【完結】騙された私も愚かでした

鈴蘭

文字の大きさ
41 / 48

番外編 寝てしまいました

しおりを挟む
 親族の方たちと談笑をしていると、侍女が声を掛けて来ました。
 結婚したので、私は既婚者となったのですが、このホールには奥様と言われる方が沢山おります。
 侍女は敢えて奥様ではなく、名前で私を呼びました。
 「キャロライン様、そろそろお時間です。準備を致しましょう」
 「もうそんな時間なの?楽しくて、すっかり忘れていたわ」
 前回はメリーに連れられて、使用人部屋へ閉じ込められてしまったのです。
 ですが今回は、シエルも侍女たちも一緒なので、不安は全くありませんでした。
 皆にご挨拶をしてからホールを後にしようと思ったのですが、何故かハロルド様も付いて来てしまいました。
 侍女がハロルド様に、ホールへ戻るよう声を掛けております。
 「若旦那様。キャロライン様のお支度には時間が掛かりますので、準備が出来ましたらお迎えにあがります。どうかホールへお戻りくださいませ」
 「それは分かっているのだが…伯爵家から来た君たちを、疑っている訳でもないのだけれど…その、キャロラインが部屋に入ったのを見届けたら、ホールに戻ろうと思う」
 「ハロルド様。もしかして前回の事が、トラウマになっているのではありませんか?」
 「そうかもしれません。大丈夫だとは思うのですが、どうしても落ち着かないのです…キャロライン、何か不穏な気配を感じたら、直ぐに知らせて下さい」
 「分かりましたわ。出来るだけ早く身支度を整えますので、待っていてくださいね」
 「はい。愛しています、キャロライン」
 ハロルド様は私を寝室まで送った後、何度も振り返りながらホールへと戻って行かれました。
 ドレスを脱ぎ、温かい湯船に浸かっていると、眠気が出て来ました。
 「忘れていたわ。私、夜更かししていたのよね。どうしましょう、初夜なのに寝てしまいそうだわ」
 「奥様。湯あみが終わりましたら、目が冴えるハーブティを、お持ち致しましょうか?」
 「そうね。ハーブティよりも、コーヒーの方が良いかしら」
 「お休み前に飲まれるのですか?」
 「大丈夫よ。今日も眠れないと思うもの」
 私たちは楽しく会話をしながら、湯あみを早めに終わらせました。
 コーヒーを飲んでから寝室に入り、ハロルド様がいらっしゃるまで、シエルに身体をマッサージして貰っていたのです。
 シエルだけではなく侍女たちも、私の身体が動かなくなってしまった時に、リハビリの専門医から指圧と言う物を学んでくれたのです。
 交代で、寝る前の日課としてマッサージをしてくれる様になったのでした。
 身体が自由に動く様になってからは、もう大丈夫だと言ったのだけれど…疲れている時等は、こうして身体をほぐしてくれるのです。
 これがとても心地よくて、一睡もしていなかった事もあり、コーヒーの効果はシエルのマッサージで相殺されてしまった様です。
 この彼女たちの行動が、ハロルド様への憂さ晴らしだと言う事を、私は知る由もありませんでした。
 そして、侍女たちが淹れてくれたコーヒーにも、カフェインが入っていないと言う事も…
 ハロルド様と私の結婚を、反対している訳ではないのですが、思う所があったようです。
 ホールに居たハロルド様に、私が就寝した事を侍女が伝えたら、真っ青な顔をされて寝室まで様子を見に来たそうです。
 何故か両親と、侯爵夫妻も揃って来て、ちゃんと私がお部屋に居るかの確認をしました。
 侯爵様は、流石に寝室までは入って来ませんでしたが、私が部屋に居た事を聞いて安堵されたそうです。
 
 「キャロラインは、ぐっすり眠っているようだね。無事で良かった…」
 「申し訳ありません。昨夜は結婚式が楽しみで、一睡も出来なかったと申しておりました」
 「そうか…疲れていたのに、気付いてあげられなくて、申し訳なかった。私は自分の寝室で眠るから、起こさないでゆっくり休ませてあげて欲しい」
 「畏まりました」

