桜の鬼【完】

桜月真澄

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六 桜の命の終わり

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「………幹人様?」

「幸せにするなど必要ないのだよ」

「………っ」

惣一郎は叫びそうになるのを、湖雪を一層抱きしめることで我慢した。

それは……どういう意味だ? 湖雪の頭も理解が追い付かない。

「湖雪に求められているのはこの家を継ぐこと、継ぐ子を産むこと。幸せ? 君も虹琳寺の家に生まれたならばわかるだろう? ――そんなのも、鬼の血には必要ない」

「………―――っ!」

必要ない。それは、そのままの意味――。

湖雪に幸せなどいらない。だから、夫になるのも君である必要もない。

「というか、そもそもだが、幸せなど人にもらうものではない。自分で手にするものだ。そこを勘違いしていると、自分も大事な人も苦しめるだけだよ」

幹人の言葉を聞いて、惣一郎は苦しそうに顔を歪める。湖雪は事態についていけず固まるばかりで――早子が。娘を護りにでた。

「幹人様。突然のこと、これは一度敬人様にお聞きした方がよいのではないですか?」

「ん? だが、悟くんが来たということはそういうことだぞ?」

「ですから、それが敬人様の本当の御意思かどうかをですわ。夏桜院の――」

「早子。当主は私だ。余計な進言は必要ない」

「………っ」

幹人に一刀両断され、早子は押し黙った。それほどに幹人の顔は《当主》のものだった。

名門夏桜院の、現当主。

「まあ、さすがに婚約者の替えなんて私の一存では無理だからね。そうだね。早子の言うとおりまずは叔父上に訊いてみようか。悟くん、今日はここに留まりなさい。兄弟で話もあるだろう。湖雪。明日にはお前の夫は決まるから、今日は一人で休みなさい。禊(みそぎ)の意味もある」

「………」

……当主の顔をした幹人に、逆らえるものはいなかった。

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