私と婚約破棄するというのなら――慰謝料に子種をいただきます!

宝羽茜

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私と婚約破棄するというのなら――慰謝料に子種をいただきます!

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「ルイーズ⁉ これはどういうことだ!?」

 寝室のベッドに婚約者のジャックが転がっている。
 仰向けになったその体を両足で挟み込むように、ルイーズは上に乗っていた。

 日の光が差し込む明るい部屋に似つかわしくない光景だが、部屋の主であるルイーズは表情を変えずにただジャックを見下ろす。
 シルクのリボンで後ろ手に縛ってあるので、身動きが取れないのだろう。
 もぞもぞと動く様は、社交界一の美青年とは思えない滑稽さだ。

 ルイーズの部屋と寝室の鍵は閉めてあるし、両親と兄妹は領地に出ていて今夜は帰らない。
 通いの使用人も休みなので、この屋敷にはルイーズとジャックの二人きりである。

「いくら婚約破棄の罪悪感があるからと言って、案内されるがままというのは危険ですよ。もう少し警戒した方がよろしいと思います」

 ジャックの妻の座を狙う者は数多く、女性達に散々忠告という名の嫌味を言われ続けていた身としては若干心配だ。

「ルイーズを警戒するわけがないだろう」
「……そうですね。私なんて視界にも入らないのでしょうから」
 ジャックの上にまたがった状態のルイーズは、狼狽する美しい青年を見下ろして微笑んだ。


「私と婚約破棄するというのなら――慰謝料に子種をいただきます!」



 ********



 事の起こりは半刻ほど前のこと。
 婚約者との定例のお茶の時間に、その言葉は放たれた。


「俺との婚約を破棄した方がいいと思う」


 その一言にルイーズ・コーストン男爵令嬢の手が震え、ティーカップの中で琥珀色のさざ波が起こった。
 ジャック・フィンドレイ侯爵令息はルイーズの動揺に気付いているのかいないのか、ゆっくりとため息をつく。

 ああ、なるほど。そういうことか。
 ついに捨てられるわけだ。


 コーストン家は綿に麻に絹とあらゆる織物を扱い、小規模ながらもその商いは順調だ。
 それでも貴族の中では下位中の下位で、侯爵家とはまったく釣り合わない。

 これでルイーズが誰もが振り返るような美女だったならば話も変わるが、残念ながらそんなに都合のいい話はない。
 よくある茶色の髪と瞳に、ごく普通の体型。
 顔立ちも平凡以外の言葉を探すのが難しいもの。

 むしろどうして婚約が成立したのか謎だが、恐らく父の外交手腕が優れていたかジャックの気の迷いなのだろう。
 だから結婚を断られても仕方ないとは思うけれど、それでもショックなことには違いない。


「……理由をお聞きしてもよろしいですか?」
「それが、互いの幸せのためだと思う」

 つまり、ルイーズと婚約していては幸せになれないということか。
 いっそ平凡地味でつまらない女は嫌いだと言ってくれればいいのに、ジャックはこんな時も無駄に紳士らしい。

 ふふ、と思わず笑ってしまうと、ジャックが訝しげにこちらを見た。
 澄んだ空のような青い瞳、陽光のごとく輝く金の髪。
 侯爵令息という身分に加えて麗しい容姿を持ったジャックだが、こんな時でも格好良いと思ってしまうのが切ない。

 領地に向かう家族と別行動で屋敷に残っていたのはジャックとのお茶のためだったが、朝から彼のためにと支度していた自分を思い返すと滑稽だ。


「ベラの言う通りでしたね……」

 ルイーズの妹のベラは、本当に血が繋がっているのかと首を傾げたいほどに可愛らしい容姿だ。
 柔らかな亜麻色の髪に新緑のような瞳は宝石にもたとえられ、華奢でありながらも女性らしい体つきは姉の目から見ても魅力的。
 身分こそ低いものの、社交界でも人気者だ。

 見た目は愛らしいお人形のようなベラだが、実際はかなり異性関係に奔放で男性をとっかえひっかえしている。
 そのせいで色々な問題を起こすのだが、何故かそのしりぬぐいはルイーズの役割になっていた。

