好きになったり、嫌いになったり

鈴蘭

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二人目の会計係

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 今日は学園もお休みですし、テオドール様からご招待を受けたので、新しくなったお店に来ております。
 「ごきげんよう、テオドール様。この度は、お店の新装開店おめでとうございます。この様なお目出度い日にお招きいただきまして、とても光栄ですわ」
 私は持って来たお祝いの花籠を、テオドール様にお渡ししました。

 「なんだか貧相な花籠なので、お店の雰囲気を壊してしまい、申し訳ありません。お恥ずかしいですわ」
 花屋に注文した方が、お店に相応しい花籠に仕上げてくさったのでしょうが、私は庭の花々を摘んで来てしまったのです。
 
 「ありがとう、リーゼ。何が貧相なんだ?伯爵邸の庭に咲いている、店では手に入らない珍しい色の花じゃないか。花屋のどんな高価な花籠よりも、ずっと綺麗で心が籠っている。カウンターの上に飾らせて貰うよ」
 「ありがとうございます。テオドール様は、お花にも詳しいのですね」

 伯爵家のご先祖様の中には、異国から珍しい花を取り寄せる趣味を持っていた方がおりました。
 今では没落寸前ですが、王国始まってからの長い歴史ある伯爵家なので、庭園には他家にも見劣りしない花々が咲き誇っているのです。

 「もうひとつ、菓子折りも持って来ましたの。我が家のシェフが焼いたクッキーです。従業員の皆様で、召し上がっていただけると嬉しいですわ」
 「伯爵家のシェフは、腕がいいからな。皆で、有難くいただくよ。俺も楽しみだ。ありがとう、リーゼ」
 テオドール様は、嬉しそうに菓子折りを受け取ると、従業員に手渡しておりました。

 「とても素敵な内装に仕上がりましたわね。女性物だけではなく、紳士物まで品揃えが豊富ですわ。全て、テオドール様が、ご自身で選んだお品なのですか?」
 私は、広々とした店内を見回して、感嘆のため息を漏らすのでした。

 「ここは、俺が十歳の誕生日に、親父……父から任された店なんだ。初めの頃は、もっと商品も少なく、お客様も然程多くはなかった。従業員たちの意見を聞いたり、自分の目で見て選んだ商品を並べたりして、少しずつだが売り上げも伸びてきた。俺だけじゃなく、従業員と一緒に作り上げてきた自慢の店だ。気に入ってくれたか?」
 「はい、とても気に入りましたわ。一日中、此処にいたい気分ですもの、見ていて飽きませんわ」
 私は瞳を輝かせて、お店に並んでいる小物や、素敵なドレスを眺めていたのです。

 「幼い頃からお店を任されて、ここまで大きく成長させるなんて、テオドール様には商才がおありなのですね」
 「才能なんて何もない、商売が好きなだけだ。小さな空間と、少人数の従業員の心配だけしていればいいからな。そんな俺と違って、リーゼは伯爵領の立て直しや、領民の事まで考えている。俺なんかよりも、ずっと大変な仕事を、受け継ごうとしているだろう。俺にはとても真似できない」
 「その様な事…貴族家の長子として産まれた者ならば、皆、当たり前にやっておりますわ。褒められるような事ではありませんのよ」

 テオドール様は、突然笑い出しました。
 「あははははは。水掛け論になってしまったな」
 「そうですわね。うふふ」
 私も、思わず釣られて笑ってしまったのです。
 この日、お互いに誉めそやしていたので、テオドール様と結婚しても幸せになれるのではないかと感じる事が出来ました。

 出来たのですが………
 翌日学園に来てみたら、相変わらずの放蕩ぶり、頭を抱えたくなりました。
 「ごきげんよ~う、リーゼリア嬢。君の愛しのお相手は、今日も女子生徒を侍らせて、とぉっても楽しそうだねぇ~」
 背後からいきなり声を掛けられて、驚きながら振り向くと、王太子殿下が立っておられました。

