好きになったり、嫌いになったり

鈴蘭

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公爵家の茶会

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 荘厳な佇まいの公爵邸は、とても王都に滞在する間だけに建てられたとは思えない程の、威厳と格式を醸し出していました。

 「存在感が凄いわ。傍を通るだけでも、息をしては駄目な気がするの」
 「お嬢様。呼吸を止めてしまっては、話す事も出来なくなりますので、お止めください」
 「真に受けないで、ミヤ。貴方も緊張しているみたいね」
 「申し訳ございません。正直に申しますと、心臓が口から飛び出しそうでございます」
 「私も同じ気持ちよ」

 私は今、お茶会の招待を受けたので、ペンタール公爵邸へ向かっておりました。
 長い塀の横を馬車で走っているのですが、何処が正門なのか、まだ見えてもこないのです。
 あまりにも大きなお邸を見て、ミヤと二人で呆気にとられておりました。

 ペンタール公爵令嬢とは、学園で話しかけられた時に一度だけ会話をしただけだったので、何故招待状がきたのか理由がわかりません。
 何かの間違いではないかと思ったのですが、招待状を持って来た方は、間違いではないと言って帰られたのだそうです。
 疑問だらけではありましたが、公爵家からのご招待をお断りする事は無礼に当たると判断したお父様は、私にお茶会へ行く様にと仰ったのでした。

 知り合いがいると安心出来るので、ラノアたちも招待を受けたのか聞いてみたのですが、お誘いは受けていないと言っていたのです。
 どの様な理由で私が呼ばれたのかも分からず、格式高い公爵家のお茶会なので、かなり緊張しております。
 やっと正門に着きましたが、他の馬車が見当たらないので、もしかすると招待客はごく僅かなのかもしれません。

 門をくぐり抜けて暫く進むと、大きな扉の前で使用人が待機していたので、馬車を下りて招待状を渡しました。
 案内されるがままに廊下を歩いておりますが、肌に纏わりつく空気までもが厳かで、私の存在そのものが場違いな感じも致します。
 急なお誘いにもかかわらず、テオドール様がドレス一式を用意してくださったのには感謝しかありませんが、中身が貧祖なのが本当に申し訳なく思うのです。

 私、淑女らしく綺麗に歩けているのでしょうか?

 お茶会の会場に着くと、どうやら一番乗りだったらしく、まだ誰も来ておりませんでした。
 引かれた椅子に腰かけて、一人静かに待つ事二十分。
 私は、時間を間違えてしまったのでしょうか?
 誰もいらっしゃらない事に不安を覚えながらも、後ろに控えているミヤに声を掛ける勇気もなく、ただ椅子に腰かけている事しか出来ずにいました。

 しかし、待てど暮らせど誰一人いらっしゃらないのは流石におかしいと思い、傍に控えていた公爵家の使用人へ声を掛けようとした時でした。
 見知らぬ三人の令息が会場に入って来たかと思ったら、避ける間もなく両隣と前に陣取られ、囲まれてしまったのです。
 「ご令嬢。随分と、退屈されているようですね。メサラジーナ様は、もう少し遅れるそうなので、僕たちの話し相手になっていただけないでしょうか?」
 「ごきげんよう。お名前を、お伺いしても宜しいでしょうか、美しい人」

 ええと…どうしたら良いのでしょうか?
 公爵家にお呼ばれされた方たちだと思いますので無碍にするのは失礼でしょうが、かなり距離感が近いので、正直に申し上げますと非常に不愉快ですわ。
 ミヤの血相が変ったので、静止しているように合図をしました。
 相手が高位貴族の令息ならば、伯爵家の侍女が口を出しただけで、処罰されてしまう可能性もあるのです。

 「あの…恐れ入りますが、少し離れていただきたいのです。私には、将来を約束した殿方がおりますので、不用意に触れられては困るのです」
 「これは失礼を致しました。ご令嬢は、とても純粋な方なのですね。見た目の儚さが、貴方の美しさを更に引き立てておりまして、ついつい手が出てしまいます」
 「守って差し上げたくなる儚さは、まるで地上に舞い降りた天使の様に美しい」
 「どうかその瞳に、この僕だけを映し出しては頂けないでしょうか?貴方を一目見た瞬間に、僕の心を虜にしてしまう美しさは、とても罪深い」

 「………」
 次々と薄気味悪い台詞を言い合いながら、私の手を握ったまま離さずに距離を詰めてくる彼等は、一体どちらのご令息なのでしょう。
 いくら公爵家のお客様といっても、これ程馴れ馴れしくされる筋合いはございません。
 薄ら笑みを絶やさずに我慢をしておりますが、これは抗議をしても宜しいのではないでしょうか。
 まるで、私を馬鹿にしている様に思うのです。

 この屈辱に比べたら、テオドール様の浮気なんて可愛らしく思える程に、大胆になっていく令息たち。
 吐息がかかるのも不愉快極まりないというのに、太腿の上に手を乗せるなど言語道断です。
 ミヤの顔が般若の様になっていますし、私も、もう我慢の限界ですわ。

 「いい加減にしてくださいませ。何処のどちら様かは存じませんが、無闇矢鱈に触れてくるのは、不謹慎ではありませんか?とても不愉快ですわ」
 私が立ち上がり抗議をすると、彼らは心底驚いた表情になりました。

 些か淑女らしさに欠けているとは思いますが、令息たちの好きにされるくらいならば、恥をかいた方がマシですわ。
 「は?俺たちがこんなに誉めそやしているのに、君は、何も感じないのか?」
 
 「不快だと感じているから、止めていただきたいと言っているのですわ。先程も申し上げましたけれど、私には結婚を約束した殿方がいらっしゃるのです。それなのに、他の殿方に触れられて、気持ちの良いものだなんて思えません。いい加減にしてください」

 「強がる女性も、嫌いじゃないよ。貴方は、僕好みだからね、そう簡単に諦める事は出来ないなぁ」
 「嫌がる女性を口説き落とすのも、至福のひと時なのです」
 「君のその固い意志が、何処まで続くのか見物だな。俺たちに捕まって、最後まで虚勢を張っていられた女の子はいないからな」
 「人生で、一番幸せな時間を提供してあげるからさ、大人しく僕たちと遊ぼうよ」

 この方たちは、いったい何を考えているのでしょうか。
 距離感が益々近くなって、遠慮というものが全く感じられません。
 なんだか、嫌な予感が致します。
 ペンタール公爵令嬢には申し訳ありませんが、一応公爵邸には来ましたので、茶会に参加したという事にして頂きましょう。
 私は、失礼な事だとは思うのですが、帰る事に致しました。
 
 「ペンタール公爵令嬢はお忙しい様ですし、私はこの辺で失礼させていただきます。ミヤ、帰りましょう」
 「はい、お嬢様」
 私たちは、ペンタール公爵令嬢が一部始終を見ていた事に、全く気が付いていなかったのでした。
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