事でいられましたわ)

 本来なら幾ら婚約者だとはいえ、婚約したくないだの、好きじゃないだの、王太子に対してよく言いたい放題やって来れたものだ。

 イアンがエミリアを好きでいてくれてるからこそ出来た事だろう。

(とは言っても……)

 エミリアはチラリと視線を移動して自分の横に並んで立つ、相変わらずキラキラと眩しい婚約者を盗み見た。

 今夜はエミリアのデビュタントだ。エミリア以上に楽しみにしていたらしいイアンは、レナード公爵家の邸まで豪華で王家の紋章入りの真っ白な馬車でエミリアを迎えに来てくれた。そしてそのまま夜会のフロアまでずっとエミリアをエスコートして入場し、陛下との挨拶、ファーストダンスを終えて今は他の貴族への挨拶に回っているところだ。

「少し休憩しようか」
「はい」

 イアンはエミリアを王家専用スペースにある休憩用の椅子に座らせると、いつもの様に飲み物を取りに行ってくれた。その背中を見送りながら小さく溜息を漏らす。

(さすがに笑顔貼り付けまくりでの挨拶回りは疲れますわね。まぁ、これもある意味公務も兼ねてますから仕方ありませんけど……貴族って疲れますわ)

「エミリア」

 聞き慣れた甘い声に視線をやると台座の下にフランシスが来ていた。薄紫色を基調とした正装姿がフランシスの美貌を更に引き出して全身から色気が溢れている。近くに居るご令嬢達は既にその色香にやられたのか倒れそうになっていた。

(うあ……今日はまた一段とヤバイですわね)

 エミリアもその色香にやられない様注意を払いながら、台座を降りてフランシスの近くへと行った。

「ご機嫌よう、フランシス」

 負けじとふんわりとした笑顔を纏いながら挨拶をする。

「デビュタントおめでとう、エミリア」
「ありがとう。フランシスに祝って頂けるなんて嬉しいですわ」
「素敵なドレスだね、イアンからの贈り物かい? とても似合っているよ」

 今日のエミリアは淡いパステルカラーのシフォン生地がグラデーション状に配色された、まさに天使! な感じのドレスだ。そしてイアンの髪色と同じ金色の糸で細かな刺繍が施されている。

「ええ、そうですの」
「で、イアンは?」

 フランシスがそう問いかけた時、グラスを持ったイアンが慌てた様子で戻って来た。

「私ならここだ。全く油断も隙もないな」
「やあ、イアン」

 少し不服そうなイアンに対してフランシスはニコニコと、どこ吹く風だ。

「せっかくのエミリアのデビュタントだからね、彼女と踊っても良いよね?」
「ダメだ、フランクなんかと踊らせたら何をするか分からない」
「いやいや、踊るだけなのに何をするって言うんだよ。相変わらず過保護だなぁ」

 ヘラヘラと笑って返すフランシスと一歩も引きそうにないイアンの攻防を、エミリアは受け取ったドリンクで喉を潤しながらどうしたものかと思案する。

 別にダンスを踊るだけなのだから、そこまで気にする事はない筈。周囲の目だってあるし、なんだかんだ言ってもフランシスは信頼出来る人物でもあるし。

「まぁまぁ、すぐに返すからさ。それにホラ、君と踊りたいってご令嬢方が沢山待ってるよ」

 そう言って少し離れた所でソワソワとしながらたむろしている令嬢達の存在を示した。それを見てイアンはやれやれと言った表情を見せつつも「分かったよ、リアの事を少しの間だけ頼む」とフランシスへ許可を出した後、王子スマイルを貼り付けてダンスを希望している令嬢達の元へと歩いて行った。

 令嬢の一人とダンスフロアの中央へ向かうイアンを見送った後、フランシスは改めてエミリアをダンスに誘った。

「では、踊って頂けますか? レディ」
「はい」

 フランシスの手を取りエミリア達もフロアの方へと向かう。そういえば長年の付き合いだがフランシスと踊るのは初めてだ。

(今までは夜会への参加はなかったし、公務での舞踏会参加はあったけどまだ子供だったからイアンやお父様以外とは踊った事なかったわね)

 フランシスの身体にそっと手を添えて少し緊張しながらステップを踏み出す。相手が変わるだけでダンスの雰囲気もなんだか違って来る。

 イアンより少々華奢なフランシスだが意外にも筋肉は付いている様だ。子供の頃と違ってフランシスもちゃんと男性として成長しているのを実感した。

「さすが、ダンスが上手いねエミリア」
「ありがとう」

 幼い頃から公爵家でのダンス教育だけでなく、王太子妃教育の一環としてダンスは厳しい教師によってスパルタ式に叩き込まれたのだ。あまりの厳しさにこっそり泣いていた事は内緒だが、あの経験があったから今こうして堂々としていられるのも事実。当時の教師達には感謝だ。

「そういうフランシスも上手だわ」
「まぁ、一応嗜み程度はね」

 フランシスは謙遜してそう言っているが、天性の才能なのか秘密の努力なのか凄く滑らかな動きでリードしてくれている。

 あっという間に一曲を踊り終わり、高揚した気分のまま夜風に当たりにテラスへと移動した。イアンはまだ数人のご令嬢が順番待ちをしている様なので、戻って来るのに時間がかかりそうだ。
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