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劣等感(テオドール・フェナジン視点)
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「イライラする」
リーゼが生徒会に入ってからは、尚更気が休まらなくなっていた。
ジルテック・ハーデンベルギア公爵令息。
あいつは、間違いなくリーゼを狙っているだろう。
リーゼは気付いていない様だが、護衛たちの報告書を見る限り、毎回馬車止まりまでエスコートしているのは下心があるからだ。
だが、それ以上の付き合いを求めてこないのは、俺との結婚が待っている事を知っているからだろうと思っていた。
そんな矢先、まさか直接訪ねて来るとは、想像もしていなかった。
「虎視眈々と、横取りする機会を狙っている猛獣の様で、気味が悪いな…」
大切な初恋相手を奪われたくはないが、俺の様な元平民と結婚するよりも、貴族の令息と結婚した方が良いのではないだろうか?
ここ数年、伯爵家の入り婿としての教育を受けてきたが、俺には貴族として生きるのは性に合わないのではないかと考える事が多くなっている。
リーゼの事は、心から愛しているが、本当にそれだけでこの婚姻を勧めてしまってよいのか疑問も感じていた。
貴族は、貴族とくっ付くのが好ましい、それは嫌という程理解している。
だから、慣れない環境にも、必死になって食らい付いてきた。
本物の貴族にはなれなくても、これから立派な貴族の伴侶として生きる術は、もう身に着けたつもりでもいた。
だが、本物の貴族と比べたら、所詮は爵位を買った親の息子でしかないんだ。
ハーデンベルギア公爵令息は、圧倒される程の気品が溢れ出ていた。
生まれながらの高位貴族としての品格と、自信に満ち溢れていて、リーゼリアと並んでもお似合いだと分かってしまったんだ。
どんなに商会を大きくしても、沢山の貴族の顧客を抱えたとしても、俺は平民なんだと思い知らされる。
これは、どうにも出来ない、生まれに対する劣等感だ。
俺では、リーゼの隣に立つ資格は初めから無かったのだと、ジルテック・ハーデンベルギアを思い出すだけで痛感するのだ。
この劣等感は、恐らく無くなる事はないだろう。
花祭りで、リーゼに求婚したと言っていたな…ははっ
俺は求婚しなかった。
その時点で負けていたのだと思うと、乾いた笑みが零れる。
「………人生とは、ままならないものだな」
執務室で物思いに耽っていると、使用人が扉を叩いた。
入室を許可すると、恭しく挨拶をしながら部屋に入って来る。
手には、レースの様な縁取りがされたゴールドのトレイを持っており、一通の封筒が乗せられていた。
「テオドール様、お手紙が届いております」
「またか…」
ため息交じりに手紙を受け取り、封筒がボロボロになるのも構わず乱暴に封を開けて、中から数枚の便せんを取り出す。
最近は、ペンタール公爵令嬢からの呼び出しが増えている。
贔屓にしてくれるのは有難いが、下心を隠そうともしない態度に辟易していた。
毎回熱烈なアプローチをされるのだが、どうやって怒りを買わずに宥めるか、考えるだけで胃が痛くなる。
無下にして、またリーゼへ怒りの矛先を向けられては困るからな。
「本当に、厄介な生き物だな…いっそのこと、湖にでも沈めてしまおうか」
物騒な事を口走ってしまったが、それを咎める者は、ここには誰もいない。
俺は、ペンタール公爵令嬢から向けられる思いを、鬱陶しく感じていた。
「押し付けられる恋慕というのは、こんなにも相手を疲労させるものなのか?」
誰に問いかけるでもない独り言に、答えをくれる者もいなかった。
リーゼは、俺の事を、どう思っているのだろう…
今更だが、自分の身勝手さに後悔の念を抱くのだった。
リーゼが生徒会に入ってからは、尚更気が休まらなくなっていた。
ジルテック・ハーデンベルギア公爵令息。
あいつは、間違いなくリーゼを狙っているだろう。
リーゼは気付いていない様だが、護衛たちの報告書を見る限り、毎回馬車止まりまでエスコートしているのは下心があるからだ。
だが、それ以上の付き合いを求めてこないのは、俺との結婚が待っている事を知っているからだろうと思っていた。
そんな矢先、まさか直接訪ねて来るとは、想像もしていなかった。
「虎視眈々と、横取りする機会を狙っている猛獣の様で、気味が悪いな…」
大切な初恋相手を奪われたくはないが、俺の様な元平民と結婚するよりも、貴族の令息と結婚した方が良いのではないだろうか?
ここ数年、伯爵家の入り婿としての教育を受けてきたが、俺には貴族として生きるのは性に合わないのではないかと考える事が多くなっている。
リーゼの事は、心から愛しているが、本当にそれだけでこの婚姻を勧めてしまってよいのか疑問も感じていた。
貴族は、貴族とくっ付くのが好ましい、それは嫌という程理解している。
だから、慣れない環境にも、必死になって食らい付いてきた。
本物の貴族にはなれなくても、これから立派な貴族の伴侶として生きる術は、もう身に着けたつもりでもいた。
だが、本物の貴族と比べたら、所詮は爵位を買った親の息子でしかないんだ。
ハーデンベルギア公爵令息は、圧倒される程の気品が溢れ出ていた。
生まれながらの高位貴族としての品格と、自信に満ち溢れていて、リーゼリアと並んでもお似合いだと分かってしまったんだ。
どんなに商会を大きくしても、沢山の貴族の顧客を抱えたとしても、俺は平民なんだと思い知らされる。
これは、どうにも出来ない、生まれに対する劣等感だ。
俺では、リーゼの隣に立つ資格は初めから無かったのだと、ジルテック・ハーデンベルギアを思い出すだけで痛感するのだ。
この劣等感は、恐らく無くなる事はないだろう。
花祭りで、リーゼに求婚したと言っていたな…ははっ
俺は求婚しなかった。
その時点で負けていたのだと思うと、乾いた笑みが零れる。
「………人生とは、ままならないものだな」
執務室で物思いに耽っていると、使用人が扉を叩いた。
入室を許可すると、恭しく挨拶をしながら部屋に入って来る。
手には、レースの様な縁取りがされたゴールドのトレイを持っており、一通の封筒が乗せられていた。
「テオドール様、お手紙が届いております」
「またか…」
ため息交じりに手紙を受け取り、封筒がボロボロになるのも構わず乱暴に封を開けて、中から数枚の便せんを取り出す。
最近は、ペンタール公爵令嬢からの呼び出しが増えている。
贔屓にしてくれるのは有難いが、下心を隠そうともしない態度に辟易していた。
毎回熱烈なアプローチをされるのだが、どうやって怒りを買わずに宥めるか、考えるだけで胃が痛くなる。
無下にして、またリーゼへ怒りの矛先を向けられては困るからな。
「本当に、厄介な生き物だな…いっそのこと、湖にでも沈めてしまおうか」
物騒な事を口走ってしまったが、それを咎める者は、ここには誰もいない。
俺は、ペンタール公爵令嬢から向けられる思いを、鬱陶しく感じていた。
「押し付けられる恋慕というのは、こんなにも相手を疲労させるものなのか?」
誰に問いかけるでもない独り言に、答えをくれる者もいなかった。
リーゼは、俺の事を、どう思っているのだろう…
今更だが、自分の身勝手さに後悔の念を抱くのだった。
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