 家業を手伝い、妹の代わりに謝罪して回り、ただただ真面目に生きてきたわけだが、ベラはそんなルイーズを見てはけらけらと笑っていた。

『お姉様って本当に不愛想よね。平凡な容姿のくせに可愛げのない女なんて、ジャック様に捨てられるわよ』


 ぐさりと胸に突き刺さったものの、その時はまだ流すことができた。
 ジャックはベラや社交界の美女達に声を掛けられてもまったく靡く様子はなく、友人に『堅物』とからかわれているのを見たこともあったからだ。

 ルイーズがジャックに不釣り合いなのは事実だが、それでも彼は浮気するような人ではない。
 美しいジャックの前では緊張してしまって確かに愛想は良くないと思うけれど、それは結婚して時間をかけていけばきっと克服できる。

 現在はろくに会話もないとはいえ欠かさず会いに来てくれるし、いつか仲睦まじい夫婦になれたら。
 ……そんな風に思いを馳せていたが、ただのひとりよがりだったわけだ。

 初恋は実らないって、本当だな。
 砕け散った想いを押し流すべく紅茶を飲むと、ティーカップをテーブルに置いた。


「御両親にはもう伝えたのですか?」
「いや、まだだ。まずは君と話すべきだろうと思って」

 身分の差を考えれば手紙一つで婚約破棄すら可能だというのに。
 優しさなのか、ごねないようにするためなのかはわからないが、律儀なことは間違いない。

「君を有責にするつもりはない。世間体を考えれば女性に不利だし、慰謝料を支払おうと思っている。そうすれば俺が悪いのだと理解されるだろう」

 自分の立場を傷つけても別れたい。
 お金を支払えば満足だろう。
 そんな風に聞こえてしまって、どんどん惨めな気持ちになっていく。

 これでもうジャックとは顔を合わせることもなくなるのか。
 そうして、もっと美しくて身分のある素晴らしい女性といずれ結婚するのだろう。
 何だかもう、すべてがどうでもよくなってきた。


「……お金はいりません。その代わり、こちらに来ていただけますか」

 どうせ今日でジャックとはお別れ。
 平凡地味で身分が低い上に傷物となればまともな縁談など望めないし、ジャック以外と結婚する気にはなれない。
 ならば、せめて……これからの人生を生きるよすががほしかった。



 ********



 完全に頭のネジが飛んでいると自覚しているけれど、自分では止められない。
 きっと上手くいかないし、ジャックに今度こそ決定的に嫌われる。
 だが何故か案内されるがままにルイーズの部屋に入ったジャックは、求められるままに上着を脱ぎ、手を差し出して後ろで縛られ、ベッドに押し倒されたのだ。

 いくら何でもおかしいけれど、好都合。
 そうしてルイーズの望む慰謝料を伝えられたジャックは、ぽかんと口を開けて固まった。


「……こ、子種?」

 混乱した様子のジャックに構わず、その首元のクラバットを引き抜く。
 事前に上着を脱いでもらって手を縛っているので、だいぶ作業が楽だ。

「私の顔が見えては不快でしょうし、目隠ししておきましょうか」
 目を覆うようにクラバットを巻き付けると、そのままシャツのボタンを外していく。

「いや、説明してくれ。子種とはどういうことだ?」
「言葉の通りです。ジャック様の子種を下さい」
「だから何故⁉」
 シャツのボタンをすべて外し終えると、ルイーズは小さくため息をついた。

「跡継ぎでもなく、政略結婚にも使えない私に残された道は、家業のお手伝いです」

 シャツを掴んで左右に広げると、そこには均整の取れた体が隠れていた。
 騎士の稽古にも参加しているだけあって、引き締まった筋肉が美しい。
 ああ、この人はどこも完璧なのだなと感心しながら、胸の中心を指でそっとなぞる。


「ル、ルイーズ?」
「綿花栽培の盛んな地域に別邸がありまして。生育状況の把握や簡単な作業ならば私にも可能です。帳簿をつけるのは得意なので、それなりに家業に貢献はできるかと」

 今度は手のひらをぺたりと乗せ、這うようにして撫でてみる。
 恐ろしいことに、肌触りまで素晴らしい。

「説明になっていない!」
「ああ、すみません。つまり、育児の環境は問題ないのでお気になさらずと伝えたくて」

 ルイーズは少し体を下げると、ジャックのベルトに手をかける。
 難しい構造ではなかったのであっさり外れたそれに安堵すると、そっと股間に手を乗せた。

「な、何をしている」
「何というか、ナニというか。まだこれからです」

 閨教育と呼べるようなものはまだしっかり受けていないけれど、それでも男女の営みについてざっくりとした知識はある。
 領地で家畜の交尾ならば何度も見かけたし、不慮の事故でベラと男性が繋がっている場面に遭遇してしまったこともある。

