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話しを聞かない人
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あまりにも衝撃的過ぎて、昨夜は一睡も出来ませんでした。
テオドール様がお帰りになった後、私はどうやって自室へ戻ったのかすら思い出せなく、気が付いたら窓から朝焼けの光が差し込んでいたのです。
「嘘ですわ!そんな筈は、ありません。確かに瞳は青空を思わせる様な美しい碧眼でしたが、テオドール様のような、女性遊びをするような少年ではありませんでしたわ」
声に出してはみましたが、十年も経てば、誰でも成長するのは当たり前です。
いつまでも幼い心のままでいられる訳はないのですが、どうしてもそれを認める事が出来ずにいたのでした。
それに、昨日見せた寂しそうな表情は、何処かあの少年の面影があるような気もするのです。
「テオドール様が、私の初恋のお相手だったなんて…」
あんな、女子生徒をとっかえひっかえ連れ歩く様な方に、私の大切なファーストキスを奪われてしまったなんて…
「運命の恋人伝説なんて、嘘っぱちだわ。そうよ、ただのおとぎ話に、動揺する必要なんてないのよ」
私は自分に何度も言い聞かせましたが、やはり落ち着く事が出来ず、そのまま学園に来てしまったのです。
「朝食も、喉を通らなかったわ…」
今日は、私の心を表現している様な曇天で、空が落ちてきそうです。
体中に、鉛がぶら下がっている様な感覚のまま馬車から降り、教室に向かおうとしたところで一番会いたくない方に絡まれてしまいました。
「リーゼ!今日こそは、逃がさないわよ」
キャンキャンと吠え続けるイブさんの言葉は聞き流し、私は無言で歩き出しました。
何処まで付いて来るつもりなのかしら、そろそろ守衛に止められると思うのだけれど。
昨日教員から注意されたばかりだというのに、全く反省もしていないとは、ハルジオンの言う通り停学になっても気にせず学園に通って来そうですわね。
「ちょっと、どうして無視するのよ。リーゼ、あたしはあんたの事を思って忠告してるんだからね」
そこで私は、やっと違和感に気が付いたのです。
昨日もそうでしたが、平民の多くが通う一般科の生徒であるイブさんが、何故ここにいるのでしょうか?
そもそも一般科の生徒の出入り口が何処にあるのかは存じ上げませんが、此処でない事は確かです。
この学園は教室だけではなく学舎も分かれており、当然ですが無断で入ってはいけない場所も存在しております。
そのひとつが、今、私が歩いている貴族家の生徒が通う校舎が建ち並ぶ敷地なのです。
イブさんは平民と聞いておりますし、制服を見ても分かる通り、特別に立ち入りを許された生徒でもありません。
守衛は生徒が着用している制服を見て、立ち入り禁止区域に入ってはいけない者が近付いた場合は、必ず声を掛けている筈なのです。
学園内には、各敷地内を分ける生け垣があり、出入り口には守衛が必ず数名立っております。
交代の時間だとしても、誰もいなくなるという事はあり得ません。
それなのに、イブさんはどうやって入って来たのでしょう。
この事が教員に知られたら、私が手招きしたと勘違いされてしまいます。
これ以上、問題事に巻き込まれたくはありませんのに、厄日ですわ。
「あの~どなたか、彼女を招き入れた方はおりませんか?一人にされて、困っているようですの」
私は周りで静観していた生徒たちに聞こえるよう、淑女らしさを失わない範疇で、出来るだけ大きな声で問いかける事にいたしました。
分かってはいたのですが、どなたも声を挙げる方はおりません。
生徒たちは、怪訝な顔をされて、イブさんを見ていらっしゃいます。
「ちょっと!あたしは、迷子なんかじゃないわよ。失礼な事を、言わないでちょうだい」
「困ったわね」
昨日テオドール様が仰っておりましたが、私もこの方とは、これ以上関わり合いたくはないと思うのです。
「イブさん。私は、教室に行きますので、着いて来ないでくださいませ」
「はぁ?逃げるなって言っているのが、わからないの?テオ君と別れなさいって、何度も言っているでしょう。彼は、あたしの夫になる人なのよ」
「何か勘違いをされている様なのではっきりと申し上げますが、私は現時点で、テオドール様の婚約者でも恋人関係でもございません。これ以上関わって欲しくはありませんので、お引き取り下さい」
「嘘よ。テオ君は、あんたと結婚するって言っていたじゃない。爵位が下だから逆らえないのをいい事に、商会を乗っ取る気なのは分かっているんだからね」
「イブさん。貴方の学舎は、ここから随分と離れているのでしょう。早く戻らないと、遅刻しますよ」
「話をすり替えないで!」
