月華の陰陽師2-白桜の花嫁-【完】

桜月真澄

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2 御門の朝

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妖異も、特異分野だからといって誰に対しても通じるわけではない。

力の差、格の差は歴然とある。

縁はちょっとだけ珍しいタイプの妖異だけど、戦闘能力は皆無。

白についている月の化身は、奇特さは群を抜いていて、ぶっちぎりで強すぎる。

神力を回復中と聞いたこともあるけど、回復中でいて、かつて『鬼神の天女』と称された天音を軽くしのぐ。

それこそ、触らぬ神になんとやら、だ。

……謎なのは、白桃を『唯一の姫様』と呼ぶ天音が、なぜ白桜についている月の化身を排そうとしないかだ。

天音くらい白桃第一の白桜大好きなら、白桜が生きていく上で邪魔になることしかない月の化身を放っておくはずがないと思う黒藤だ。

現に白桜が第一の黒藤は、月の化身から白桜・奪還計画を日々練っている。

現行の日本の法律の問題もあるけど、白桜が本当に男になりたいのならそれでいい。

黒藤は月御門白桜個人に惚れているから、性別の問題はない。

でも、白桜は女性らしくいたいという思いをかすかながら持っているように見える。

そこはほら、幼馴染の直感だ。そして、陰陽師の直感だ。

白桜が捨てきれないものを、黒藤が無理やり捨てさせるわけにはいかない。

俺だけを見ていればいいなんて、黒藤は白桜に言えない。

俺が白だけを見ていればいい、なんてことも思えない。

黒藤も白桜も、陰陽道二大流派の家柄で、一族を率いていく立場だ。

白桜を愛している心は本物。一族を捨てられない心も本物。

本物の感情を抱いて、今日も影小路黒藤を生きている。

「まあ、御門邸に行ったときにでも華樹に訊いてみるかな。逢いたい人とかいない? って」

「そうだね。それは縁さんにしかできないお礼だね。あとはふつーに菓子折りの差し入れとかもありかな?」

「あ、そうだな。御門別邸は一門の人間が入れ替わりで常に複数の人がいるから、食べ物の礼は結蓮の負担が減りそうだ。ありがとな、真紅」

「いえいえ。るうちゃんの今後は黒ちゃんにお任せで大丈夫だよね?」

「ああ。いくつか対策立てておくよ」

今朝の涙雨の霊力枯渇は、明らかな黒藤の失態だ。

涙雨が自由に動けることが楽しくて、行動範囲が広くなっていることはわかっていたのに、多めの霊力を与えていなかった。

黒藤の使役である無月、縁、涙雨には黒藤の霊力を与えているから、常にどこにいるかを把握できる。

だが今朝は、黒藤が涙雨にやったその霊力が完全に尽きてぱたりと倒れてしまい、そのために涙雨の現在地がわからなくなってしまった。

幸い、すぐ白桜から小鳥の姿をした式文(しきぶみ)が届いて――情報の秘匿性のため、メッセージやメールのやり取りができる現代でも仕事関係では黒藤も白桜も携帯機器でなく式文を飛ばしている。届くまでに時間もかかるわけでもない――、御門が涙雨を保護してくれているとわかって安心した。

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