好きになったり、嫌いになったり

鈴蘭

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テオドール様の衝撃的な告白

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 私たちは教員に連れられて、指導室で何があったのかを聞かれました。
 最初からあの場所にいた私が、包み隠さずにお話をしようとしたのですが、イブさんが横やりを入れてくるのです。
 ご自分に都合のいい様に、嘘を平気で吐く方だという事が理解出来ました。
 イブさんが口を開く度に、テオドール様と言い合いになってしまうので、全員一人ずつ個室にて報告をする事になったのです。

 私たちから一通りお話を聞いた後で、他の教員と話の齟齬がないかを照らし合わせてから、どの様な注意を与えるのかを話し合うそうです。
 それまでは、普通に授業を受けてもよいと言われました。
 私は、ラノアたちを巻き込んでしまった事に、罪悪感を覚えたのです。
 私たちが指導室から出て来たのは、同じタイミングでした。

 「ラノア、ハルジオン。私の所為で貴方たちを巻き込んでしまって、本当にごめんなさい。謝って済む事ではないのだけれど…」
 腰を大きく曲げて頭を下げようとしたのですが、ハルジオンに抑えられてしまったので、上手く謝罪が出来ませんでした。

 「リーゼは、何も悪くはないだろう。だから謝らなくていいよ」
 「そうよ。こんな事態を引き起こしたのは、フェナジンじゃないの。あの男が、種を撒き散らしているというのに、どうしてリーゼが加害者みたいに思われなくてはいけなの?イブとかいう女だって、妄想と現実の区別がついていないのではなくって?まるで、フェナジンと相思相愛みないな事を言っていたけれど、私には完全な独りよがりにしか見えなかったわ。それなのに、リーゼを責め立てるなんて、逆恨みにもほどがあでしょう」
 二人は、いつも私の味方をしてくれるので、心強く感じます。
 胸の奥が、じんわりと温かくなるのを感じました。

 「本当に、ただの逆恨みだよな~ 僕は、テオドールが思わせ振りな態度を取って、彼女を弄んでいるのかと思っていたよ。面と向かって、あれだけハッキリと拒絶されているのに、全く諦める気がないなんて…イブって、どんな神経をしているんだろうね」
 「フェナジンが言っていたけれど、お金と爵位が目当てなのでしょうね。ハルにも色目を使っていたし、貴族の令息なら、誰でもよいのではなくって?気持ち悪いわ」
 ラノアとハルジオンは、イブさんの行動が理解出来ない様ですが、私は騒ぎを起こしてしまった事の方が気になって仕方がなかったのです。

 「私たちには、どんな処罰が与えられるのかしら?あの場所で、騒動を起こしてしまって…貴方たちも一緒に停学になってしまったらと思うと、申し訳なさ過ぎるもの。私、どうしたら良いのか、分からなくなってしまったわ」
 思わず本音が漏れてしまいます。
 「まさか、こっちは被害者なのよ。停学になるのなら、イブの方だわ。私としては、退学にして欲しいくらいよ」
 「あの女は停学になったとしても、何食わぬ顔で学園に通って来そうだな」
 二人は笑っておりましたが、私には笑えない冗談です。
 

 憂鬱な気持ちのまま帰宅すると、テオドール様が屋敷へとやって来ました。
 学園から制服のまま、真っ直ぐに伯爵家へいらっしゃるのは、いつもの事です。
 客間へ行くと、ソファーに座ってお茶を飲んでいる姿が、どこか普段と違う感じがいたしました。
 「お待たせしました、テオドール様」
 私が部屋に入ると、いつもは不機嫌そうに顔を向けてくるのですが、今日は真面目な表情でソファーから立ち上がり頭を下げたのです。

 「迷惑をかけて、悪かったな、リーゼ。イブが言っていた指輪の交換の事なんだが、誤解のない様に説明させてくれ」
 私は驚いて、一瞬身動きが取れなくなってしまったのですが、慌ててソファーへ座り直す様に誘導したのです。
 「わかりましたわ、テオドール様。お話を聞きますので、どうぞお掛けになって、ゆっくりお茶を飲んでください。頭を下げられたままだと、落ち着きませんわ」
 「すまない」
 テオドール様は、ソファーに座り直しお茶を飲むと、ゆっくりと語りだしたのです。

