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暗闇からこんばんは
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「やっぱりエミリアがイアンのものだなんて寂しいな。私の方が先に出逢ってればイアンより先に婚約したのに……」
フランシスはバルコニーに軽くもたれながら、いつもの様にそう軽口をたたく。恐らく半分本音なのだろうが立場的にもイアンの友人であり、側近の一人でもある為冗談めいた発言に留めているのは言われなくても分かる。
もし万が一の事があってエミリアが国を追われたり冒険者にでもなるような事態になれば、真っ先にフランシスがエミリアを迎えに来ると思う。
それを分かっているので普段はフランシスとの関わりを持たない様に気を付けている。ただ、最近はそれすらも申し訳ない気持ちが大きい。
(フランシスの気持ちは嬉しくないかと言われると否定出来ないのですけど、そろそろ拒否しないといけない……)
悪役令嬢ではないのだと判明したのだ。このままイアンにもフランシスにも曖昧な態度を取り続けている訳にはいかない。二人にも失礼だ。
フランシスの事は嫌いではない。普通に友人としては好きだ。けどそれが恋愛感情ではない事は自分自身で気付いている。
(わたくしが好きなのは……悔しいけどイアンですわ)
出逢った時から全身全力で想いを伝え続けてくれているイアン。過剰な程に大切にしてくれていて、こんなただの公爵令嬢でしかない自分を守ってくれている。
天性の才能を持って生まれたのか努力しなくても何でも簡単にこなしてしまうがかと言って努力を怠る事はないし、それをひけらかす事もなくて。王太子としての責務は完璧に果たしている姿を見ているからこそエミリアも日々、努力して来れたのだと思う。
そんなイアンにこれ程の好意を寄せられて堕ちない筈がない。エミリアの抵抗虚しく、とっくの昔から彼の事は好きだ。てか顔も声も仕草も何もかもがエミリアの好みドンピシャ過ぎて辛い。
ただこれ迄は悪役令嬢かもしれないという不安からその気持ちには蓋をしていた。いや、しきれてはいなかったからイアンにはエミリアの好意はバレてしまって素直に気持ちを伝えられなくなっている。
(だって、今更す……好きだなんて……恥ずかしくて言えませんわ)
イアンの事は取り敢えず後回しにして、今は目の前に居るフランシスに自分の気持ちを伝えてしまおう。フランシスだって、そろそろ婚約者を決めないといけない筈だ。
「あの、フランシス……」
「うん」
エミリアが意を決して口を開いた時――。バルコニーの向こうの暗闇から何かキラリと光る物が見えた気がした。
「?」
エミリアが不思議そうに暗闇へと視線を向けたので、フランシスもそれにつられて振り返る。
――シュンッ!!
いきなり背後から剣が振り下ろされる。思わず隣に居たフランシスを横に突き飛ばしながら、エミリアは反対側へと横跳びをする。すんでの所で交わしたがかなり危うかった。
フランシスとエミリアの間に立つ謎の男。全身黒装束な上に顔には仮面を被っているので正体は分からない。身体つきからは恐らく男性。
突き飛ばされたフランシスが体勢を立て直す前に仮面の男は再びエミリアへ剣を振りかざして来た。慌てて攻撃魔法の呪文を唱えながら剣の軌道から逃れようとしたが、動きにくいロングドレスと履き慣れない新品のヒールがそれを邪魔する。
(っ、ヤバイ!)
痛みと衝撃の予感に思わずギュッと目を瞑ったその時――
――――キンッ!
