1 / 2
プロローグ
しおりを挟む
「ミヤ!早く花冠を作らないと、花祭りに間に合わないわ」
「そんな、待ってください。私は不器用だから、お嬢様の様に、上手に出来ないのです」
貴族家の庭園で、幼い少女が二人、いろとりどりの花を摘んで冠を編んでいる。
一人はこの屋敷の娘のリーゼリアで、もう一人は使用人の娘なのだが、幼い二人は姉妹の様に仲が良い。
出来上がった花冠を頭に乗せると、待たせていた馬車に急いで飛び乗ったのである。
待ちゆく人々は皆、お祭りに浮足立っており、いつもは出ていない屋台がところ狭しと並んでいた。
メイン会場となる中央広場では、既に踊りの輪が出来ており、軽快な音楽に合わせて楽しむ人々でより賑わいを見せている。
路肩には、大きな花木が整然と並ぶように植えられており、綺麗なピンク色の花を満開に咲かせていた。
風が通り過ぎると、ふわりと散った花びらが、ひらりひらりと弄ばれながらゆっくりと石畳の上に落ちていく。
幻想的な雰囲気を持つ花木の下では、初々しい恋人たちが、これから訪れる明るい未来を楽し気に語っている。
その向こう側では、老年の夫婦がお互いを支え合う様に寄り添いながら、花木の美しさに魅了された様に眺めていた。
長い間支え合いながら生きて来た老夫婦を祝福するかの様に、一枚の花弁が花木から離れて優雅に舞いながら、老夫人の帽子に降りてくる。
老紳士が妻の帽子についた花弁を取り、嬉しそうに手渡すと、夫人は優しい眼差しを夫に向けて花弁を受け取った。
そして二人は慈しみ合いながら、幼い子供たちが楽し気に踊っている輪の方へ視線を向けて微笑み合うのだった。
リーゼリアとミヤは馬車から下りると、真っ先に踊りの輪の中に入っていく。
「間に合って良かったわ。最後の曲は、どんな子と踊れるのか、凄く楽しみよ」
「お嬢様。私は、最後まで踊れる自信がないわ。途中で離れてしまっても、私を置いて帰らないでくださいね」
「置いていく事なんてしないわよ。心配しないで、休みながらでもいいから、一緒に楽しく踊りましょう」
二人は、見知らぬ子供たちの輪の中でも怖気付く事なく、花祭りを心の底から楽しんでいた。
リーゼリアは踊りに夢中になって楽しんでいたので、あっと言う間に最後の曲になってしまった事を、とても残念に思っていた。
しかし、最後の踊りのパートナーになったのは同じ年頃の少年だったので、とても嬉しく感じたのである。
だが少年は、笑顔を作ってはいるがどこか悲し気に見えたので、リーゼリアはいつも以上に楽しい会話を心掛けたのだ。
「聞いてくれる?この間、お天気が良かったので、お庭でマナーの授業をうけていたの。そうしたら、何処から入ってきたのか分からないのだけれど、大きな白い犬が走って来たのよ。その後、どうなったと思う?」
「大きな犬?もしかして、噛みつかれたの?」
「いいえ。私の家庭教師を、おもいきり突き飛ばしたのよ。目の前には池があったから、飛び込む様に落ちていったの」
「池に、落ちたの?」
「いつも意地の悪い事ばかり言ってくる家庭教師だったから、私はとってもスッキリしたの」
「あはは。それは、スッキリするね。僕も見てみたかったよ」
少年は、リーゼリアの気遣いを理解したのか、可愛らしい笑顔を見せていた。
最後の曲が終わると、少年はとても恥ずかしそうに、頭の上に乗せていた花冠を手に取った。
「あのね…大人になったら、僕のお嫁さんになって欲しい。この花冠を、受け取ってくれるよね?」
「はい。喜んで」
リーゼリアは、自分の花冠を手に取って、少年の頭の上に乗せたのだ。
少年も、嬉しそうに自分の持っていた花冠を、リーゼリアの頭の上に乗せたのである。
「嬉しい。大人になったら、必ず私を迎えに来てね」
「勿論だよ、必ず迎えに行くから待っていてね」
少年は、リーゼリアの両頬に手を添えると、優しく口付けたのだった。
「そんな、待ってください。私は不器用だから、お嬢様の様に、上手に出来ないのです」
貴族家の庭園で、幼い少女が二人、いろとりどりの花を摘んで冠を編んでいる。
一人はこの屋敷の娘のリーゼリアで、もう一人は使用人の娘なのだが、幼い二人は姉妹の様に仲が良い。
出来上がった花冠を頭に乗せると、待たせていた馬車に急いで飛び乗ったのである。
待ちゆく人々は皆、お祭りに浮足立っており、いつもは出ていない屋台がところ狭しと並んでいた。
