好きになったり、嫌いになったり

鈴蘭

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図々しい(テオドール・フェナジン視点)

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 ペンタール公爵令嬢から懇意にされて、自分も高位貴族にでもなったつもりでいるのか?

 「流石に、店頭に並べていない高額商品を持ち出されては、売り上げに響くな」
 学園では、以前の様にリーゼに絡んでこなくなったから様子を見ていたが、いったい何様だろうと思っている。

 「それと、大変申し上げ難いのですが…店の権利証を渡す様にとも言って、騒いでいるのです」
 「はぁ?何だそれ。正気の沙汰ではないな。分かった、俺が対応しよう」
 従業員は、余程切羽詰まっていたのか、分かり易く安堵の表情を浮かべていた。
 全く、害悪でしかないな。

 俺が個室に入ると、身体の採寸をしろと、控えていた従業員に喚き散らしていた。
 「おい、俺の店で何をやっている。ここは、お前の様な貧乏人が、通されて良い部屋ではない。真昼間から堂々と押し込み強盗とは、いったい何を考えている」

 「え?テ、テオ君?どうして此処にいるの?」
 俺の店なんだから、俺が此処にいて何を慌てる必要がある。

 「権利証を寄こせと言っていたと聞いたが、どういう事だ。この店は、俺が幼い頃に親父から譲り受けた大切な場所だ。それを知っていて、なんの権限もないお前が、店内で騒動を起こした理由はなんだ」
 「テオ君。あたしはね、長い間、奥さんになれると思って尽くしてきたのに裏切られたんだよ。だから、慰謝料を貰う権利があるでしょう。物心ついた頃から計算すると、お店だけじゃ足りないけれど、あたしとテオ君の仲だから許してあげるの」
 意味が分からん、本気でいっているのかと、俺は眩暈がした。

 「お前の妄想に、何故、俺が慰謝料を払わないといけないんだ」
 「妄想なんかじゃないわ。指輪の交換だってしたじゃない」
 「交換した婚約指輪は、あるのか?正式な俺の婚約者になっていたと言うのならば、指輪だけではなく、婚約証明書もあるはずだから見せてみろよ」
 「勿論あるわよ」
 イブは、自慢気に婚約指輪らしき物と、自分で書いたであろう手書きの紙を俺に手渡した。

 「何だよ、これ。最近取り扱い始めたばかりの、若者向けの指輪じゃないか。何が婚約指輪だ、ふざけるな!俺が、自分の店の商品に気付かないとでも思ったのか」
 「テオ君が取り寄せた指輪を、あたしが貰ったんだから、婚約指輪で間違いないでしょ!」
 「ふざけるな!百歩譲って、これが婚約指輪だとしても、この手書きの雑用紙はなんだ。お前は、公的書類の意味を理解していないのか。こんな物で婚約者だなどと騒いでも、店どころか、慰謝料すら請求出来ないぞ。俺を、馬鹿にしているのか?」
 「そんなつもりじゃ…」
 
 イブは、何も言い返せずに言葉を詰まらせていたので、俺は無言で持って来た帳簿のコピーをテーブルの上に投げ捨てた。

 「お前と、お前の両親が、俺の店から金も払わずに持ち帰った商品の明細だ。これ以上店に迷惑をかけるつもりならば、全額をこの場で請求させて貰うが、お前に支払う覚悟はあるのか?そこそこの贅沢をしながら、一生遊んで食っていけるだけの金額だぞ」
 イブは、恐る恐る帳簿に目をやって、その合計金額に目をむき出していた。
 「ちょっと、何よ。こんな金額知らないわ!」

 最初の頃は、遠慮しながらもリボン一本とかハンカチ一枚を貰いに来る程度で、可愛いものだったんだ。
 それが段々と図々しくなっていき、気に入った商品があれば遠慮もしないで持ち帰る様になっていった。

 今では転売目的で、高価なドレスや宝石をメインに、手当たり次第に持ち出す様になっている。
 三人家族で暮らす数年分の生活費や、嗜好品程度で済んでいたら、これ程の金額にはならなかった筈だ。
 ペンタール公爵令嬢の真似事をする様になってから、一気に金額が膨れ上がった事に、全く気付いていなかったんだろうな。
 
 イブは、想像以上の金額を見て、青褪めた顔をしている。
 そりゃそうだろう。
 立ち上げた時は、平民相手の小さな店だったが、今では貴族を相手に商品を取り揃えた高級店になっているんだ。

 商品にだって、値札なんか付けていない。
 店に置いてある物が、幾らの価値がある物なのかすら知らずに持ち出していたんだからな、お気楽な女だよ。
 
 「テオ君、違うの…あたしは、テオ君の為に喜ばせられる女になりたくて、それで…」
 「だったら、家族共々俺の前から消えてくれ。それが、店の売り上げを伸ばす事に繋がるし、俺にとっても最高の喜びになる」
 「そんな言い方、酷いよ。テオ君があたしを大事にしてくれないから、あたしだけを見て欲しくて頑張ってたのに」
 「何を頑張ったって?笑わせんな。お前だって、俺の事なんか見向きもしていなかっただろう。シロツメクサで作った指輪を交換した時だって、次の日には他のガキとキスしていたじゃないか」

 気付かれていないと思っていたのか、目を見開いて驚いていやがる。
 あの頃は俺も深くは考えていなかったし、店の手伝いで忙しかったのもあったから、イブとはほとんど交流なんてなかった。

 こいつが頻繁に付き纏うようになったのは、親父の店が軌道に乗って、貧乏人が住む平民街から富裕層が住む平民街に引っ越してきてからだ。
 「俺は、金に群がる女が一番大嫌いなんだ。その未払い商品の代金は、始めから請求するつもりはない。どうせ、払えないだろうからな。だがな、次、店の前をうろついているのを見かけたら容赦はしない。問答無用で代金を請求するだけじゃなく、押し込み強盗として訴えてやる!そして、両親共々、奴隷商に売り払ってやるからな。俺は本気だ、覚悟しておけ」
 
 「ちょっと、待ってよ。あたしを、訴えるって言うの?奴隷になんて、なりたくないよ」
 「お前の顔なんて、二度と見たくもない!奴隷が嫌ならば、今直ぐにここから出て行け!そして、二度と店に近寄るな!」

 イブは、店から逃げ出す様に出て行ったが、俺の怒りは収まらなかった。
 「おい。この部屋だけではなく、店の隅々まで消毒しておけ。イブが戻って来ても、二度と俺の店に入れるな、分かったか」
 「承知致しました」
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