 要は女性に男性を収めればいいはずだ。
 おぼろげとはいえ正解を見ているのだから、きっとできるだろう。


「とりあえず、服は脱がないといけませんよね」
 ベルトごと服を引っ張ってみるが、ジャックは横になっているので体重がかかってなかなか上手くいかない。

「だから説明を……!」
「きゃっ!」

 ジャックがもがくように動いたせいで重心が変わったらしく、勢いよく脱げた服と共にルイーズはベッドから転がり落ちそうになる。
 ドキドキしながらも服を椅子に投げかけてベッドに視線を戻すと、そこには不自然に立ち上がった肌色の棒があった。

「ルイーズ大丈夫か? まずは服を返せ。話はそれからだ」

 懸命に何か言っているジャックよりも、はじめてお目にかかるものにルイーズの目は釘付けだ。
 ジャックの股間に鎮座するそれは、いわゆる男性の象徴。
 それはわかるのだが、横たわった状態で一体どうやって女性の中に入るのだろう。
 羞恥よりも好奇心が勝ったルイーズは、ジャックの太腿にまたがると、目の前の肉の棒に目を凝らす。


「ルイーズ、聞いているのか?」
「はい。すみません、ジャック様。少し確認をさせてください」
 見た感じは柔らかそうな肉棒を恐る恐る掴むと、ジャックの体がびくりと震える。

「な、何を」
 上擦った声とは裏腹に、肉棒はまるで空気を入れた袋のように硬さと大きさが増し、どんどん直立になっていく。
 刺激に反応するらしいと気付いてゆっくりと手のひらを使って揉むと、ジャックの体がかすかに揺れた。

「ルイーズ、駄目だ」
「すみません。不快でしょうが、できるだけ早く済ませるよう頑張りますので」

 これだけ硬いのなら、押し込めば大丈夫だろうか。
 とにかくジャックのために早く終わらせなければ。
 ルイーズは自身のスカートの中に手を入れて下着を引き抜くと、ジャックの上に腰を下ろす。

「え? まさか」


 ジャックの肌は滑らかで、温かい。
 いや、ルイーズが冷えているだけかもしれない。
 未知の体験な上に今更になって罪悪感が芽生え始め、不安から指先も冷えてきた。

 とにかく、ジャックをルイーズの中に収めればいい。
 そう思って肌をこするようにして塩梅を探るけれど、どうもうまくいかない。
 肉棒は次第に硬さを増しているが、その摩擦が少し痛いし、場所は合っているはずなのに一向にルイーズの中に入らない。

「ルイーズ、ちょっと、止まって」
「嫌です。ここで止めたら、もうジャック様の子種はいただけないでしょう」

「どうして子種が欲しいなんて」
「もちろん認知は求めません。ご安心ください。子供ができない可能性も承知の上です」

 本当なら結婚して周囲の祝福の中で妊娠出産していたかもしれないのに、酷い差だ。
 焦りと情けなさから次第に視界がぼやけ始めた。
 どんどん溢れてくる涙を食い止めようと、ぐっと唇を噛む。

「そんなことを言っているんじゃない。何故そこまでして、俺の子種が欲しいんだ?」
「ジャック様の子供を生みたい、から……」

 ぽろりと涙がこぼれ、それを皮切りにぽたぽたと小気味よい音を奏でながら雫がルイーズの服を濡らしていく。

 なんて浅ましい人間だろう。
 ジャックのことが好きなくせに、その意思を無視するなんて最低だ。

 行為が上手くいかなかったことで少しずつ頭が冷えてきて、強烈な後悔と罪悪感に打ちのめされる。
 ジャックの上に乗っていた状態から横に移動したルイーズは、露になっている下半身にそっと毛布を掛けた。