メイン会場となる中央広場では、既に踊りの輪が出来ており、軽快な音楽に合わせて楽しむ人々でより賑わいを見せている。
路肩には、大きな花木が整然と並ぶように植えられており、綺麗なピンク色の花を満開に咲かせていた。
風が通り過ぎると、ふわりと散った花びらが、ひらりひらりと弄ばれながらゆっくりと石畳の上に落ちていく。
幻想的な雰囲気を持つ花木の下では、初々しい恋人たちが、これから訪れる明るい未来を楽し気に語っている。
その向こう側では、老年の夫婦がお互いを支え合う様に寄り添いながら、花木の美しさに魅了された様に眺めていた。
長い間支え合いながら生きて来た老夫婦を祝福するかの様に、一枚の花弁が花木から離れて優雅に舞いながら、老夫人の帽子に降りてくる。
老紳士が妻の帽子についた花弁を取り、嬉しそうに手渡すと、夫人は優しい眼差しを夫に向けて花弁を受け取った。
そして二人は慈しみ合いながら、幼い子供たちが楽し気に踊っている輪の方へ視線を向けて微笑み合うのだった。
リーゼリアとミヤは馬車から下りると、真っ先に踊りの輪の中に入っていく。
「間に合って良かったわ。最後の曲は、どんな子と踊れるのか、凄く楽しみよ」
「お嬢様。私は、最後まで踊れる自信がないわ。途中で離れてしまっても、私を置いて帰らないでくださいね」
「置いていく事なんてしないわよ。心配しないで、休みながらでもいいから、一緒に楽しく踊りましょう」
二人は、見知らぬ子供たちの輪の中でも怖気付く事なく、花祭りを心の底から楽しんでいた。
リーゼリアは踊りに夢中になって楽しんでいたので、あっと言う間に最後の曲になってしまった事を、とても残念に思っていた。
しかし、最後の踊りのパートナーになったのは同じ年頃の少年だったので、とても嬉しく感じたのである。
だが少年は、笑顔を作ってはいるがどこか悲し気に見えたので、リーゼリアはいつも以上に楽しい会話を心掛けたのだ。
「聞いてくれる?この間、お天気が良かったので、お庭でマナーの授業をうけていたの。そうしたら、何処から入ってきたのか分からないのだけれど、大きな白い犬が走って来たのよ。その後、どうなったと思う?」
「大きな犬?もしかして、噛みつかれたの?」
「いいえ。私の家庭教師を、おもいきり突き飛ばしたのよ。目の前には池があったから、飛び込む様に落ちていったの」
「池に、落ちたの?」
「いつも意地の悪い事ばかり言ってくる家庭教師だったから、私はとってもスッキリしたの」
「あはは。それは、スッキリするね。僕も見てみたかったよ」
少年は、リーゼリアの気遣いを理解したのか、可愛らしい笑顔を見せていた。
最後の曲が終わると、少年はとても恥ずかしそうに、頭の上に乗せていた花冠を手に取った。
「あのね…大人になったら、僕のお嫁さんになって欲しい。この花冠を、受け取ってくれるよね?」
「はい。喜んで」
リーゼリアは、自分の花冠を手に取って、少年の頭の上に乗せたのだ。
少年も、嬉しそうに自分の持っていた花冠を、リーゼリアの頭の上に乗せたのである。
「嬉しい。大人になったら、必ず私を迎えに来てね」
「勿論だよ、必ず迎えに行くから待っていてね」
少年は、リーゼリアの両頬に手を添えると、優しく口付けたのだった。
11
あなたにおすすめの小説
【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜
高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。
婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。
それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。
何故、そんな事に。
優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。
婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。
リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。
悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。