 翌日スッキリと目が覚めた私は、初夜の事を思い出し青褪めたのです。
 「寝てしまうなんて…ハロルド様に、申し訳ない事をしてしまったわ。どうしましょう…」
 「キャロライン様。若旦那様から言伝を預かっております。体調が宜しければ、侯爵領内を案内したいと仰っておりました。如何いたしましょうか?」
 「あら。お父様たちは、侯爵様たちに案内して頂く事になっていたのだけれど、私は別行動になるのかしら?」
 「はい。お二人でと仰っておりました」
 「分かったわ。何処へ連れて行ってくださるのかしら?楽しみだわ」
 朝食の席で昨夜の事をお詫びしたら、ハロルド様は笑顔で、気にしなくて良いと仰ってくださいました。
 お父様たちをお見送りした後は、ハロルド様と二人で馬車に乗り、素敵な湖まで来たのです。
 「着きましたよ、キャロライン。足元に気を付けてください」
 先に馬車から降りたハロルド様が差し出して下さった手に、私の手を乗せました。
 空気が澄んでおり、頬を撫でて行く風がとても爽やかです。
 湖の真ん中には、小島が浮いている様に見えました。
 「とても幻想的な場所ですわね。あの場所には、行けるのでしょうか?人は住んでいらっしゃるのですか?」
 「湖畔にボートがありますので、小島に渡る事が出来ますよ。人は住んでおりませんが、あの場所には、古の魔女が住んでいると信じている者もいるのです」
 「魔女ですか?」
 私は、おとぎ話でしか存在を知りません。
 「実際は魔女ではなく、あの島でしか育たない薬草を取りに来た、薬師の事を言っているのだと思います」
 ハロルド様は、楽し気にお話をされております。
 「満月の夜には、月の女神が降りる場所だとも言われているのですよ」
 「女神様にお会い出来るのですか?」
 「言い伝えですよ。運が良ければ、夫婦や恋人同士で訪れた時に、祝福を与えてくれるそうです」
 「まぁ。素敵なお話ですわね。満月の夜に、女神様に会ってみたいですわ」
 「薬草は、深夜に芽吹くと言われておりますから。それを採取しに来た薬師の姿を、女神と間違えたのだと思いますよ」
 「その様な、現実的な事を聞いているのではありませんわ。せっかくのおとぎ話が台無しです」
 私は、ちょっと不貞腐れた態度をとって抗議しました。
 「ふふっ。そうですね…キャロライン、ボートに乗りませんか?」
 「乗ります!」
 綺麗に整備された小道を歩いて行くと、小さなボート乗り場がありました。
 湖畔の近くでは、何組かボートに乗っている男女がおります。
 私たちも一艘のボートを借りました。
 ハロルド様が先に乗り、手を差し伸べて下さいます。
 私はその手を掴んで、ゆっくりとボートへ乗り移りました。
 「ハロルド様。オールを貸して下さい。ボートは、私が漕ぎますわね」
 「え?」
 「任せて下さい。シエルに教わったのです。私はとても筋が良いと、褒められましたの」
 ハロルド様は、とても驚いておりましたが、返事を待たずに私はボートを漕ぎ出したのです。
 これは全身運動なので、まんべんなく筋肉を付ける事が出来たのです。
 「キャロライン…なんと言いますか…その…とてもお上手ですね。驚きました」
 「乗馬も出来るようになりましたのよ。今度、ハロルド様を乗せてさしあげますわ」
 「私をですか?それは…楽しみにしております」
 私、何かおかしな事を言ったかしら?
 ハロルド様が、とても楽しそうに笑っているので、私も自然と笑顔になりました。
 ボート遊びの後は、湖畔の近くにある食堂で昼食を採り、ゆっくりと景色を楽しみながら侯爵邸へ戻って来たのです。
 そしてボートを漕ぎ過ぎて疲れたのか、私はこの日もぐっすりと眠ってしまいました。
 侯爵邸での滞在は、一週間を予定しております。
 その後は家族と一緒に周ったりしながら、あっという間に楽しい時間は過ぎてしまい、結局初夜を迎える事無く伯爵家へと帰って来たのでした。
 「ハロルド様ごめんなさい。私こんなに疲れやすいとは思っておりませんでしたわ」
 「気にしないでください。夫婦の時間は、これから幾らでもあります。何年もキャロラインを思い続けていたのですから、傍で笑っていてくれるだけでも、私は充分幸せですよ」
 侍女たちが寝付きを良くするハーブティを用意して、眠くなるツボマッサージをしていた事を、ハロルド様は気付いていた様です。
 彼女たちの気が済むまで、ハロルド様が気長に待っていてくれた事を、私は永遠に知る事は無いのです。
しおりを挟む
感想 125

