桜の鬼【完】

桜月真澄

文字の大きさ
124 / 127
終 鬼の花嫁

しおりを挟む

使用人の一人が声をかけてきた。

「ありがとう。早子様――いえ、義母上。湖雪をお願いします」

「承知しました。惣一郎様」

惣一郎は先に部屋に入り、湖雪は早子と一緒にやってくる段どりになっている。夏桜院湖雪と、虹琳寺惣一郎の結婚式だ。

惣一郎は虹琳寺家より婿養子に入り、湖雪とともに跡取りとなる。

湖雪、十六歳。惣一郎十八歳歳の、未だ桜も咲かぬ早春の式である。

湖雪と惣一郎は今朝も同じ布団で起き、朝の習慣となった、庭の桜の古木を眺めてから準備のために別れた。そのために、湖雪の晴れの姿を惣一郎が見たのはたった今のことであった。悟が自分より先に目にした。それに少し腹が立っていた。

それから、湖雪が一度も咲いたことのない桜の古木を見て涙していたことも――。

それがとても愛おしいものを見るような、穏やかに優しい眼差しだったから。

……たぶん自分は、湖雪が生む自分の子供にも嫉妬するのだろうと予感があった。

「湖雪」

惣一郎は湖雪に穏やかな微笑みを向けた。朝、惣一郎の腕を離れてから、緊張しきりだった湖雪はその顔を見てほっと息を吐いた。――のも束の間。

「っ」

腰を引き寄せられ、唇を塞がれた。

「! こゆっ」

「……惣」

軽く触れただけで解放された唇だが、湖雪は刷いた紅のように頬を真っ赤に染めた。早子は固まり、悟は弟の大胆な行動に呆れたようにため息をついた。

「惣一郎さん! せっかくのお化粧がとれてしまうじゃないですか!」

「触れただけです。湖雪が可愛いので」

悪びれた様子もなく早子に返す。

「もう、紅は直さないと」

文句を言う早子に「申し訳ありません」と言ってから、湖雪に微笑みを向ける惣一朗。

「では、待っているよ、湖雪」

『湖雪』、とまた名を呼んでから、惣一郎は湖雪を離した。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

令嬢失格な私なので

あんど もあ
ファンタジー
貴族の令息令嬢が学ぶ王都学園。 そこのカースト最下位と思われている寮生の中でも、最も令嬢らしからぬディアナ。 しかしその正体は……。

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

竜の国のカイラ~前世は、精霊王の愛し子だったんですが、異世界に転生して聖女の騎士になりました~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
辺境で暮らす孤児のカイラは、人には見えないものが見えるために悪魔つき(カイラ)と呼ばれている。 同じ日に拾われた孤児の美少女ルイーズといつも比較されていた。 16歳のとき、神見の儀で炎の神の守護を持つと言われたルイーズに比べて、なんの神の守護も持たないカイラは、ますます肩身が狭くなる。 そんなある日、魔物の住む森に使いに出されたカイラは、魔物の群れに教われている人々に遭遇する。 カイラは、命がけで人々を助けるが重傷を負う。 死に瀕してカイラは、自分が前世で異世界の精霊王の姫であったことを思い出す。 エブリスタにも掲載しています。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

魔力値1の私が大賢者(仮)を目指すまで

ひーにゃん
ファンタジー
 誰もが魔力をもち魔法が使える世界で、アンナリーナはその力を持たず皆に厭われていた。  運命の【ギフト授与式】がやってきて、これでまともな暮らしが出来るかと思ったのだが……  与えられたギフトは【ギフト】というよくわからないもの。  だが、そのとき思い出した前世の記憶で【ギフト】の使い方を閃いて。  これは少し歪んだ考え方の持ち主、アンナリーナの一風変わった仲間たちとの日常のお話。  冒険を始めるに至って、第1章はアンナリーナのこれからを書くのに外せません。  よろしくお願いします。  この作品は小説家になろう様にも掲載しています。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

異世界生活〜異世界に飛ばされても生活水準は変えません〜 番外編『旅日記』

アーエル
ファンタジー
カクヨムさん→小説家になろうさんで連載(完結済)していた 【 異世界生活〜異世界に飛ばされても生活水準は変えません〜 】の番外編です。 カクヨム版の 分割投稿となりますので 一話が長かったり短かったりしています。

処理中です...