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マルゲリーターの決意
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ルーカスは、帝国にいる間も逐一公爵邸の様子を報告させていた。
別邸にいるアマンダは粗末な生活に耐えられなくなっては癇癪を起し、何度も脱走を試みているのだが、本邸の敷地前で止まり喚き散らしながら戻っていると言う。
毒を呷るのは、どうしても避けたい様だ。
公爵は、ルーカスの代わりに執務をする事も無く、酒に溺れて私室から出て来なくなった。
マルゲリーターは相変わらず部屋に籠り切りだが、癇癪を起す事も無く大人しくしており、食欲も出て来ていると聞き安心していた。
帝国にいる間に、何度か手紙のやり取りをしていたが、文面からも報告通りである事が伺えたのだ。
公爵邸に戻ったら、真っ先に様子を見に行こうと、ルーカスは考えていた。
エレインを邪魔に思っている訳ではないのだが、まだマルゲリーターと対面させる事に不安を感じているのだ。
「アルフレッド。申し訳ないが、僕が迎えに行くまで、エリーを預かってはもらえないだろうか」
「私は構わないが、長旅で疲れているだろう。エレイン嬢は、屋敷でゆっくりと休みたいのではないか」
「王宮図書館に行きたいです、殿下。調べたい事もありますし、ご迷惑でなければ、お付き合いして頂けると嬉しいですわ」
「分かったよ。それでは、私の方から先触れを出しておくね」
「すまない。ありがとう、アルフレッド」
ルーカスは王宮で公爵家の馬車に乗り換え屋敷へと帰って来ると、引き籠りだったマルゲリーターが出迎えに外に出て来ていたのだ。
馬車から下りると、嬉しそうに飛び付いて来た。
「お兄様、お帰りなさい。待っていたの」
ルーカスはきちんと受け止めて抱擁を交わすと、マルゲリーターの部屋へと向かったのだ。
「ただいま。随分と痩せたな。きちんと食事を摂っていたのではなかったのか」
マルゲリーターは、以前の面影は全く無くなっており、ほぼ標準体型になっていた。
「食べているよ。でもね、直ぐにお腹がいっぱいになるから、前みたいには食べられないの」
「そうか」
「ねえ。エレインは?一緒に帰って来なかったの」
「帰って来たが…エリーは、図書館に寄って調べ物をするそうだ」
「そう。アルフレッド殿下と、仲良しなのね」
ルーカスは、マルゲリーターの落ち着き様に驚き過ぎて、一瞬返答が遅れてしまった。
「そうだな。化石の研究が好きだから、展示場を造る為に二人でいろいろと計画をしているみたいだ」
「ふ~ん」
それ以上マルゲリーターは、何も聞いては来なかったので、ルーカスも特に話す事はしなかった。
癇癪を起さなくなってからは、常にメイドが部屋の掃除をする様になったので、以前の様な汚さはなくなっていた。
しかし調度品は壊れたままなので、そろそろ新しい物を準備しても良いのではないかと考えていたのだ。
「マルゲリーター。このまま癇癪を起さないでいられるならば、家具職人を呼んで調度品を揃えようと思っている。その前に、ドレスを仕立てるのが先だな。今から出かけてみるか」
「要らない」
「え?」
「今あるドレスも、もう着ないから、売り払って良いよ」
ルーカスは、目を見開いて言葉を失っていた。
「しかし…」
「お茶会も、パーティも、出る意味無くなっちゃったもん」
ルーカスは、頭をフル回転させて考えたが、言っている意味を理解出来なかった。
「私の自慢は、アルフレッド殿下だったんだ。王妃様になって、沢山の人に凄いと思われたかった。殿下の婚約者だから羨ましいと皆に思われたり、高貴な血筋だと思ってたからそれも自慢したかっただけ。でも、全部無くなっちゃった」
マルゲリーターは、寂しそうに淡々と語っていた。
ルーカスは、ただそれを黙って聞いている事しか出来なかったのだ。
確かに少し前までは、我儘で高飛車だったからだ、何も間違った事は言っていないのである。
マルゲリーターは失恋をした事で、如何に己の振る舞いが愚かだったかを、身を以て理解したのだった。
「ねえ。お母様は何処へ行ったの?お父様はお酒ばかり飲んでいて、酔っぱらっているのを見たわ。でも、お母様の部屋には何も無くなっていたの。離婚したの?」
「会いたいのか」
「………文句は言いたいけれど、別に会わなくてもいいかな」
「そうか。アマンダは、別邸にいる。会いたいなら、一人では行くな。護衛騎士を連れて行きなさい」
マルゲリーターは、楽しそうに笑いだした。
「なんだか、危険な動物を飼っているみたいな言い方だね」
