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終 鬼の花嫁
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しおりを挟む惣一郎は何度も湖雪の名を呼ぶ。惣一郎に出逢ってから自分に名があったことを知ったように、何度も。
「惣、お前も大概変わったな……」
「悟もじきにこうなる」
ため息をつく兄とともに、惣一郎は会場へ向かった。悟は少しだけ、弟の妻となる女性を振り返った。魂が抜けたようにぽけっとしてしまっている。……可愛いと思うが、そんなことを口にしたら……恐ろしいのでそれすらも言えない。
彼が命を遺した弟と、彼が愛した娘が、今日夫婦になる。
彼――庭の古木に残った魂の名を、二人は知らない。
古木に宿った鬼は惣一郎の呪を奪い自決することで惣一朗の命を繋いだ。惣一郎がただの人間ではなく、わずかでも鬼の血を引いていたことが幸いした。
惣一郎は虹琳寺と夏桜院、二つの鬼の血を継いだ子だ。人外に名を連ねても遜色ない存在。
―――その代償は、記憶だった。
櫻の命をもらい助かることで、湖雪と惣一郎は彼の記憶を奪われた。奪ったそれは、時に神と呼ばれたり、悪魔と呼ばれたり、運命と呼ばれたり、因果と呼ばれたり、確かに存在することを誰もが認知しているのに、姿も見られなければなにものかもわからないそれだ。
悟は彼を憶えている。二人が知らない彼を憶えていることが、悟の罰だとあの鬼はうそぶいた。
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