あなたのことなんて、もうどうでもいいです
もるだ
恋愛
舞踏会でレオニーに突きつけられたのは婚約破棄だった。婚約者の相手にぶつかられて派手に転んだせいで、大騒ぎになったのに……。日々の業務を押しつけられ怒鳴りつけられいいように扱われていたレオニーは限界を迎える。そして、気がつくと魔法が使えるようになっていた。
元婚約者にこき使われていたレオニーは復讐を始める。
王妃様は死にました~今さら後悔しても遅いです~
由良
恋愛
クリスティーナは四歳の頃、王子だったラファエルと婚約を結んだ。
両親が事故に遭い亡くなったあとも、国王が大病を患い隠居したときも、ラファエルはクリスティーナだけが自分の妻になるのだと言って、彼女を守ってきた。
そんなラファエルをクリスティーナは愛し、生涯を共にすると誓った。
王妃となったあとも、ただラファエルのためだけに生きていた。
――彼が愛する女性を連れてくるまでは。
【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
【完結済】後悔していると言われても、ねぇ。私はもう……。
木嶋うめ香
恋愛
五歳で婚約したシオン殿下は、ある日先触れもなしに我が家にやってきました。
「君と婚約を解消したい、私はスィートピーを愛してるんだ」
シオン殿下は、私の妹スィートピーを隣に座らせ、馬鹿なことを言い始めたのです。
妹はとても愛らしいですから、殿下が思っても仕方がありません。
でも、それなら側妃でいいのではありませんか?
どうしても私と婚約解消したいのですか、本当に後悔はございませんか?
不実なあなたに感謝を
黒木メイ
恋愛
王太子妃であるベアトリーチェと踊るのは最初のダンスのみ。落ち人のアンナとは望まれるまま何度も踊るのに。王太子であるマルコが誰に好意を寄せているかははたから見れば一目瞭然だ。けれど、マルコが心から愛しているのはベアトリーチェだけだった。そのことに気づいていながらも受け入れられないベアトリーチェ。そんな時、マルコとアンナがとうとう一線を越えたことを知る。――――不実なあなたを恨んだ回数は数知れず。けれど、今では感謝すらしている。愚かなあなたのおかげで『幸せ』を取り戻すことができたのだから。
※異世界転移をしている登場人物がいますが主人公ではないためタグを外しています。
※曖昧設定。
※一旦完結。
※性描写は匂わせ程度。
※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載予定。
【書籍化】番の身代わり婚約者を辞めることにしたら、冷酷な龍神王太子の様子がおかしくなりました
降魔 鬼灯
恋愛
コミカライズ化決定しました。
ユリアンナは王太子ルードヴィッヒの婚約者。
幼い頃は仲良しの2人だったのに、最近では全く会話がない。
月一度の砂時計で時間を計られた義務の様なお茶会もルードヴィッヒはこちらを睨みつけるだけで、なんの会話もない。
お茶会が終わったあとに義務的に届く手紙や花束。義務的に届くドレスやアクセサリー。
しまいには「ずっと番と一緒にいたい」なんて言葉も聞いてしまって。
よし分かった、もう無理、婚約破棄しよう!
誤解から婚約破棄を申し出て自制していた番を怒らせ、執着溺愛のブーメランを食らうユリアンナの運命は?
全十話。一日2回更新 完結済
コミカライズ化に伴いタイトルを『憂鬱なお茶会〜殿下、お茶会を止めて番探しをされては?え?義務?彼女は自分が殿下の番であることを知らない。溺愛まであと半年〜』から『番の身代わり婚約者を辞めることにしたら、冷酷な龍神王太子の様子がおかしくなりました』に変更しています。
巻き戻される運命 ~私は王太子妃になり誰かに突き落とされ死んだ、そうしたら何故か三歳の子どもに戻っていた~
アキナヌカ
恋愛
私(わたくし)レティ・アマンド・アルメニアはこの国の第一王子と結婚した、でも彼は私のことを愛さずに仕事だけを押しつけた。そうして私は形だけの王太子妃になり、やがて側室の誰かにバルコニーから突き落とされて死んだ。でも、気がついたら私は三歳の子どもに戻っていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる