好きになったり、嫌いになったり

鈴蘭

文字の大きさ
40 / 52

居た堪れない

しおりを挟む
 私は、昼休みの食堂で、ラノアが生徒会の書記係になってしまった経緯を説明していました。
 「本当に、申し訳ないとは思ったのよ。他に思いつかなくて、咄嗟に口からラノアの名前が出てしまったの。ごめんなさい、私、今から王太子殿下のところへ行って来るわね。きちんとお断りして…」

 椅子から立ち上がって生徒会室へ行こうとしたのですが、ラノアは私の腕を掴んで、にこやかに笑い掛けてくれました。

 「待って、リーゼ。そんなに謝らなくても大丈夫よ。私は、リーゼが名前を出してくれた事が、とても嬉しいわ。だって、私の事を、一番に思い出してくれたのでしょう?それって、親友だと思っているのと同じことよね?私、それだけで充分嬉しいのよ。生徒会は………うん。リーゼと一緒なら、きっと楽しめると思うわ」
 私は、少し落ち着きを取り戻せた様で、ゆっくりと椅子に腰かけたのです。

 「生徒会か…面倒くさい雑用を、沢山押し付けられそうだよな…」
 「ちょっと、ハル。本当の事を、言わないで、気が滅入るわ」
 「ごめん、ごめん。その…良かったね、王太子殿下に見初められたら、未来の国母になれるよ」
 私は、ハルジオンの言葉を聞いて、飲みかけのスープを噴き出してしまいそうになったのを必死に堪えたのでした。
  危なかったわ…淑女にあるまじき失態を犯すところでした。

 「ちょっと、ハル!嫌な事を言わないでと、言っているでしょう。誰かに聞かれたらどうするのよ」
 ラノアは、辺りをキョロキョロと見回しながら、聞き耳を立てている人物がいないかどうかを確認しています。

 「王太子殿下は、いつになったら正式な婚約を結ぶのだろうね?」
 ハルジオンは、ラノアとは対照的に、呑気な事を考えているようです。
 「殿下の心配よりも、自分の心配をしたらどうなの、ハルジオン。良い婿入り先は、競争率が高いから、のんびりしていたら行き遅れるわよ」
 「僕の事を、心配してくれるの?ありがとう、リーゼ。でも、大丈夫だよ。叔父上には子供がいないから、婿入り先がなかったら、養子に入るつもりなんだ」

 私は、ハルジオンを揶揄ってみたくなりました。
 「あら、そうだったのね。ハルジオンは、女性からの人気があるから、えり好みをしているのかと思っていたわ」
 「あはは。リーゼって、時々失礼だよね」
 ハルジオンは、楽しそうに笑っています。
 「その言葉、そっくりお返しするわね」

 最近では、昼食時にテオドール様と遭遇する機会が、減ってきた様に思います。
 少し寂しいと感じる気持ちと、他の女子生徒と一緒にいる姿を見なくて済むと思う気持ちがあり、複雑な心境になっておりました。

 屋敷に戻れば、テオドール様に会えるのですが、やはり学園でも一緒に過ごしたいと思う気持ちを消す事が出来ずにいるのです。
 女心とは、厄介なものですね…
 
 「そういえば…最近、イブさんの姿がありませんわね。毎日の様に、私のところへ来ていたのに、学園をお休みされているのかしら?」
 「イブさんね…学園には、来ているみたいよ。ペンタール公爵令嬢と一緒にいるのを、よく見かけるわ」
 「あら、そうだったのね」
 「あいつ、ペンタール家の茶会に出た…っ痛!!!何をするんだよ、ラノ」
 ハルジオンは、ラノアに蹴とばされたみたいです。
 私は、ペンタール公爵邸のお茶会に招待された時の出来事を、思い出してしまいした。
 
 「本当にデリカシーがないわね。いつも、口を開く時は気を付けてって、言っているでしょう!」
 私が考え事をしていると、ハルジオンは何かを察したみたいです。

 「あ…ごめんね、リーゼ。嫌な事を、思い出させてしまった」
 「気にしないで、ハルジオン。私は、大丈夫よ。ただ…イブさんの事が気になっただけ」
 「もう!ハルの所為よ」
 「本当にごめんね。リーゼが気にするからって隠していたのに、うっかりしてしまった。イブの事、気になったよね…でも、リーゼが考えている様な事は、起きていないと思うよ…多分?」
 「ハル!もう、貴方は、黙っていなさい」

 ハルジオンが申し訳なさそうにしているのを見ていると、怒られた時の大型犬の様に見えてしまって、自然と笑顔になったのです。

 「ごめんなさいね、リーゼ。私たちが知っている事でよかったら話すけれど…聞く?」
 「そうね、気になるから教えて貰えるかしら」
 ハルジオンから、効果音が聞こえてきそうな笑顔を向けられました。
 やっぱり、大型犬みたいで可愛く見えてしまいます。

 「うん。僕たちも、噂を耳にしただけだから、事実かどうかは分からないけれどね。イブは、ペンタール公爵令嬢の事を、親友だって触れ回っているみたいだ。実際に、一緒にいる姿を見かけた事があるし、ペンタール公爵邸で開かれる茶会にも毎回参加していると聞いているよ」
 「毎回?」
 ハルジオンは、ゆっくりと頷きました。

 そして、ラノアも知っている事を、教えてくれたのです。
 「そうなのよ。私たちも、最初は信じてはいなかったのだけれど、親友って言うのは本当みたいよ。ペンタール公爵令嬢と一緒に、公爵家の馬車に乗り込むイブさんの姿を、沢山の生徒が目撃しているわ。私たちも、見た事があるもの」
 「そうなのね。なんだか、意外な組み合わせだわ。イブさんは、テオドール様の事を、お慕いしていると思っていたのだけれど…諦めたのかしら?」
 ラノアとハルジオンは、お互いに顔を見合わせてから、私の方へと向き直りました。

 「イブさんって、フェナジンの商店から、出入り禁止になったらしいわよ」
 「えっ。どうして?テオドール様の幼馴染なのに、出入り禁止だなんて…」
 「フェナジンからは、何も聞いていないの?」
 「初耳だわ」
 「そう。実はね…ペンタール公爵令嬢と付き合う様になってから、フェナジンの商店に頻繁に通う様になって、お金も払わずに凄い数の商品を持ち出していたらしいの。なんでも男爵位や、子爵位を買える金額だとか、領地を丸ごと買い取れるだけの金額だったとかって噂なのよ」
 「噂だからね、尾ひれ背びれがついているとは思うけれど…茶会の度に、違うドレスやアクセサリーを身に着けていたって、公爵家を辞めた使用人が言いふらしていたらしいよ。とても平民が身に着けられる様な代物でもなかったってね」
 
 私は、背中から氷水をかけられた様な気分になりました。
 爵位や領地を買える程の金額を使い込まれてしまったら、テオドール様の商店はどうなってしまうのでしょうか。
 新装開店したばかりだというのに、商店をたたむ様な事になってしまったらと思うと、いたたまれない気持ちになったのです。
 顔色が悪かったのでしょう、ラノアが心配そうに見ています。

 「大丈夫よ。フェナジン商会って、国一番の大富豪でしょう。イブさんが豪遊したくらいで、商店が傾く事なんて、万が一にもないわよ」
 「そうだよ。テオドールだって、大した事じゃないから、リーゼに何も言わなかったんだと思うよ」
 「そうね、心配する必要は、ないわよね」

 ラノアとハルジオンが言う様に、フェナジン商会は国一番の大富豪なのですもの。
 私が気に病んだとしても、どうにも出来ないのですから、心配するのは止める事にいたしました。

 それはそうと、ペンタール公爵令嬢と関わらなければ、イブさんがテオドール様の商店から出入り禁止になる事もなかったのではないでしょうか?
 私は、少しだけ複雑な気持ちになったのです。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お久しぶりです旦那様。そろそろ離婚ですか?

奏千歌
恋愛
[イヌネコ] 「奥様、旦那様がお見えです」 「はい?」 ベッドの上でゴロゴロしながら猫と戯れていると、侍女が部屋を訪れて告げたことだった。

尽くしてきた婚約者に裏切られたので、婚約を解消しました〜彼が愛に気づいたのは、すべてを失ったあとでした〜

ともどーも
恋愛
「今回で最後だ。誓うよ」 これは二度目の『結婚式キャンセル』の時に言われた言葉。 四年間、愛する婚約者ディートリッヒのため尽くし続けてきたイリス。 だがディートリッヒは、イリスの献身を当然のものとし、やがて初恋の令嬢エレノアを優先するようになる。 裏切り、誤解、そして理不尽な糾弾。 心も身体も限界を迎えた夜、イリスは静かに決意した。 ──もう、終わらせよう。 ディートリッヒが「脅しのつもり」で差し出した婚約解消の書類を、イリスは本当に提出してしまう。 すべてを失ってから、ようやく自分の愛に気づいたディートリッヒ。 しかしもう、イリスは振り返らない。 まだ完結まで執筆が終わっていません。 20話以降は不定期更新になります。 設定はゆるいです。