 「ごきげんよう、王太子殿下。この様な場所に、お一人で出歩いていて、大丈夫なのですか?お付きの方は、いらっしゃらないのですか?」
 平民も多く行き交う道端で、王太子殿下に会うとは、思ってもおりませんでした。

 「ん?ああ。キプロスとは、常に一緒にいる訳ではないんだよぉ。彼は、忙しい男だからねぇ。今頃は、図書館で、調べ物をしているのではないのかなぁ?」
 顎に指を当てて、空を眺めながら答えてくださいました。
 「さようですか…」
 どういたしましょう、何をお話したら良いのか、さっぱりわかりません!

 「ところでさ~。リーゼリア嬢に、頼みたい事があってぇ、君を探していたんだよぉ」
 「私に出来る事でしたら、なんなりとお申し付けくださいませ」
 王太子殿下から直々の頼み事なんて、お断り出来る筈がありません。
 どうか、簡単な事である様にと、祈るのでした。

 「実はねぇ。生徒会の書記を、あと一人選ばないといけないのだが、すっかり忘れてしまっていたのだよ。僕の知り合いは、男性ばかりだからさぁ。単刀直入に言うとね、生徒会に相応しい女子生徒を、紹介して欲しいのさっ。今日中に書類を製作してぇ、担当教員に提出しなくてはいけから、時間もないんだぁ。だ~か~ら!適任者を推薦してくれ、今すぐにねぇ」
 「今、すぐにですか?」
 王太子殿下は、それはもう素敵な笑顔を浮かべておられます。

 この方は…曲者ですわね、無茶振りにも程がありますわ。
 生徒会の役員を、右も左も分からない私に決めさせようだなんて、いったい何を考えていらっしゃるのでしょうか。
 胃が痛くなってきましたわ。

 逃げたくても、とても逃がしては貰えない雰囲気を、醸し出しておられます。
 もしかすると、殿下のこの様な暴走を止められるのは、側近でもあるモンテカルロ侯爵令息しかいらっしゃらないのかもしれません。
 無理難題を、私の様な者に押し付ける為に、態と逃げてきたのではないかと疑ってしまいます。
 
 「お…お時間は、いただけないのでしょうか?私には、気を許して相談出来る友人が、とても少ないので。その…どなたをご紹介したら宜しいのか、見当もつかないのです」
 「今、すぐにってぇ、言ったでしょう。聞いていなかったのかなぁ?僕は、王太子なんだよぉ。不敬だよねぇ」  
 「も、申し訳ございません!」
 私は、慌てて謝罪をしましたが、殿下はとても楽しそうな笑顔で見つめているのです。
 絶対に、私で遊んでいるのでしょう。

 「リーゼリア嬢がぁ、頭の中に描いている気の許せる友人は、誰なのかなぁ~?一人くらいは、いるでしょう?そのご令嬢を、紹介してくれるだけで、いいんだよぉ~」
 これは、ラノアの事を、事前に調べていらっしゃるのですね。
 本人の許可もなく、勝手に名前を出したくはないのですが…

 王太子殿下は、そんな私に考える暇も与える気はないご様子です。
 「誰なのぉ~?」
 ずいっと、身を寄せて、真っ直ぐに私を見つめていらっしゃいます。

 「ええと…ラノア・シェフレラ伯爵令嬢です」
 「ああ。双子姉弟の、姉の方だねぇ。了解~会計の二人目は、ラノア嬢にしようねぇ。ありがとぉ、リーゼリア嬢。彼女には、君の方から宜しく伝えておいてねぇ。頼んだよぉ~」
 王太子殿下は、大きく手を振りながら、爽やかな笑顔で去っていきました…

 「ラノア!ごめんなさい!!!」
 私は、誰もいなくなった道端で、大きな独り言を呟いたのです。

 テオドール様が、王太子殿下にペンタール公爵令嬢の事を相談されていたとは露知らず…
 重くみた殿下が、私の為を思って二人目の会計係を選ばせてくれたという事も、知る由はなかったのでした。
 
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