悪役令嬢になりたくない(そもそも違う)勘違い令嬢は王太子から逃げる事にしました~なぜか逆に囲い込まれました~

咲桜りおな

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イアンは眠る

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「……イアン」

 あれから数日経ったがイアンの意識はまだ戻っていなかった。青白い顔で寝台に横たわる婚約者の手を握りしめてエミリアは毎日、彼の回復を祈りながら付き添っている。

 幸い王城にはエミリアの部屋があるので暫くは学園も休学してイアンの部屋に通っている。治癒魔法が使える訳ではないし、エミリアが付き添っていても役にたつ事は無いがそうしたかった。

 あの夜。イアンの腕をかすったのはやはり毒針だった。しかも特殊な毒薬らしく魔法医の治療では多少の痛みは緩和は出来るものの、それ以上の事は難しかった。

「殿下に使用された毒は一般的には出回っていないものです。解毒剤を作る事は非常に難しいかと存じます」
「そんな……」

 魔法医の言葉に愕然となる。ダメ元で聖女のサルビアにも力を貸して貰ったが、聖魔法でもイアンの毒を消す事は出来なかった。

「どうしたら良いの……」

 あの暗殺者の行方も正体や目的は未だ不明だ。護衛騎士が追いかけて行ったが結局取り逃してしまったらしい。フランシスも毒薬について調べてはくれているが今の所は目新しい情報は届いていなかった。

「まだ、ちゃんと想いを伝えられてないのに。このまま眠ったままは嫌ですわ、イアン」

 ただ傍で付き添うしか出来ない自分の不甲斐なさに情けなくなる。

(……もしかしたらお兄様、何か毒薬についてご存知ないかしら)

 ふと自分の兄であるエドワードが前世はこのゲームのプロデューサーだったと話していた事を思い出した。

「イアン、少しだけ待っていてね」

 眠るイアンにそう声を掛けてエミリアはエドワードに会う為に自宅へと馬車を走らせた。

◆◇◇◇ ◇◇◇◇ ◇◇◇◆

「……確かに解毒剤を作る為の薬草は存在している」
「やっぱり!」

 学園から帰宅したエドワードにエミリアはイアンを助ける方法を尋ねた。

「その薬草はどこにあるんですの?どんなに遠い異国でも、わたくし買いに行きますわ!」

 意気揚々とエドワードにそう告げたが、何やら難しそうに眉をしかめた。

「いや、あるにはあるが……しかも国内にあるが……」

 うーむと唸りながらエドワードはその薬草についての情報を話し始めた。

「元々このイベントは母上の学生時代に起こるものなんだ」
「ゲームのシナリオにあるんですの? でしたら尚更解決方法は明確なのでは」
「うーん……それがなぁ……ほら、主人公は聖女な訳で。その薬草を手に入れるには惑わしの森に居る魔女と会う必要があるんだよ」
「惑わしの森? 聞いた事ないですわね」
「そりゃそうだよ、主人公である聖女じゃないとその森は見つけられないからな」
「でしたらサルビアさんなら見つける事が出来ますよね?」
「それは無理なんだ」

 またしてもエドワードが小さく唸る。

「彼女は確かに現聖女ではあるが、ヒロインではないだろ?」
「あっ……」

 エドワードの説明では聖女である事と主人公である事、この二点の条件が揃わないと惑わしの森は出現しないのだという。何とも面倒臭い仕様ではあるが、万が一他の誰かが見つけてしまう事があっては困る為二重の条件を設けたらしい。

「……それなら……お母様なら?」
「当時ならいけただろうけど、今は聖女の力を失くしているからどうだろう」

 解決方法に行き詰まってしまいエミリアまでも一緒に唸り声をあげた。しかし二人で考えていても仕方ないという事になり、お母様本人に話を聞いてみようという結論に落ち着いた。
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