あなたにおすすめの小説

【改稿版・完結】その瞳に魅入られて

おもち。
恋愛
「——君を愛してる」 そう悲鳴にも似た心からの叫びは、婚約者である私に向けたものではない。私の従姉妹へ向けられたものだった—— 幼い頃に交わした婚約だったけれど私は彼を愛してたし、彼に愛されていると思っていた。 あの日、二人の胸を引き裂くような思いを聞くまでは…… 『最初から愛されていなかった』 その事実に心が悲鳴を上げ、目の前が真っ白になった。 私は愛し合っている二人を引き裂く『邪魔者』でしかないのだと、その光景を見ながらひたすら現実を受け入れるしかなかった。  『このまま婚姻を結んでも、私は一生愛されない』  『私も一度でいいから、あんな風に愛されたい』 でも貴族令嬢である立場が、父が、それを許してはくれない。 必死で気持ちに蓋をして、淡々と日々を過ごしていたある日。偶然見つけた一冊の本によって、私の運命は大きく変わっていくのだった。 私も、貴方達のように自分の幸せを求めても許されますか……? ※後半、壊れてる人が登場します。苦手な方はご注意下さい。 ※このお話は私独自の設定もあります、ご了承ください。ご都合主義な場面も多々あるかと思います。 ※『幸せは人それぞれ』と、いうような作品になっています。苦手な方はご注意下さい。 ※こちらの作品は小説家になろう様でも掲載しています。

【完結】愛したあなたは本当に愛する人と幸せになって下さい

高瀬船
恋愛
伯爵家のティアーリア・クランディアは公爵家嫡男、クライヴ・ディー・アウサンドラと婚約秒読みの段階であった。 だが、ティアーリアはある日クライヴと彼の従者二人が話している所に出くわし、聞いてしまう。 クライヴが本当に婚約したかったのはティアーリアの妹のラティリナであったと。 ショックを受けるティアーリアだったが、愛する彼の為自分は身を引く事を決意した。 【誤字脱字のご報告ありがとうございます!小っ恥ずかしい誤字のご報告ありがとうございます!個別にご返信出来ておらず申し訳ございません( •́ •̀ )】

他の人を好きになったあなたを、私は愛することができません

天宮有
恋愛
 公爵令嬢の私シーラの婚約者レヴォク第二王子が、伯爵令嬢ソフィーを好きになった。    第三王子ゼロアから聞いていたけど、私はレヴォクを信じてしまった。  その結果レヴォクに協力した国王に冤罪をかけられて、私は婚約破棄と国外追放を言い渡されてしまう。  追放された私は他国に行き、数日後ゼロアと再会する。  ゼロアは私を追放した国王を嫌い、国を捨てたようだ。  私はゼロアと新しい生活を送って――元婚約者レヴォクは、後悔することとなる。

【完結】この地獄のような楽園に祝福を

おもち。
恋愛
いらないわたしは、決して物語に出てくるようなお姫様にはなれない。 だって知っているから。わたしは生まれるべき存在ではなかったのだと…… 「必ず迎えに来るよ」 そんなわたしに、唯一親切にしてくれた彼が紡いだ……たった一つの幸せな嘘。 でもその幸せな夢さえあれば、どんな辛い事にも耐えられると思ってた。 ねぇ、フィル……わたし貴方に会いたい。 フィル、貴方と共に生きたいの。 ※子どもに手を上げる大人が出てきます。読まれる際はご注意下さい、無理な方はブラウザバックでお願いします。 ※この作品は作者独自の設定が出てきますので何卒ご了承ください。 ※本編+おまけ数話。

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。 婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。 それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。 何故、そんな事に。 優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。 婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。 リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。 悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

【完結】優しいあなたに、さようなら。二人目の婚約者は、私を殺そうとしている冷血公爵様でした

ゆきのひ
恋愛
伯爵令嬢であるディアの婚約者は、整った容姿と優しい性格で評判だった。だが、いつからか彼は、婚約者であるディアを差し置き、最近知り合った男爵令嬢を優先するようになっていく。 彼と男爵令嬢の一線を越えた振る舞いに耐え切れなくなったディアは、婚約破棄を申し出る。 そして婚約破棄が成った後、新たな婚約者として紹介されたのは、魔物を残酷に狩ることで知られる冷血公爵。その名に恐れをなして何人もの令嬢が婚約を断ったと聞いたディアだが、ある理由からその婚約を承諾する。 しかし、公爵にもディアにも秘密があった。 その秘密のせいで、ディアは命の危機を感じることになったのだ……。 ※本作は「小説家になろう」さん、カクヨムさんにも投稿しています ※表紙画像はAIで作成したものです

報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を

さくたろう
恋愛
 その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。  少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。 20話です。小説家になろう様でも公開中です。

旦那様は離縁をお望みでしょうか

村上かおり
恋愛
 ルーベンス子爵家の三女、バーバラはアルトワイス伯爵家の次男であるリカルドと22歳の時に結婚した。  けれど最初の顔合わせの時から、リカルドは不機嫌丸出しで、王都に来てもバーバラを家に一人残して帰ってくる事もなかった。  バーバラは行き遅れと言われていた自分との政略結婚が気に入らないだろうと思いつつも、いずれはリカルドともいい関係を築けるのではないかと待ち続けていたが。

処理中です...