危険動物と言われ、確かにそうかもしれないと思い、ルーカスも自然と笑みが零れていた。
「お兄様の笑った顔、初めて見たかもしれない」
ルーカスは、初対面からマルゲリーターへ良い印象を持っていなかったので、言われてみてから確かに初めてだと気付いたのだった。
「すまない。お前の前では、何時も不機嫌だったな」
「いいよ。私良い子じゃなかったもん。嫌われて当然だよ」
「随分と変わったな。別人みたいだ」
「そうだね。お兄様は知らないかもしれないけれど、パーティの帰りの馬車でね、お父様とお母様が喧嘩してたんだ。私が失恋して悲しんでいる時に、慰めてもくれなかった」
マルゲリーターは国王生誕祭の帰りの馬車で、両親が何かを隠している事に気付いている様だった。
「すまない」
ルーカスは、マルゲリーターの胸の内を理解して、謝る事しか出来ずにいた。
「お兄様だけだよ。心配して、私を見に来てくれたの。お兄様が抱きしめてくれた時、嬉しかったんだ。ひとりぼっちになったと思っていたのに、一人じゃなかった。エレインの事は、今でも憎いよ。私が欲しかった物を、全部持っているのが、羨ましくて仕方がないよ。でもね、お兄様が帝国に行ったでしょう。凄く寂しかったんだ。私も一緒に行きたいと思っていたのに、連れて行って貰えなかったのは、凄く悔しいよ。でもね、それも私が悪いんだよ。エレインと仲良く出来ないから、自業自得だよね。それも分かっているけど、やっぱりエレインは嫌いだよ」
「そうか」
ルーカスは、マルゲリーターがきちんと自分が置かれている状況を理解していた事に、驚きを隠せずにいる。
そして何も声を掛けてあげられない事にも、もどかしさを感じていた。
「苛めたいと思う。気が済むまで叩いてやりたいと思っているよ。泣いたって絶対に許さない。怪我して歩けなくなったら、ざまみろって思う位憎いよ。あの綺麗な顔がぐちゃぐちゃになるまで、叩いて叩いて二度と人前に出られなくなれば、スッキリするんだろうなって考えただけで楽しくなる。アル様を取り戻して、あの女の前で仲良くしているところを見せつけてやりたい。そんな夢ばっかり見てる」
「そうか」
マルゲリーターが本気で言っているのだと感じてはいたが、咎める気にはならず何故かその気持ちは理解出来たのだ。
心から慕っていた相手が何者かに心移りをされて、婚約破棄までされたのだから、怒りの矛先が相手の女性に向く事は珍しくは無いのだ。
「お兄様」
「なんだ」
「私、頑張るよ」
「何をだ」
「エレインを、苛めない様に頑張るよ」
「!?」
「直ぐは無理かもしれないけど、いっぱい嫌味とか言っちゃうと思うけど、叩いたりはしない様に頑張るから」
「何故だ?無理をしてまで、エレインに会う必要はないのだぞ」
「だって。お兄様と一緒にいたいんだもん。エレインと仲良く出来なかったら、お兄様とも一緒にいられないでしょう。寂しいもん。だから、私頑張ろうと思う。でもね、自信はないから、手をあげそうになったらお兄様が止めてね。そうしたら、私大丈夫だから」
「………」
「アルフレッド殿下は取られちゃったけれど、お兄様は私の傍にいてよ。お勉強は嫌いだし、マナーも悪いけど、一人は寂しいの」
「そうか。頑張りなさい」
「うん」
幼い子供の様に笑うマルゲリーターは、かなり無理をして笑顔を作っているのだと、ルーカスは感じていた。
あれだけ我儘で、自由奔放に生きて来た性格は、そう簡単に変わる物ではないのだ。
実際にエレインと対面したのなら、罵声を浴びせ飛び掛かろうとするのが目に見える。
それでも一人でいるのは寂しいと、ルーカスの傍にいたいと望むマルゲリーターの気持ちは、痛い程理解出来たのだ。
別邸に籠ってしまった母に会いたいと、一人で心細く泣きじゃくっていた幼い頃を、思い出していた。
『マルゲリーターは、今から大人になろうとしているのかもしれないな』
変わろうとする妹に、手を差し伸べられる者は、この屋敷にルーカスしかいないのである。
別邸にいるアマンダは粗末な生活に耐えられなくなっては癇癪を起し、何度も脱走を試みているのだが、本邸の敷地前で止まり喚き散らしながら戻っていると言う。
毒を呷るのは、どうしても避けたい様だ。
公爵は、ルーカスの代わりに執務をする事も無く、酒に溺れて私室から出て来なくなった。
マルゲリーターは相変わらず部屋に籠り切りだが、癇癪を起す事も無く大人しくしており、食欲も出て来ていると聞き安心していた。
帝国にいる間に、何度か手紙のやり取りをしていたが、文面からも報告通りである事が伺えたのだ。
公爵邸に戻ったら、真っ先に様子を見に行こうと、ルーカスは考えていた。
エレインを邪魔に思っている訳ではないのだが、まだマルゲリーターと対面させる事に不安を感じているのだ。
