【完結】騙された私も愚かでした

鈴蘭

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番外編 ハロルド様鬱陶しいですわ

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 ハロルド様は、あの日から人目も憚る事なく、私を溺愛しております。
 「一人で歩けますわ。降ろして下さいませ」
 「階段から転げ落ちたら大変です。一人の身体では無いのですから、我儘は言わないで下さい」
 「我儘では無いのです。子供ではないのですから、恥ずかしいと、言っているのですわ」
 「照れなくても良いのですよ。キャロラインの我儘なら、何でも聞きますから、遠慮はしなくても良いのです」
 「先程、我儘は駄目だと仰ったではありませんか」
 「危険な事は、させられません」
 私の懐妊が分かってから、ハロルド様の過保護に、磨きがかかってしまいました。
 見兼ねた侍女が、苦言を晒してくれたのです。
 「若旦那様。適度な運動は必要ですから、降ろして差し上げて下さいませんか?このままでは、キャロライン様の体力が無くなってしまいます。元気なお子を産めなくなってしまいますよ」
 「駄目だ。目を離した隙に何かあっては…」
 「ハロルド様、いい加減になさい。子が産まれるまで、そうやって抱きながら連れ歩くおつもりですか」
 「お義母様。キャロラインが心配なのです。絨毯に躓いて転んだら、大変な事になってしまいます」
 「心配だからと言って、過保護にするのは違うのですよ。妊娠出産は、女性にしか出来ない事なのです。殿方に出来る事等、何もありませんのよ。諦めなさい」
 お母様にお叱りを受けて、やっと私は解放されたのでした。
 身を案じて下さるのはとても嬉しいのですが、毎日縋り付いて来るものですから、少々鬱陶しくも感じております。
 あの時は本気でハロルド様の自由にと思っておりましたが、子を身籠ると気持ちは簡単に変わるものなのですね。
 そうして悪阻が始まると、ハロルド様の過保護にまたもや磨きが掛かってしまったのでした。
 「キャロライン。なんて事だ、こんなに貴方が苦しんでいると言うのに、私は何も出来ないなんて…」
 「ハロルド様。妊娠は、病気ではありませんのよ。何もなさらないで下さいませ。過保護が過ぎると、安産も難産になってしまいますわ。私を苦しめたいのですか?」
 胸がムカムカして、食事の匂いですら気持ち悪くなる所為で、八つ当たりをしてしまいました。
 「決してそんな事はありません。キャロライン、私は貴方の身を案じているのです。悪阻がこんなにも酷い物だと知っていたら…私は愛する人に、なんて残酷な事をしてしまったのでしょう。食事もしないなんて、痩せ細ってしまいます。私は、貴方がこんなに苦しむのなら、子供等いらなかった」
 せっかく授かった命に、なんて事を仰るのかしら。
 「ハロルド様。何度も言いましたが、悪阻が酷いかなんて、誰にも分からない事なのですよ。きっと元気な子が産まれて来ますから、心配なさらないでくださいませ」
 「貴方が苦しんでいる姿を、黙って見ている事は出来ません。やはり私が身の回りの世話を…」
 殿方は、皆様こんなにも鬱陶しくなるものなのでしょうか?
 「ハロルド様。分かって下さらないのならば、少し距離を置きましょうか。暫く侯爵邸に帰って頂いても構いません。私は元気な子を産む事に、専念したいのです」
 「キャロライン…私を捨てないでください。貴方が傍に居てくれないと、生きている意味がないのです」
 私は少し冷たかったでしょうか、ハロルド様ががっくりと項垂れてしまいました。
 お母様が、これくらいで丁度良いと仰っておりますが、何だか可哀想な気もします。
 ですがここで引き下がっては、本当に産み月まで歩く事すら許されない勢いなのですもの。
 心を鬼にしなくてはいけません。

 妊娠の初期からこの様な有様でしたので、私が産気付くとハロルド様は、人目も憚らず取り乱しておりました。
 「キャロライン!お願いです、私を一人にしないでください。貴方が居ない世界なんて、考えられないのです。何処が痛いのですか?苦しいのは何処ですか?キャロライン…」
 「ハロルド、そこを避けなさい。キャロライン、私が付いているから、安心しなさい。今医者を…」
 「旦那様も、ハロルド様も邪魔ですわ。部屋から出て行って下さいませ」
 お母様に叱られて、二人は部屋からつまみ出されておりました。
 ハロルド様だけではなく、お父様まで取り乱すとは思っていなかったので、私は不安になってしまいました。
 「お母様…」
 「大丈夫よ。私が傍に付いていますから、気をしっかりと持つのです」
 「はい。お母様」
 ハロルド様は、まだ何か叫んでおられました。
 「キャロライン!貴方の苦しみは、私が分かちます。どうして、私が子を産めないのでしょうか。神は、無慈悲だ」
 「五月蠅いぞ、ハロルド。お前は少し黙っていなさい、キャロラインが苦しんでいると言うのに、私まで部屋から閉め出されたではないか」
 「お義父様。どうしてキャロラインが、苦しまなければならないのでしょう。私は、何も出来ない事が悔しいのです」
 「悔しいのは、私も同じだ。おい誰か、苦痛の無い出産の仕方を知っている者を、連れて来なさい」
 部屋の外で叫んでいる男性陣は放置して、私は無事に元気な男の子を産む事が出来ました。
 「若奥様、よく頑張りましたね。安産でしたよ」
 産婆は、産まれたばかりの赤ちゃんを、私の腕に抱かせてくれたのです。
 元気な産声を聞いたお父様とハロルド様が、雪崩の様に部屋へと入って来ました。
 「キャロライン、無事ですか」
 「キャロラインは、無事か」
 二人共私の身を案じて下さったのは嬉しいのですが、息子の事が後回しになってしまったので、ちょっと複雑な気持ちになりました。
 「旦那様も、ハロルド様も、大きな声を出さないで下さいませ。大切な孫が驚いてしまいますわ」
 お母様も呆れております。
 「どっちだ。無事に産まれたのか」
 「勿論安産でしたわ。世継ぎは、、男の子です」
 「何故其方に似るのだ?のだろう」
 お父様とお母様が、どちらに似ているかと、言い合いを始めてしまいました。
 「キャロライン、大丈夫ですか?よく頑張ってくれました。本当に、ありがとうございます」
 ハロルド様は、私の手を握りしめて、安堵した表情を見せております。
 そうして、産まれたばかりの赤子の頭を、震える手でそっと撫でたのでした。
 「ハロルド様、泣いているのですか?何故…」
 「貴方が苦しんでいたと言うのに、私は何も出来ませんでした。なのに、我が子を見ると幸せ過ぎて…とても複雑な心境なのです。この幸せが、今にも消えてしまいそうなのです」
 そう言って、はにかんだハロルド様の瞳からは、次から次へと涙が零れていきました。
 「ハロルド様から頂いた、可愛い息子ですわ。お名前を付けてあげて下さいね」
 「名前、そうですね…考えておきます。キャロライン、貴方が無事で、本当に良かった」
 ハロルド様は先程から、同じ事しか言いませんでした。
 出産に立ち会った旦那様とは、皆この様な感じなのでしょうか?
 「次は女の子が欲しいです、ハロルド様」
 「何を言っているのですか!先程まで、あんなに苦しんでいたのに、私は耐えられません」
 「心配しないで下さい。こんなに可愛い我が子に会えたのですもの、苦しい気持ちなんて忘れてしまいましたわ」
 「なんて事だ…」
 目を大きく見開いて驚いているハロルド様を見ていると、私はおかしくて笑ってしまいました。
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