「……すみません。私、最低なことをしました。ジャック様は私のことが嫌いで結婚したくないのに、子種をよこせなんて……」

 目隠ししているジャックに泣いていると気付かれたくない。
 これ以上不快な思いをさせたくなくて、声が震えないようにぎゅっと拳を握り締める。

「お望み通り、すぐに婚約破棄していただいて結構です。お金もいりません。私の無礼に関してもどんな罰でも受けますので……」

「ちょ、ちょっと待て。今、何て言った?」
 目隠しされ後ろで縛られて下半身を毛布で覆われた状態のジャックが、何故か今更になって動揺している。

「どんな罰でも」
「その前! 俺がルイーズを嫌いだって」

 何もあえて言わなくてもいいのにとは思うが、これも罰の一環。
 大好きなジャックの声で罵られよう。

「はい。ジャック様が平凡地味で愛想のない私を嫌って、結婚したくないと思うのは当然です」
「……ルイーズは、俺が君のことを嫌っていると思っていたの? それならどうして子供を生みたいなんて」

「それは……ジャック様のことをお慕いしているから」
「は? 嘘だろう?」
 最後だからと罪の告白をした分際ではあるが、さすがに好意自体を否定されるとムッとしてしまう。

「本当です。最初は容姿端麗なジャック様が少し怖かったのですが、真面目で誠実な人柄に惹かれました。沢山の御令嬢に分不相応だから別れろと何度も忠告や嫌がらせをされましたが、それでもおそばにいたかった。……図々しいですね、私」

 忠告された時にジャックと話し合えばよかったのかもしれない。
 いや、そもそも婚約したのが間違いだったのだろう。
 何にしても、すべてが遅い。


「……ルイーズ。腕のリボンを解いてくれ」
「はい」

 ああ、これで終わりだ。
 暴力をふるうような人ではないが、殴られたとしても仕方ない。
 本当に、どうしてこんなことをしてしまったのだろう。

 ルイーズは手でぐいぐいと涙を拭うと、ジャックが上体を起こすのを支えて手伝い、背後に回ってリボンを引っ張る。
 すると自由を取り戻したジャックの手はすぐさま目を覆うクラバットをむしり取った。

「ルイーズ……!」
 振り返ったジャックと目が合うや否や、伸ばされた腕の中に閉じ込められ、あまりの勢いにぐっと息が詰まる。

「あ、あの?」
 はだけたシャツの合間から覗く素肌に顔を埋めながら、混乱で変な声が漏れる。

 ジャックに抱きしめられているという状況は、わかる。
 だが、婚約破棄したい嫌いな女相手にする行動ではないと思うのだが。

「俺は、ルイーズを嫌ってなんかいない」


 ジャックの声が耳に届き、抱きしめる手に力がこもる。
 ああ、幻聴まで聞こえるなんて、重症だ。
 どうやら自分で思っている以上に、婚約破棄が堪えているらしい。

「夜会で着飾って媚びを売ることに熱心な女性ばかりの中、君は男性と対等に商売の話をしていた。装飾の少ないドレスに簡素な髪型だったけれど、俺には誰よりも輝いて見えた」

 耳元にどんどん都合のいいストーリーが届けられるが、だいぶ複雑な設定の幻聴のようだ。

「男爵に縁談を申し込んで君に会った時には緊張して、目も合わせられなかった。あんなことは初めてだったよ。これが恋なのかと驚いた」

 そうだろう、そうだろう。
 こちらも幻聴の盛り上がりに驚いている。

「でも、ルイーズには他に好きな人がいると君の妹に聞いて……君の幸せのためなら、俺は身を引こうと考えたんだ」

 おや、運命のロマンスの方向かと思いきや、突然のお別れか。
 幻聴でも結局離れることになるなんて、どれだけ縁がないのだろう。
 少しくらい夢を見せてくれてもいいのに。

「……ルイーズ、聞いている?」
「えっ⁉」


 いつの間にか腕が緩められて、覗き込むように近付けられた顔が目の前に迫っている。
 キラキラと輝く瞳と金の髪に暫し意識を奪われていると、その眉が少しばかり顰められた。

「俺、ルイーズのことを嫌ってなんかいないよ。初めて会った時から、ずっと惹かれていた」

 幻聴に幻覚まで加わるなんて末期だが、それでもジャックの声も視線も心地良い。
 この瞳を独り占め出来たら、どんなに幸せだろう。

 じっと見つめていると、ジャックの顔がゆっくりと近付いてくる。
 本当に綺麗な顔だなあとぼんやり眺めていると、そのまま唇がゆっくりと重なり、そっと離れていく。
 頬を染めているジャックを見て、ルイーズは首を傾げた。

