好きになったり、嫌いになったり

鈴蘭

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牢屋の中で(イブ視点)

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 テオ君が、意地でもあたしとの結婚を考えようとしてくれないのは、きっとリーゼのせいだわ。
 こうなったら、目障りなあの女を消してしまえばいいのよ。
 あいつがいなくなれば、テオ君も目を覚まして、あたしだけを見てくれるに違いないもの。

 そう確信したあたしは、貧民街にいる動けそうな奴らに、メサラジーナ様から貰った売れない宝石を渡して汚れ役を頼んだわ。
 「それをあげるから、ノワール伯爵家のリーゼリアを誘拐して、二度と戻って来れない場所へ、捨てて来てちょうだい。なんなら、娼館に売り払っちゃっても構わないわ」

 馬鹿な男たちは、キラキラと輝く、見た事もないアクセサリーに釘付けになった。
 「すげーぞ!これで俺も、遊んで暮らせる」
 「これを売り払えば、こんなドブ臭い街ともおさらば出来るぜ」
 「忘れないでよ。絶対に、あたしから頼まれたって、口が裂けても言わないって約束だからね」
 喜んでアクセサリーを受け取った男たちは、あたしには目もくれずに駆け出して行った。

 これで、リーゼを排除出来る。
 「いい気味だわ。あたしからテオ君を奪い取ろうなんてするから、酷い目に遭うのよ」
 もう二度とあの女に会う事もなくなると思うと、あたしは気分が凄く良くなった。
 「だいたい一週間くらいかな?リーゼが行方不明になったと、テオ君が理解する頃に、優しく包み込んであげなくちゃね」
 
 もう学園に通う必要はなくなったけれど、テオ君に会える唯一の場所だから、面倒くさいけれど次の日も学園へ行く事にした。
 貧民街なんて、大嫌い。
 少しでも早くここから抜け出したくて、古びた壊れかけの扉を開けた。
 すると、いつもはいない筈の憲兵隊員が待ち構えていて、目の前を通り抜けようとしたあたしに声をかけてきた。

 「ちょっといいかな。君は、イブだろう?話を聞かせて欲しいから、憲兵隊の詰め所まで同行して貰うよ」
 「なんでですか?あたしは、今から学園に行かないといけないんです。あんたたちに付き合っている暇はないの。悪いけれど、帰ってちょうだい」
 「俺たちも帰りたいんだけれどね、ノワール伯爵令嬢の事で、話を聞かないといけないんだ。君には、心当たりがあるだろう?拒否権はないから、大人しく着いて来なさい。どうしても嫌だと言うのなら、縛り上げないといけなくなる」
 さっきまでとは違い、きつい表情で見下ろしてくる隊員の目に、思わず背筋が凍り付く感じがした。

 どうしよう…おとなしく着いて行かないと、きっと酷い目に遭うわ。
 でも、どうして憲兵隊員が、あたしのところに来たの?
 もしかして、あいつら失敗した?
 頭の中で、いろんな事がグルグルと回って眩暈がしてきた。

 でも、あたしが頼んだって証拠はない筈だもの、大丈夫よねきっと…
 そう思ったけれど、直ぐにそんな考えは甘かったと理解したの。

 「どうして…」
 あたしは、憲兵隊員の後ろに隠れていた男たちを見つけて、唖然としてしまった。
 「貴族令嬢なんかに手を出したら、俺たちは処刑されちまう。そんな危ない橋を渡るくらいなら、お前を突き出した方が余程ましだぜ。悪く思うなよ」
 「自分で蒔いた種だ。お仕置きは、きっちりとして貰うんだな」
 男たちは、下卑た笑い声を出して、憲兵隊員の後ろであたしを見下している。

 悔しい。
 騙された事を知って後悔しても、もう遅かった。
 あたしは、テオ君と結婚して贅沢三昧に暮らしたかっただけなのに、どうしてこんな事になっちゃったの?

