好きになったり、嫌いになったり

鈴蘭

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テオドールとの会話(ジルテック・ハーデンベルギア視点)

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 生徒会役員会が終わり、いつもの様にリーゼリアを、馬車止まりまでエスコートして行った。
 他愛のない会話でも、瞳を輝かせて聞いてくれる彼女の優しさは、幼い頃にあった時と何も変わってはいなかった。

 昼休みになると、遠目に何度かリーゼリアを見つけた事もあったが、いつも困った様な悲しい様な表情をしていた。
 テオドールの婚約者だと言い張っている平民の娘、ペンタール公爵家の令嬢、一般の女子生徒たちからの嫌がらせは目に余る。

 リーゼリアは、悪い意味で有名な存在になっており、悪評も後を絶たない。
 俺の耳にも五月蠅い程に入ってくるが、どれも事実無根だと分かるものを、面白おかしく広められているだけだった。
 学園に通う生徒たちは、人の不幸が面白くて仕方がないのだ。
 
 フェナジン商会は、国一番の豪商と言われている。
 平民だけではなく、下位貴族の娘たちも、テオドールとの婚姻を夢見ているのだろう。
 身近に存在する相手が、親しく語りかけてくるのだから、希望を持つのは当たり前の事だ。

 テオドールが正式な婚約を結ばなかったのだから、リーゼリアを気に入らなかったのだと思われても仕方がない。
 ならば、テオドールに気に入られ、婚約者の座を手に入れようとする者が出てもおかしくはないのだ。
 
 しかし、どんなに親しくなってもテオドールの心を手に入れる事が出来なかった娘たちは、その怒りの矛先をリーゼリアへと向けてくる。
 悪いのは弄んでいる男の方だというのに、平民の娘も、貴族令嬢もどうして関係のないリーゼリアへ悪意を向けるのか理解に苦しむ。

 テオドールも、リーゼリアが危険な目に遭わされている元凶が、己にある事を理解していないのだろう。
 俺は、腹の底から怒りが湧いてきた。
 「不甲斐ない…」
 
 週末、学園が休みになると、リーゼリアに会えない寂しさに襲われる。
 伯爵家を訪ねる口実もなければ、外へ呼び出す口実もない。
 俺は、魂が抜けた亡骸の様になって、王宮へと来ていた。

 「辛気臭いぞぉ~ジルテック。僕の私室が、葬儀場の様ではないかぁ」
 「気にしないでくれ」
 「目の前で、何度も溜息を吐かれていては、気にするなという方が無理だあぁぁぁ~ そんなにリーゼリア嬢の事が気になるのであれば、公爵に頭を下げて来たらよいだろぉ!婚約を結ばせてくれるまで、付き纏っていろぉ!この、軟弱者がぁぁぁ~」

 グラナダは、目の前にあった紙をクシャクシャに丸め投げつけると、俺の頭にコツンとぶつかって床に落ちた。
 「それでは、彼女の気持ちを蔑ろにしてしまう。リーゼリアは、テオドールしか見ていない。俺の事なんて、学園の先輩程度にしか思われていないのだ…はぁ」

 もう何度目かも分からない溜息を吐いた俺に、グラナダは困った奴だと言わんばかりの態度で接していた。
 何を言っても前向きになれない俺に、とうとう痺れを切らしたグラナダは、突如近衛兵を呼び寄せたのだ。
 「お~い!誰かこの辛気臭い男を、テオドールの商会へ放り投げて来てくれぇ~」
 「!?」

 俺が顔をあげると、両脇を捕まえられ、引き摺られる様にグラナダの私室から連れ出されてしまった。
 近衛兵たちは「ご命令ですので」と言いながら、無抵抗の俺を馬車へと乗せ、テオドールの店の前まで来ると迷いなく店内へ放り込んだのだ。

 「いらっしゃいませ。どうぞごゆっくりとお過ごしくださいませ」
 礼儀正しい女性店員が、笑顔で俺を歓迎してくれた。
 「何を、お求めでしょうか?宜しければ、一緒にお気に入りのお品を、お探しいたしますよ」
 「あ…いや…すまない。テオドール・フェナジンと話がしたい。俺は、ジルテック・ハーデンベルギアだ」
 「少々お待ちくださいませ」
 店員は、笑顔のまま奥の部屋へと入っていった。
 俺は、何故、彼と話がしたいと言ってしまったのか?
 考える暇もなく、店員がテオドールのいる部屋へと案内してくれた。
 
 店の雰囲気とは少し違い、落ち着いた色調の清楚な部屋の奥にある執務机で、小難しい顔をしながらペンを走らせているテオドールの姿が視界に入った。
 先触れも出さずに突然やって来た、失礼な訪問客に苛立ちを隠そうともしていないのか?
 俺が公爵家の子息だから、断れずに取り敢えず部屋へと通したのか?