大きな声で喚き散らしておりますが、立ち止まって聞いていては私も遅刻してしまいますので、失礼かとは思ったのですが再び歩く事に致しました。
テオドール様がお帰りになった後、私はどうやって自室へ戻ったのかすら思い出せなく、気が付いたら窓から朝焼けの光が差し込んでいたのです。
「嘘ですわ!そんな筈は、ありません。確かに瞳は青空を思わせる様な美しい碧眼でしたが、テオドール様のような、女性遊びをするような少年ではありませんでしたわ」
声に出してはみましたが、十年も経てば、誰でも成長するのは当たり前です。
いつまでも幼い心のままでいられる訳はないのですが、どうしてもそれを認める事が出来ずにいたのでした。
それに、昨日見せた寂しそうな表情は、何処かあの少年の面影があるような気もするのです。
「テオドール様が、私の初恋のお相手だったなんて…」
あんな、女子生徒をとっかえひっかえ連れ歩く様な方に、私の大切なファーストキスを奪われてしまったなんて…
「運命の恋人伝説なんて、嘘っぱちだわ。そうよ、ただのおとぎ話に、動揺する必要なんてないのよ」
私は自分に何度も言い聞かせましたが、やはり落ち着く事が出来ず、そのまま学園に来てしまったのです。
「朝食も、喉を通らなかったわ…」
今日は、私の心を表現している様な曇天で、空が落ちてきそうです。
体中に、鉛がぶら下がっている様な感覚のまま馬車から降り、教室に向かおうとしたところで一番会いたくない方に絡まれてしまいました。
「リーゼ!今日こそは、逃がさないわよ」
キャンキャンと吠え続けるイブさんの言葉は聞き流し、私は無言で歩き出しました。
何処まで付いて来るつもりなのかしら、そろそろ守衛に止められると思うのだけれど。
昨日教員から注意されたばかりだというのに、全く反省もしていないとは、ハルジオンの言う通り停学になっても気にせず学園に通って来そうですわね。
「ちょっと、どうして無視するのよ。リーゼ、あたしはあんたの事を思って忠告してるんだからね」
そこで私は、やっと違和感に気が付いたのです。
昨日もそうでしたが、平民の多くが通う一般科の生徒であるイブさんが、何故ここにいるのでしょうか?
そもそも一般科の生徒の出入り口が何処にあるのかは存じ上げませんが、此処でない事は確かです。
この学園は教室だけではなく学舎も分かれており、当然ですが無断で入ってはいけない場所も存在しております。
そのひとつが、今、私が歩いている貴族家の生徒が通う校舎が建ち並ぶ敷地なのです。
イブさんは平民と聞いておりますし、制服を見ても分かる通り、特別に立ち入りを許された生徒でもありません。
守衛は生徒が着用している制服を見て、立ち入り禁止区域に入ってはいけない者が近付いた場合は、必ず声を掛けている筈なのです。
学園内には、各敷地内を分ける生け垣があり、出入り口には守衛が必ず数名立っております。
交代の時間だとしても、誰もいなくなるという事はあり得ません。
それなのに、イブさんはどうやって入って来たのでしょう。
この事が教員に知られたら、私が手招きしたと勘違いされてしまいます。
これ以上、問題事に巻き込まれたくはありませんのに、厄日ですわ。
「あの~どなたか、彼女を招き入れた方はおりませんか?一人にされて、困っているようですの」
私は周りで静観していた生徒たちに聞こえるよう、淑女らしさを失わない範疇で、出来るだけ大きな声で問いかける事にいたしました。
分かってはいたのですが、どなたも声を挙げる方はおりません。
生徒たちは、怪訝な顔をされて、イブさんを見ていらっしゃいます。
「ちょっと!あたしは、迷子なんかじゃないわよ。失礼な事を、言わないでちょうだい」
「困ったわね」
昨日テオドール様が仰っておりましたが、私もこの方とは、これ以上関わり合いたくはないと思うのです。
「イブさん。私は、教室に行きますので、着いて来ないでくださいませ」
「はぁ?逃げるなって言っているのが、わからないの?テオ君と別れなさいって、何度も言っているでしょう。彼は、あたしの夫になる人なのよ」
「何か勘違いをされている様なのではっきりと申し上げますが、私は現時点で、テオドール様の婚約者でも恋人関係でもございません。これ以上関わって欲しくはありませんので、お引き取り下さい」
「嘘よ。テオ君は、あんたと結婚するって言っていたじゃない。爵位が下だから逆らえないのをいい事に、商会を乗っ取る気なのは分かっているんだからね」
「イブさん。貴方の学舎は、ここから随分と離れているのでしょう。早く戻らないと、遅刻しますよ」
「話をすり替えないで!」
大きな声で喚き散らしておりますが、立ち止まって聞いていては私も遅刻してしまいますので、失礼かとは思ったのですが再び歩く事に致しました。
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