 「幼い頃に、あいつに言われるがまま指輪の交換をして、結婚式の真似事をして遊んだ事が一度だけある。ただ、それだけなんだ。幼い子供の遊びの範疇であって、本当に結婚したいと考えた事は、一度も無い。だから、誤解はするな」
 「さようですか…イブさんは、その様には思っていらっしゃらないご様子でしたけれど」
 「あいつが俺に絡んで来る様になったのは、商会を、親父から受け継いだ頃からなんだ。それまでは、他の裕福な家の息子と仲良くしていた。親父の商会が大きくなったから、俺の妻になって、豪遊したいだけなのが見え透いていて腹が立つ。店の物も、勝手に持って行くからな。妻になりたいのではなくて、既に妻になっているつもりかもしれない。本当に煩わしい」
 テオドール様は、さり気なく恐ろしい事を仰ったと思うのですけれど…

 「店の物というのは、商品の事でしょうか?勝手に持ち出すのは、窃盗になるのではありませんか?」
 「店員たちも、イブとは顔見知りなんだ。商品を包めと言われたら、断らなくていいと言っている。店が傾く様な高価な商品は、店頭になど並べてはいないからな。変に暴れられて他の客に迷惑をかけるくらいなら、大人しく言う事を聞いて帰ってもらった方が、こっちとしても都合がいいんだ」
 「イブさんは、お店で暴れた事があるのですか?」
 私は、思いの他大きな声が出てしまい、慌てて居住まいを正しました。

 「一度や二度ではないんだ。家族ぐるみで来る事もあるし、まるで、店その物が自分の所有物の様に思っている節がある。そんな女と結婚なんてしたら、商会の金を食い潰されてしまうだろう。だから本来ならあいつらとは、付き合いなどしたくはないんだ。結婚の意味を深く理解していなかったとはいえ、あんなのと指輪の交換をしたかと思うと、幼児期の俺を張り倒してやりたくなる」
 その言葉を聞いて、私は何故か、張り詰めていた緊張が解れていくような感覚になったのです。

 「指輪の交換なんて、可愛らしいではありませんか。私だって幼い頃は、お父様や弟に作ってあげましたもの。何の意味も分からずに、交換した指輪など………」
 ファーストキスに比べたら、たいした事ではない筈ですわと、危うくとんでもない事を口走るところでした。
 私は顔に熱が籠っている感じがして、思わず両手で顔面を覆ったのです。
 テオドール様は、私の失言には気付いていない様子でした。

 「なぁ、リーゼ。誕生日プレゼントを買いに行った時、花祭りも見て来ただろう。あの時に、何か感じなかったか」
 「え?」
 花祭り会場を二人で歩きながら屋台を見て、オープンカフェでお茶を飲んだのは覚えておりますが、何を感じたかと言われましても正直に話せる訳がありません。
 幼い頃出会った男の子の事を考えていて、その子がテオドール様と被って見えてしまったのですもの。

 私が無言でいると、テオドール様は何故か寂しそうなお顔をされました。
 「やはりリーゼは、何も覚えてはいないのだな」
 「申し訳ありません」
 心は痛みますが、胸の内を曝け出すつもりはないのです。

 「俺たち、子供の頃に会っているんだ。花祭りで、最後の曲を一緒に踊った事があるんだぞ。俺は、あの時の事を今でもはっきりと覚えている」
 「はっ?」
 思わず伏せていた顔を上げて、テオドール様の瞳を覗き込む様に見てしまいました。
 淑女にあるまじき行いに私は気付く事もなく、あの時の少年がテオドール様だった事への衝撃で、頭の中が混乱してしまったのです。

 私は、その後どんな会話をしたのでしょうか?
 テオドール様がお帰りになった事にも気が付かず、暫く茫然としていたのでした。
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