「……ジャック様、照れているのですか?」
「そりゃあ、好きな人と始めてのキスだし。何より、ルイーズが俺の子供を生みたいと……結婚してもいいと思っていたなんて信じられなくて」

 出来のいい幻覚をぼんやり眺めていると、頬に口づけられ、そのまま耳朶を食まれる。
 温かくて柔らかい感触。
 顔にかかる吐息。
 背から伝わる手のぬくもり。

 ……あれ、何かおかしい。
 やけに生々しい感覚に困惑していると、耳元で吐息と共に囁かれた。

「大好きだよ、ルイーズ」
「ひゃっ⁉」

 耳の穴から脳天を突き抜けるような甘い声に、悲鳴を上げて体を震わせる。
 慌てて体を引くと、空色の瞳が優しく細められた。

「――げ、幻覚じゃない⁉」
 すっと頭の中の靄が晴れ、同時に羞恥と混乱で顔が熱を持ち始め、火を噴きそうなほどに熱い。


「す、すみませんジャック様。私、何てはしたないことを……」

 いくら婚約者同士で、結果的には嫌われていなかったとはいえ、やっていることは犯罪に近い。
 顔から火が出るとはこのことだし、同時に背筋には冷たい汗が流れている。

「と、とにかく服を……」

 慌ててベッドから下り、椅子に掛けてあった服を差し出すが、何故かジャックはそれを受け取らない。
 どうしたのだろうと視線の先を追っていくと、そこには絨毯の上に転がる白い布。
 ルイーズの下着が落ちていた。

「――あああああ⁉」
 悲鳴というよりも奇声と言った方がいい絶叫と共に、光の速さで下着を拾って背に隠す。

 婚約者に婚約破棄されたと思って子種を貰おうと襲いかけたルイーズが悪い。
 それはわかっているし、下着越しどころか素肌で下半身をこすり合わせておいて今更だ。
 それでも恥ずかしすぎて顔が熱いし涙が浮かんできた。

「は、穿いてきます!」

 言うべき言葉は絶対にこれじゃないとわかっているが、とにかく下着がジャックの目に触れることに耐えられない。
 子種が欲しいと言って押し倒すとか、もう頭がおかしかったとしか思えないし、数刻前の自分に紅茶をぶっかけて目を覚ませと説教したい。

 だが隣の部屋に駆け込もうとしたのに、手を掴まれて動けない。


「あの、ジャック様もどうぞ服を着てください。お話はそれからで」

 ここまでくると破廉恥を理由にあらためて婚約破棄されてもおかしくないが、何にしても服を着てからだ。
 互いに股がスース―する状態では、理性的な話し合いなど望めない。
 だが、手を放してもらえないと動きようがなかった。

「手を放してください」
「嫌だ」
「え?」

 返答する間もなく手を引っ張られ、抗うこともできずに傾いだ体をジャックが抱きとめる。
 先程も同じように抱きしめられたはずなのに、正気に戻ったせいではだけたシャツと素肌の感触にドキドキが止まらない。

「ねえ、ルイーズ。俺の子供を生みたいというのは、本心なんだよね?」
「それはそうですが、無理矢理子種を貰おうとしたのは間違いでした。本当にすみません」

「いや。俺と結婚して子供を望むというのなら……少し早まっても問題ないと思うんだ」
「はい?」
 何だか会話がいまいち噛み合っていないのは気のせいだろうか。

「婚約破棄はしないけど、誤解させて悲しませたお詫びとして」
 恐る恐る顔を上げると、そこには太陽のように眩しい笑みがあった。


「――俺の子種をルイーズにあげる」



 *******



「あ、やあ、ん」

 あっという間にベッドに転がされたルイーズの上に、ジャックがまたがっている。
 共に下半身を覆うものがないので、何の障害もなく肌が触れあう。
 固い肉棒は秘められた窪みを往復し、そのたびにルイーズの声が漏れる。
 さっきはこすれて痛いだけだったのに、今はくちゅくちゅという水音が響いて滑らかに動いていた。

「だいぶ濡れてきたね。よかった」

 何が良かったのかわからないが、ジャックは楽しそうに往復を続けている。
 ただの摩擦のはずなのに、どんどん水音は強まるし、変な声は漏れるし、体の奥が熱い。

「ルイーズは無理矢理子種を貰おうとしたって言ったけど、そもそも全然無理矢理じゃないからね」
「で、でも私はジャック様を騙して寝室に連れてきて。手も縛りましたし、鍵も閉めました。どう見ても監禁状態では」

