吸血鬼の憂鬱

うみぼうず

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一章 吸血鬼

第二滴 ケイという男

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サリバは、支度を終えると外に出た。推測通り、かなりの土砂降りである。

吸血鬼達は、「吸血鬼の森」と呼ばれる入り組んだ高山に住んでおり、「入ったら最後。二度と出てくることはできない」と人間達の間で囁かれている森である。
その通りなのだが。

そして、森の中でも樹齢千年の巨木には、吸血鬼達が会議を行う部屋が設けられていた。その木を囲むように、一定の距離づつ地上十メートルの高さに吸血鬼達の家が建っていた。そして、今日は吸血鬼会議があるのだ。

サリバは、十メートル下の地上に飛び降りると華麗に着地し、巨木とは反対の方向へ歩いて行った。途中、大きな葉を手折って傘替わりにした。

二十メートル程歩くと、目的の場所に到着。
サリバは木を垂直に走り、十メートル登りきると家の前に立った。戸口には、乱雑な字で「ケイ」と書かれた掛け札がある。
サリバは、スゥ……と息を吸うと、ドアを数回ノックした。

「……。」

返事はない。まあ、これは想定済みだ。
「ケイ、入るぞ。」
とりあえず断ってから、キィ……とドアを開ける。

「スピピピピピ……。ぐぉぉ~……」

ドアを開けると、ケイのいびきが真っ先に聞こえた。
まだ寝ているようである。サリバはズカズカと寝ているケイに近づくと、バサッ!!と布団を剥いだ。

「おい、いつまで寝ているつもりだ。早く起きないと会議に遅れるぞ」
「ん……ぅえ??あれ?サリバ?もう朝?」
ケイはパチパチと目を瞬かせると、辺りを見回した。
「もう朝?ではない。クエスチョンマークが多すぎだ。質問は一回で終わらせろ。あと、もう朝だ。」

サリバは持っていた掛け布団をケイに投げつけ、仁王立ちになる。ケイはいそいそと起き上がると、
服を着替えて準備を整えた…と思ったのだが。

ぐぅぅぅ。

「……なんの音だ」
突然聞こえた奇妙な音。
サリバは眉間にシワを寄せるとケイに問うた。
「もうムリ……ガマンできない……」
ケイがそう呟いた刹那、サリバの視界から
ケイが「消えた」。

「──っ!!」
サリバは瞬間的に反応する。
ケイの魔力は右……いや、左!
間一髪、サリバは自分に抱きつこうとしたケイを抑えることに成功した。サリバに顔面を掴まれたケイは、驚き顔のまま固まっている。
「腹が減っているなら、会議が終わったあとに好きなだけ食いに行け。」
「ムリ!ムリムリ絶対ムリ!もうすっげー腹減ってんだよ俺は!今じゃなきゃだめなんだって!
サリバの血を寄越せぇー!」
ケイは、サリバの手を払うと後ろから羽交い締めにする。
「くっ……!」
ケイの力は、さしものサリバでも止めることはできない。なぜなら、人間だったサリバを圧倒的な力で押さえつけ吸血鬼にしたのはケイだからである。
勝てないのだ。どう足掻いても。

「サリバちゃ~ん。ムダだよ。俺に勝てると思った?まあ、さすがに顔面捕えられた時はびっくりしたけど、俺には勝てないよ」
ケイは勝ち誇ったように微笑むと、
サリバの首筋に牙をあてがう。
と、その時。

「勝てると思うかどうかではない。勝つんだ。」

サリバがそう言った瞬間、ケイの体が後方に吹っ飛んだ。ケイは、ガシャーン!と盛大に壁にぶつかり、棚のものが落ちて割れた。

「……ってー!!!なにすんだよサリバ!」
ムクりと起き上がるやいなや、ケイはサリバに向かって吼える。サリバに肘鉄を食らわされたお腹をさすりながら立ち上がる。
「スキル『強撃アサルトアタック』。私の血を吸おうとした瞬間は隙ができるからな。そこを狙った。」
グッ!と握り拳を作って、シャドーボクシングをするサリバ。ケイはしくしくと泣き始める。
「ひどいわ……!これが夫に対する仕打ちかしら!……サリバ!お前は俺の『花嫁ブライド』なんだぞ!血をよこすのは当然だ!!」
泣き叫ぶようにサリバに向かって吼え立てる。さながら、犬のようである。
「別になりたくてなったんじゃない。」
サリバは冷ややかな目でケイを見下ろすと、ズバリと言い放った。その言葉でケイの魂が半分抜けたのは言うまでもない。

「……ケイ、今カインとノイが走っていったぞ。急がないと私達が最後かもしれない。またプリムラに怒られるぞ」
せっかく早く起こしに来たのに、これではなんの意味もない。ケイは死んでいるし。
「はぁ……」
サリバは深い大きなため息をつくと、ケイの襟首をむんずと掴んで、外に捨てた。

「…………。え、うわぁぁぁぁ!!??!」
気づいた時にはもう遅い。ケイは十メートル下の地面にベチャッ!と激突し、血を飛散させた。サリバはケイの隣にまたしても華麗に着地する。そして、ケイを一瞥いちべつすると無視して歩き出した。
「うおい!置いてくな!」
頭から血をダラダラと流しながら、ケイが顔を上げる。吸血鬼は不死者のため死ぬことはないが、痛みはある。
「いつまで寝ているつもりだ。早く来い」
サリバは振り返らずにそう告げ、そのまま歩く。
きっと自分達が最後だろう。ケイはいつもこうだ。
「行くから!待って!あー…すげーいてぇ…。腹減ってるのに血を流しすぎて余計腹減った……」
ケイはそうボヤきながらサリバの後を追った
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