皇太女の暇つぶし

Ruhuna
恋愛
ウスタリ王国の学園に留学しているルミリア・ターセンは1年間の留学が終わる卒園パーティーの場で見に覚えのない罪でウスタリ王国第2王子のマルク・ウスタリに婚約破棄を言いつけられた。 「貴方とは婚約した覚えはありませんが?」 *よくある婚約破棄ものです *初投稿なので寛容な気持ちで見ていただけると嬉しいです

醜いと虐げられていた私を本当の家族が迎えに来ました

マチバリ
恋愛
家族とひとりだけ姿が違うことで醜いと虐げられていた女の子が本当の家族に見つけてもらう物語

「聖女に比べてお前には癒しが足りない」と婚約破棄される将来が見えたので、医者になって彼を見返すことにしました。

ぽんぽこ@3/28新作発売!!
恋愛
「ジュリア=ミゲット。お前のようなお飾りではなく、俺の病気を癒してくれるマリーこそ、王妃に相応しいのだ!!」 侯爵令嬢だったジュリアはアンドレ王子の婚約者だった。王妃教育はあんまり乗り気ではなかったけれど、それが役目なのだからとそれなりに頑張ってきた。だがそんな彼女はとある夢を見た。三年後の婚姻式で、アンドレ王子に婚約破棄を言い渡される悪夢を。 「……認めませんわ。あんな未来は絶対にお断り致します」 そんな夢を回避するため、ジュリアは行動を開始する。

ふたりの愛は「真実」らしいので、心の声が聞こえる魔道具をプレゼントしました

もるだ
恋愛
伯爵夫人になるために魔術の道を諦め厳しい教育を受けていたエリーゼに告げられたのは婚約破棄でした。「アシュリーと僕は真実の愛で結ばれてるんだ」というので、元婚約者たちには、心の声が聞こえる魔道具をプレゼントしてあげます。

公爵令嬢、学校をつくる。 ―学院のない世界に学院を作りますわ!―

鷹 綾
恋愛
男が学び、女は飾るだけ—— そんな世界に、ひとりの公爵令嬢が問いを投げた。 レクチャラー・トレイルブレイザー。 名門公爵家に生まれた彼女は、幼い頃に父から“学院”という御伽話を聞く。徒弟でも修道院でもない、講師を集め、制度として人を育てる場所。 この世界には、まだその言葉すら存在しなかった。 「講師を一か所に集めますわ」 家庭ごとに高額な家庭教師を雇う非効率。 才能があっても機会を得られない現実。 身分と財力だけが教育を決める社会構造。 彼女は合理性を武器に、貴族子弟のための“学院”を創設する。 複数の生徒から月謝を集めることで、家庭教師より安価に。 講師にはより高額な報酬を。 制度として成立する形で、教育を再設計する。 やがて学院は成果を出し、“学院出身”は優秀の証となる。 その基盤の上で、彼女は次の一歩を踏み出す。 ——貴族女子学院。 「美しさと知性と教養を兼ね備えた令嬢。婚約先は、よりどりみどりですわ」 表向きは婚約戦略。 だが本当の狙いは、女性の地位向上。 男尊女卑が当然の世界で、女が学ぶことは前例なき挑戦。 保守派の反発、王太子からの婚約打診。 それでも彼女は揺れない。 「婚約は家同士の契約です。決定権は父にあります」 父を盾にしながら、順序を守り、世界を壊さず、底から上げる。 恋より制度。 革命ではなく積み重ね。 学院のない世界に、学院を。 これは、静かに世界を変えようとする公爵令嬢の物語。

真実の愛のお相手に婚約者を譲ろうと頑張った結果、毎回のように戻ってくる件

さこの
恋愛
好きな人ができたんだ。 婚約者であるフェリクスが切々と語ってくる。 でもどうすれば振り向いてくれるか分からないんだ。なぜかいつも相談を受ける プレゼントを渡したいんだ。 それならばこちらはいかがですか?王都で流行っていますよ? 甘いものが好きらしいんだよ それならば次回のお茶会で、こちらのスイーツをお出ししましょう。

処理中です...