 婚約継続ならばさすがに犯罪者扱いされずに済むのかもしれないが、やっていることは悪質だ。
 むしろルイーズの方が慰謝料を支払うべきのような気がする。
 すると何故かジャックが困ったように笑った。

「寝室に入ったのも上着を脱いだのも手を縛られたのも、全部俺が同意して手伝っているだろう?」
「で、でも服を脱がせる時には抵抗して」

「あれは驚いだだけ。本気で止めたいなら、どうにでもできる。……こんな風に」
「え、あんっ!」

 ルイーズの窪みの上の方にある突起に肉棒が引っかかり、その瞬間びくりと体が跳ねる。
 今までとは違う鋭い刺激に困惑する間もなく、再びそこを突かれた。

「や……ん」
 最初は痛みにも似た強さに驚いたのに、次第にその刺激がほしくて待っている自分がいる。

「本気で嫌ならそう言って。散々煽られて、正直限界だ」
 そう言うと、ジャックはルイーズの頬を撫でながら唇を重ね、頬や額にもキスの雨を降らせる。

 今までエスコートやダンス以外に接触したことがなかったので、刺激が強すぎる。
 すると太腿を撫でていた手が裾からスカートに潜り込み、素肌に触れた。


「きゃっ⁉」
「ルイーズが自分で下着を脱ぐ様子を見られなかったのは残念だな。今度……いや、どうせなら俺が脱がせたいかも」
「何を言って……あ」

 内腿を伝った手が、ルイーズの秘められた場所に到達する。
 当然ながら下着がないので指が直接肌に触れ、ルイーズの体が緊張でびくりと震えた。

 先程まで肉棒でこすられていたのと同じ動き。
 それなのに、何かが違う。
 強い刺激を放った突起に、指が触れたらどうなってしまうのだろう。

 そんなルイーズの疑問と好奇心、少しの期待を察したかのように、ジャックの指が蜜を纏わせた指でその突起を撫でた。

「ああっ」

 いずれ触れられるとわかっていたはずなのに、声を我慢できない。
 優しく撫でられ、周囲を揉まれ、そっと突かれ。
 そのたびに体を揺らして声を上げる自分が恥ずかしいし、それを見られているからさらに恥ずかしい。


「あん、やあっ、ジャック様っ……!」
「可愛い。もっと感じて」

「感じ、る……?」
「そう。ルイーズに気持ちよくなってほしいんだ」

 ついばむようなキスをしながら囁かれ、なるほどと腑に落ちる。
 この痛みとは違う強い刺激は、もっと欲しいと思ってしまうこの感覚は、『気持ちいい』なのだ。
 そう気付いてしまうと、何だか一層感じ方が強まってくる。

「ジャック様の指、それ、気持ちいい……です」
「そう。じゃあ、次はもっと強い気持ち良さを味わってほしい」

 快感にも段階があるのかと感心していると、ジャックの顔がするすると下の方に消えてしまった。
 どうしたのだろうと考える間もなく膝を立てて足を開かれ、金の髪の美青年がスカートの中に潜り込んだ。


「え? ……あ? ああっ⁉」
 太腿を体で、秘められたあわいを指で押し広げられたかと思うと、快楽を紡ぐ芽を温かい何かが撫で上げた。

「やあん! な、舐めないでっ」

 必死の訴えも空しく、ジャックの舌と思われるあたたかいそれが、ルイーズを貪るように舐め尽くす。
 快楽の芽を弄び、濡れた谷を下って行き着いた窪みに舌を差し込むと、また上に戻ってくる。

「あ、何か変、です……!」

 お腹のずっと奥の方でくすぶり続けていた熱が増していき、呼吸が乱れ、何かが張りつめていく。
 ちゅっと音を立てて快楽の芽を吸われると、それが弾けてパッと視界が白く輝いた。