鋭い金属音と共に誰かが剣をはじいた。それと同時に仮面の男が後ろへ飛び退きエミリア達と少し距離を取る。
「イアン!」
エミリアを護る様にイアンが剣を構えてエミリアの前へと出る。手に携えている剣は王立騎士団や護衛騎士に支給されている剣だ。背後を確認するとバルコニーの入口付近にエミリアに付けられていた護衛らしき騎士が倒れている。イアンはその騎士の剣を拾ってエミリアを助けに入ってくれた様だ。
「怪我はないか、リア」
「はい、大丈夫です」
じりじりと互いに間合いを取りながらイアンは仮面の男と対峙する。その少し離れた場所からは体勢を整えたフランシスが魔法を展開しながら様子を伺っている。その間にバルコニーの入口に新たな騎士が姿を現した。
「……チッ」
分が悪くなったと思ったのか仮面の男は舌打ちをする。それに気を取られていたのが悪かった。バルコニーのずっと向こうの暗闇から何かがイアンの腕をかすった。チリンと小さな音を立てて針の様な物が足元へと落ちた。
「うっ……!?」
いきなり呻き声を上げたイアンが腕を押さえたのを確認すると同時に仮面の男はサッと身をひるがえして夜の暗闇の中へと消えて行く。慌てて騎士がその後を追いかけて行き、闇の中へと姿を消す。
「仲間が居たのか……」
フランシスがバルコニーの手すりから暗い庭園の方を伺ったがもう何も見えない様だ。
「フランシス、お前が居てこの状況とは何だ」
「無茶言わないでよ、私は魔法は得意でもさすがにあんな暗殺者みたいなのは相手に出来ないよ。そこの護衛だって太刀打ち出来てないじゃないか」
(……暗殺者。確かにあの感じはそうかもしれない)
改めてさっきの男が暗殺者だったのだと思うと身震いしてしまう。
「目的は何だったんだろうね……すぐに逃げてしまったけど」
「そうだな……とにかくまずは中へ……入ろ……う」
最後まで言い終わるかどうかのタイミングでいきなりイアンが腕を押さえて膝をついた。そしてそのまま「うぅ……」と呻き声を出しながら倒れてしまった。
「イアン!?」
「えっ、どうした」
慌ててエミリアとフランシスが駆け寄る。イアンが押さえている腕は先程針の様なものでかすり傷を負った方の腕だ。額には大粒の汗が噴き出ており、顔色は真っ青だった。
「……もしかしてさっきのは毒針?」
イアンの様子を見たフランシスが顔色を変えた。
「エミリア、誰か呼んで来てくれ。あと、魔法医も」
「わ、分かったわ」
この事件により本日の舞踏会は急遽中止になり、イアンは魔法医の治療を受ける為にすぐに自室へと運ばれた。そしてそのまま翌日になっても目を覚ますことはなかった。
フランシスはバルコニーに軽くもたれながら、いつもの様にそう軽口をたたく。恐らく半分本音なのだろうが立場的にもイアンの友人であり、側近の一人でもある為冗談めいた発言に留めているのは言われなくても分かる。
もし万が一の事があってエミリアが国を追われたり冒険者にでもなるような事態になれば、真っ先にフランシスがエミリアを迎えに来ると思う。
それを分かっているので普段はフランシスとの関わりを持たない様に気を付けている。ただ、最近はそれすらも申し訳ない気持ちが大きい。
(フランシスの気持ちは嬉しくないかと言われると否定出来ないのですけど、そろそろ拒否しないといけない……)
悪役令嬢ではないのだと判明したのだ。このままイアンにもフランシスにも曖昧な態度を取り続けている訳にはいかない。二人にも失礼だ。
フランシスの事は嫌いではない。普通に友人としては好きだ。けどそれが恋愛感情ではない事は自分自身で気付いている。
(わたくしが好きなのは……悔しいけどイアンですわ)
出逢った時から全身全力で想いを伝え続けてくれているイアン。過剰な程に大切にしてくれていて、こんなただの公爵令嬢でしかない自分を守ってくれている。
天性の才能を持って生まれたのか努力しなくても何でも簡単にこなしてしまうがかと言って努力を怠る事はないし、それをひけらかす事もなくて。王太子としての責務は完璧に果たしている姿を見ているからこそエミリアも日々、努力して来れたのだと思う。
そんなイアンにこれ程の好意を寄せられて堕ちない筈がない。エミリアの抵抗虚しく、とっくの昔から彼の事は好きだ。てか顔も声も仕草も何もかもがエミリアの好みドンピシャ過ぎて辛い。
ただこれ迄は悪役令嬢かもしれないという不安からその気持ちには蓋をしていた。いや、しきれてはいなかったからイアンにはエミリアの好意はバレてしまって素直に気持ちを伝えられなくなっている。
(だって、今更す……好きだなんて……恥ずかしくて言えませんわ)
イアンの事は取り敢えず後回しにして、今は目の前に居るフランシスに自分の気持ちを伝えてしまおう。フランシスだって、そろそろ婚約者を決めないといけない筈だ。
「あの、フランシス……」
「うん」
エミリアが意を決して口を開いた時――。バルコニーの向こうの暗闇から何かキラリと光る物が見えた気がした。
「?」
エミリアが不思議そうに暗闇へと視線を向けたので、フランシスもそれにつられて振り返る。
――シュンッ!!