 憲兵隊員に拘束されて、詰め所に連れて行かれそうになり、助けを求める様に後ろを見たけれど…
 父さんと母さんは、道連れは勘弁して欲しいとばかりに、あたしを見捨てて慌てながら窓から逃げ出して行くところだった。

 あたしばっかりこんな酷い目に遭うのは、全部、リーゼが悪いんだ。
 父さんと母さんだっていなければ、あたしはメサラジーナ様のお屋敷で、お姫様みたいに暮らせたのに!

 「全部、周りの所為じゃない!あたしは、何も悪い事なんてしていないじゃない!」
 どんなに叫んでも、憲兵隊員は許してくれなかった。

 無理やり詰め所に連れて行かれた後で、どうしてリーゼを誘拐しようとしたのかを聞かれたから、正直に全部話したのに…
 誰も、あたしの気持ちを理解してくれる人はいなかった。
 取り調べは何日も続いて、判決が出るまでは、少しだけマシな牢屋に入れられる事になった。

 貴族令嬢を誘拐したり、誘拐する計画を立てただけでも極刑になる。
 そんなのは、この国に住んでる人間なら、子供でも知っている事だ。
 だからといって、誘拐事件が無い訳じゃないよ。

 バレずにやっている人たちだっているんだから…
 あたしは、この先どうなっちゃうんだろう?
 「お願い、テオ君、助けてよ」
 牢屋の冷たい鉄格子を握りしめて、必死に声に出してみたけれど、テオ君が助けに来てくれる事はなかった。

 不安で泣いているあたしを惨めに思ったのか、看守が声をかけてきた。
 「お前の両親は、酷い親だな。娘を置いて、逃げやがった。まあ、捕まるのも時間の問題だろうがな。貴族令嬢の誘拐は、例え未遂であっても極刑になる。家族だって、連帯責任を取らされる事くらい、知っているだろう?何故、馬鹿な事を考えたんだ?」
 「あたしは、悪くないわ。リーゼが現れなければ、テオ君と結婚出来たんだもん。あの女が、あたしの幸せを邪魔したのよ!全部、あの女が悪いんだから」
 「そうかい。お前の王子様にも聞いたがな、お前と結婚する気は全くないと言っていたぞ。何度も断っているのに、付き纏われ迷惑していたそうだ。お前がどうなろうと、関係ないって様子だった。むしろ、ノワール伯爵令嬢を誘拐しようと企てた事に、えらくご立腹だったな。磔になったら、真っ先に罵りに来ると言っていたぞ」
 「嘘よ!そんなの、絶対嘘に決まっているわ」
 この看守は、どうして酷い事を言えるの?
 テオ君が、そんな事言う筈ないのに…

 「そう言えば、お前が雇った男たちは、炭鉱での強制労働が決まったぞ。あいつらは、ペンタール公爵家の、家紋の入った宝石を持っていたからな。公女様に確認をしたら、お前に渡した物だと仰っていた。お前から盗んだ品として、公女様がお認めになったんだ。あれは、お前が公女様から貰った物なんだってな。あれ程高貴なお方と付き合いがあるのに、お前は本当に、馬鹿な事をしたな」
 看守は、心底呆れたという様に、あたしを見ていた。

 「メサラジーナ様は、あたしが牢屋に入れられた事を、知っているの?」
 「ああ、知っているさ。教えたからな。そのうち面会に来ると、言っていたぞ。それまでは、お前を生かしておく様にとも、言われている。命拾いしたな」
 看守は、もう興味が失せたのか、あたしの目の前で持って来たサンドイッチを美味しそうに食べ始めた。
 あたしのお腹が、グゥと鳴ったのを聞いて、ニヤリと笑っている。

 平民街を追い出されてから、まともな食事をしていなかった。
 牢屋で、看守に見張られたままだけれど、時間になれば食事が運ばれて来る。
 粗末な料理でも、今のあたしには、唯一の楽しみなの。
 「早く食事の時間にならないかな…」
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