 「どうぞ、お座りください。いま、お茶をご用意いたしますね」
 「すまない」
 彼女は、秘書なのだろうか?
 テオドールは、一言も話さず、俺を見ようともしなかった。
 『非常識なのは俺の方だからな、部屋に通して貰えただけ、有難い』
 居心地の悪さを感じたが、茶を飲みながら暫く待つ事にした。
 
 「お待たせしました、ジルテック公爵令息。急ぎ、片付けねばならない仕事がありましたので、お声もかけずに申し訳ありませんでした」
 書類の整理が終わったようで、テオドールが向かいのソファーへと腰かけてきた。
 「いや。突然の訪問にも関わらず、時間を作ってくれた事に感謝する」
 「早速で申し訳ございませんが、次の仕事もありますので、手短にご用件をお聞かせいただけると助かります」
 そうだな…俺と違って、こいつは仕事をしているのだ。
 暇潰しに付き合わせてしまい、申し訳ない思いを感じたので、迷わず素直な気持ちを伝えてみようと考えた。

 「単刀直入に言わせてもらおう。俺は、リーゼリア・ノワール伯爵令嬢と、口頭だけであったが結婚の約束をしていた。幼い頃、花祭りで一緒に踊ったあの日に求婚してから、ずっと彼女を思い続けている」
 テオドールは、驚いて目を見開きながらも、俺の言葉を黙って聞いていた。
 「フェナジン子爵が、没落寸前だった伯爵家を救い出し、君と結婚の約束をさせた事は知っている。俺は、彼女が窮地に立たされていても、助けてあげる事は出来なかった。伯爵家を救ってくれた事には、心から感謝もしている。だが、君の、ノワール嬢への態度は度し難い。他人の行動に口を出す権利はないが、ノワール嬢に気持ちがないのであれば、彼女を解放して欲しい」
 
 俺は、包み隠さず本心を曝け出した事に、何の後悔もしていない。
 テオドールは、暫く考えていたが、言葉を選ぶように話し始めた。
 「俺は、リーゼリアを愛しています。俺にとっても、初恋の相手です。貴方と同じく、花祭りで一緒に踊った事もありますが、プロポーズまではしませんでした。大人になってから再会して、幼い頃の想いが出てきたのです。成長したリーゼリアは、益々俺の好みの女性になっていましたので、簡単に手離す気はありません。どうか、お引き取りください」

 なるほど、リーゼリア程の女性だ、気に入らない訳がない。
 「そうか。今は、大人しく引き下がろう。悔しいが、俺の力では、貴方の足元にも及ばない。忙しいなか、時間を取ってくれた事に、感謝する」
 俺は立ち上がると、軽く会釈をして部屋を出た。

 店の外では、王宮から乗って来た馬車が待機していたので、遠慮なく乗り込む。
 「手土産を買いたい。いつもの店に寄ってくれ」
 「畏まりました」
 御者は、グラナダの好物が売っているスイーツ店に向かって馬を歩かせた。
 手ぶらで帰ったら、グラナダがへそを曲げてしまう。
 不貞腐れた親友の顔を思い出すと、少しだけ気持ちが晴れた気がした。

 テオドールの言葉を聞いて、リーゼリアへの想いに、諦めがついた訳ではない。
 ただ、気持ちを伝えた事で、変な闘志に火が点いてしまったのである。

 グラナダの言う通り、父様を説得してみよう。
 正式な婚約をしていないのだから、俺がリーゼリアに求婚しても、咎められる筋合いはない。
 没落寸前の伯爵家と縁を結ぶ事に反対されるのは分かり切っていたが、何もせずにただ指を加えて見ている事は出来ないと思ったのだ。
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