桜の鬼【完】

桜月真澄

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六 桜の命の終わり

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「俺は湖雪の許嫁を退くつもりはありません。父や兄が何を言っても、湖雪の婚約者は俺です」

「そっ……」

「湖雪」

惣一郎を止めようとした湖雪を、早子が遮った。早子が声を出すのは幹人が現れたとき以来だ。正妻、妾という話が関わってくる上で、自分は口を挟まない方がいいと考えているのかもしれない。

「湖雪は俺の妻になる方です」

惣一郎が手をついて頭を下げた。それを、顔をあげた悟は驚いたように見つめ、幹人は皺ひとつ動かさなかった。

「……惣一郎くん。何か勘違いしていないか?」

幹人の声は、湖雪の肩を震わせるには十分だった。

「湖雪が夏桜院の血を引いている。そして君は虹琳寺の血を引いている。その間の子ならば男であろうが女であろうが跡継ぎに何も問題がない。そして、悟くんも虹琳寺の子息だ。……意味は、わかるな?」

湖雪の肩に震えが、ぞくりと背中を這う冷たさに変わった。

意味なんて、わかりたくない。惣一郎が夫でなくて問題がないなんて。……悟でも、問題がないなんて――。

それじゃあ、まるで。

「君が虹琳寺に戻れば、悟くんを湖雪の夫にする。……ただ、それだけのことだよ」

―――――――っ。

幹人の瞳は、湖面のように揺らがなかった。早子ですら息を呑んだほどだ。

「幹人様! 湖雪は俺の妻です! 俺以外には湖雪を幸せになど出来ません!」

惣一郎は湖雪を掻き抱いて、閉じ込めた。この子は俺のものだ。ほかの誰にも幸せになど出来はしない――。

「……勘違いをするな、と言ったはずだが?」

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