いきなり背後から剣が振り下ろされる。思わず隣に居たフランシスを横に突き飛ばしながら、エミリアは反対側へと横跳びをする。すんでの所で交わしたがかなり危うかった。
フランシスとエミリアの間に立つ謎の男。全身黒装束な上に顔には仮面を被っているので正体は分からない。身体つきからは恐らく男性。
突き飛ばされたフランシスが体勢を立て直す前に仮面の男は再びエミリアへ剣を振りかざして来た。慌てて攻撃魔法の呪文を唱えながら剣の軌道から逃れようとしたが、動きにくいロングドレスと履き慣れない新品のヒールがそれを邪魔する。
(っ、ヤバイ!)
痛みと衝撃の予感に思わずギュッと目を瞑ったその時――
――――キンッ!
鋭い金属音と共に誰かが剣をはじいた。それと同時に仮面の男が後ろへ飛び退きエミリア達と少し距離を取る。
「イアン!」
エミリアを護る様にイアンが剣を構えてエミリアの前へと出る。手に携えている剣は王立騎士団や護衛騎士に支給されている剣だ。背後を確認するとバルコニーの入口付近にエミリアに付けられていた護衛らしき騎士が倒れている。イアンはその騎士の剣を拾ってエミリアを助けに入ってくれた様だ。
「怪我はないか、リア」
「はい、大丈夫です」
じりじりと互いに間合いを取りながらイアンは仮面の男と対峙する。その少し離れた場所からは体勢を整えたフランシスが魔法を展開しながら様子を伺っている。その間にバルコニーの入口に新たな騎士が姿を現した。
「……チッ」
分が悪くなったと思ったのか仮面の男は舌打ちをする。それに気を取られていたのが悪かった。バルコニーのずっと向こうの暗闇から何かがイアンの腕をかすった。チリンと小さな音を立てて針の様な物が足元へと落ちた。
「うっ……!?」
いきなり呻き声を上げたイアンが腕を押さえたのを確認すると同時に仮面の男はサッと身をひるがえして夜の暗闇の中へと消えて行く。慌てて騎士がその後を追いかけて行き、闇の中へと姿を消す。
「仲間が居たのか……」
フランシスがバルコニーの手すりから暗い庭園の方を伺ったがもう何も見えない様だ。
「フランシス、お前が居てこの状況とは何だ」
「無茶言わないでよ、私は魔法は得意でもさすがにあんな暗殺者みたいなのは相手に出来ないよ。そこの護衛だって太刀打ち出来てないじゃないか」
(……暗殺者。確かにあの感じはそうかもしれない)
改めてさっきの男が暗殺者だったのだと思うと身震いしてしまう。
「目的は何だったんだろうね……すぐに逃げてしまったけど」
「そうだな……とにかくまずは中へ……入ろ……う」
最後まで言い終わるかどうかのタイミングでいきなりイアンが腕を押さえて膝をついた。そしてそのまま「うぅ……」と呻き声を出しながら倒れてしまった。
「イアン!?」
「えっ、どうした」
慌ててエミリアとフランシスが駆け寄る。イアンが押さえている腕は先程針の様なものでかすり傷を負った方の腕だ。額には大粒の汗が噴き出ており、顔色は真っ青だった。
「……もしかしてさっきのは毒針?」
イアンの様子を見たフランシスが顔色を変えた。
「エミリア、誰か呼んで来てくれ。あと、魔法医も」
「わ、分かったわ」
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