「あああっ――!」

 ぎゅっと全身の筋肉が収縮してピンと体が反り、呼吸もできない。
 やがてそれが落ち着くと、今度は弛緩と共に疲労感が押し寄せ、ハアハアと荒い息を吐いた。

「上手にいけたね。とても可愛かった」
「い、く?」

 そういえばベラと男性が繋がっていた時、ベラはしきりに『イク』と言っていた。
 あれはこのことだったのか。


「さて。じゃあ本番といこうか」

 スカートから顔を出したジャックはにこりと微笑むと、ルイーズに覆いかぶさるようにして鼻先に唇を落とす。
 ぐちゅぐちゅに濡れたあわいに硬いモノを押し付けられ、思わずびくりと震えてしまう。

「……怖い?」
「す、少し。初めてなので……」
「うん。ルイーズが嫌な思いをしないようにするから、一緒に頑張ってくれる?」

 優しく頭を撫でながら微笑まれれば、逆らうことなんてできない。
 赤い顔のままうなずくルイーズに、ジャックはもう一度唇を落とした。

 ゆっくりと蜜を纏わせるようにルイーズのあわいをなぞっていた肉棒が、やがて深い窪みに少しずつ沈んでいく。
 そこに入るのだろうという場所はわかっていても、とても想像がつかないし、狭い肉癖をこじ開けていく圧迫感に知らず息を止めてしまう。


「う……」
「痛い? 口で呼吸して、力を抜いて」

 そう言われても、押されて苦しいので力を抜く術がわからない。
 するとジャックが唇を重ね、更に舌を入れてきた。
 噛むわけにもいかずに唇を緩めると、すかさずルイーズの舌を絡めとって吸い上げる。

 深いキスで呼吸ができずに更に口を開くと、それに合わせてぐっとジャックの腰が押し付けられた。
 きついにはきついのだが、それどころではないのと口を開けることで少しは力が抜けているらしく、今度は順調に進んでいく。

「あ、ん」
 突き当りにぶつかったところで更にぐっと押し入れられ、我慢できずに声が漏れた。
「少し落ち着いたら、動くよ」

 動く。
 そういえば、ベラは半裸で男性の上に乗って『イク』と言いながら激しく腰を振っていた。
 男女が逆の状態だけれど、ジャックもあんな風に動くのだろうか。
 予告通りにジャックが動き始め、ゆっくりと引き抜いてはもう一度押し込んでいく。

 今回は先ほどの前後の動きというよりは上下運動であり、抽挿というべきか。
 たっぷりと濡れたおかげか摩擦による痛みはなく、次第に蜜が増してきたのか、ぐちゅぐちゅという水音が大きくなってきた。

 その頃にはただの抽挿だった動きに合わせてルイーズの体が揺れて声が漏れるようになり、次第にその速度が速まっていく。


「あ、ん、ジャック、様ぁ!」

 縋るような声音は甘ったるくて自分でも恥ずかしいのに、止められない。
 腰を打ち付ける音、淫靡な水音、軋むベッド、そしてそれらをかき消す乱れた息遣い。

 揺れる視界の中で見るジャックの瞳にはルイーズだけが映って、情欲の炎が灯ったその表情がたまらなく愛しい。

「も、もう駄目。いく、いくのっ――!」
「俺も一緒に……くっ」

 仕上げとばかりに抉るように腰を打ち付けられ、ルイーズは高みに押し上げられて甘い声を漏らす。
 ルイーズの中のジャックの分身が膨張したかと思うと弾けるように圧迫感が弱まり、代わりにじんわりと温かいものが広がっていく。

「ジャック様、これ」
「ああ。ルイーズが欲しがっていた子種だよ」

 では、これで子供ができるかもしれないのか。
 もちろん一度で妊娠するわけでもないということは知っているけれど、別世界の出来事が身近になったような、不思議な気持ちだ。


「さて。これだけじゃあ足りないよな」
「え? あっ⁉」

 不穏な言葉と共にジャックがゆっくりと腰を動かす。
 今しがた子種を吐き出して硬さを失ったはずの肉棒が、ルイーズの中ですっかり復活しているのは気のせいではないだろう。

「しっかり慰謝料の支払いをさせてもらうよ。俺の未来の大切な奥さん」

 にこりと微笑むジャックに抗う術はなく。
 日が傾いて夜の帳が下り、さらに空が白み始めるまで。
 ルイーズはありとあらゆる方法で慰謝料を受け取るのだった。



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読んでいただき、ありがとうございます。

長編「娼婦王女の閨の恩返し」連載しているので、よろしければこちらもどうぞ。
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