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血溜まりに膝をついていた。俺自身の血だ。
 腹に開いた傷口からは今この時も絶えることなく血が流れ出て、血溜まりの面積を広げていた。
 俺を刺した剣を手にした男は俺を見ていた。憤りを、やるせなさを、憐みを、その瞳に宿して。
 その目が。傷よりもはるかに激しい痛みで俺を焼き殺すのだ。

「何の為にここまで……」
「お前を、殺す、ためっ……!」

 憐れむなよ、お前如きが俺を。
 唾を吐きかけてやると、男の表情が侮蔑に歪む。

「救いようがない」
「馬鹿らしい。誰を、何から救う気だ……? 思い上がりも甚だしい、偽善者め」

 嘲ってやると男は何かを諦めたように溜息をつき、表情を消し去った。
 ああ、馬鹿らしい、何もかもが。
 声を立てて笑いたかったが、腹に力が入らない。手足の感覚も遠く、体温がなくなっていくのがわかる。息もうまくできない。苦しい。
 上体を支えることもできなくなり、俺は自分の血溜まりに倒れ込んだ。生温くて気持ち悪い。

「もう終わりにしましょう」

 上から声が降ってくる。“終わり”、その言葉が頭に響く。これでおしまい。こんなものが俺の最期。つまらなくて無意味な俺の人生の幕引き。
 どうしても男の顔が見たくて、最後の力を振り絞って顔を上向けた。
 俺に切先を向けて剣をかざす人影が見える。霞む視界を懸命に凝らすと、碧眼と目が合った。
 奴は真っ直ぐに俺を見ていた。揺るぎない凛とした瞳で。少しの濁りもなく、澄んだ碧が美しく煌めいていた。俺を見ているのに、そこには俺自身は欠片も映っていない。
 視界が暗み、やがてその煌めく碧も見失う。怒りも悔しさも泡のように消えていく。残るのは、果てしない空虚と孤独。
 空っぽな人間。それが俺なのだ。誰の目にも止まらない、何の影響も与えられない、取るに足らない路傍の石ころ。
 突きつけられた真実は死よりも何よりも恐ろしかった。もはや感覚のない身体の芯が凍りつくようだった。
 ああ、寒い。怖い。一人は嫌だ。
 泣き叫びたいのに、身体はぴくりもと動かない。
 刃が風を切る音がした。それを最後に、俺の無価値で無意味な人生が終わった。
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