「アルフレッド。申し訳ないが、僕が迎えに行くまで、エリーを預かってはもらえないだろうか」
「私は構わないが、長旅で疲れているだろう。エレイン嬢は、屋敷でゆっくりと休みたいのではないか」
「王宮図書館に行きたいです、殿下。調べたい事もありますし、ご迷惑でなければ、お付き合いして頂けると嬉しいですわ」
「分かったよ。それでは、私の方から先触れを出しておくね」
「すまない。ありがとう、アルフレッド」
ルーカスは王宮で公爵家の馬車に乗り換え屋敷へと帰って来ると、引き籠りだったマルゲリーターが出迎えに外に出て来ていたのだ。
馬車から下りると、嬉しそうに飛び付いて来た。
「お兄様、お帰りなさい。待っていたの」
ルーカスはきちんと受け止めて抱擁を交わすと、マルゲリーターの部屋へと向かったのだ。
「ただいま。随分と痩せたな。きちんと食事を摂っていたのではなかったのか」
マルゲリーターは、以前の面影は全く無くなっており、ほぼ標準体型になっていた。
「食べているよ。でもね、直ぐにお腹がいっぱいになるから、前みたいには食べられないの」
「そうか」
「ねえ。エレインは?一緒に帰って来なかったの」
「帰って来たが…エリーは、図書館に寄って調べ物をするそうだ」
「そう。アルフレッド殿下と、仲良しなのね」
ルーカスは、マルゲリーターの落ち着き様に驚き過ぎて、一瞬返答が遅れてしまった。
「そうだな。化石の研究が好きだから、展示場を造る為に二人でいろいろと計画をしているみたいだ」
「ふ~ん」
それ以上マルゲリーターは、何も聞いては来なかったので、ルーカスも特に話す事はしなかった。
癇癪を起さなくなってからは、常にメイドが部屋の掃除をする様になったので、以前の様な汚さはなくなっていた。
しかし調度品は壊れたままなので、そろそろ新しい物を準備しても良いのではないかと考えていたのだ。
「マルゲリーター。このまま癇癪を起さないでいられるならば、家具職人を呼んで調度品を揃えようと思っている。その前に、ドレスを仕立てるのが先だな。今から出かけてみるか」
「要らない」
「え?」
「今あるドレスも、もう着ないから、売り払って良いよ」
ルーカスは、目を見開いて言葉を失っていた。
「しかし…」
「お茶会も、パーティも、出る意味無くなっちゃったもん」
ルーカスは、頭をフル回転させて考えたが、言っている意味を理解出来なかった。
「私の自慢は、アルフレッド殿下だったんだ。王妃様になって、沢山の人に凄いと思われたかった。殿下の婚約者だから羨ましいと皆に思われたり、高貴な血筋だと思ってたからそれも自慢したかっただけ。でも、全部無くなっちゃった」
マルゲリーターは、寂しそうに淡々と語っていた。
ルーカスは、ただそれを黙って聞いている事しか出来なかったのだ。
確かに少し前までは、我儘で高飛車だったからだ、何も間違った事は言っていないのである。
マルゲリーターは失恋をした事で、如何に己の振る舞いが愚かだったかを、身を以て理解したのだった。
「ねえ。お母様は何処へ行ったの?お父様はお酒ばかり飲んでいて、酔っぱらっているのを見たわ。でも、お母様の部屋には何も無くなっていたの。離婚したの?」
「会いたいのか」
「………文句は言いたいけれど、別に会わなくてもいいかな」
「そうか。アマンダは、別邸にいる。会いたいなら、一人では行くな。護衛騎士を連れて行きなさい」
マルゲリーターは、楽しそうに笑いだした。
「なんだか、危険な動物を飼っているみたいな言い方だね」
危険動物と言われ、確かにそうかもしれないと思い、ルーカスも自然と笑みが零れていた。
「お兄様の笑った顔、初めて見たかもしれない」
ルーカスは、初対面からマルゲリーターへ良い印象を持っていなかったので、言われてみてから確かに初めてだと気付いたのだった。
「すまない。お前の前では、何時も不機嫌だったな」
「いいよ。私良い子じゃなかったもん。嫌われて当然だよ」
「随分と変わったな。別人みたいだ」
「そうだね。お兄様は知らないかもしれないけれど、パーティの帰りの馬車でね、お父様とお母様が喧嘩してたんだ。私が失恋して悲しんでいる時に、慰めてもくれなかった」
マルゲリーターは国王生誕祭の帰りの馬車で、両親が何かを隠している事に気付いている様だった。
「すまない」
ルーカスは、マルゲリーターの胸の内を理解して、謝る事しか出来ずにいた。
「お兄様だけだよ。心配して、私を見に来てくれたの。お兄様が抱きしめてくれた時、嬉しかったんだ。ひとりぼっちになったと思っていたのに、一人じゃなかった。エレインの事は、今でも憎いよ。私が欲しかった物を、全部持っているのが、羨ましくて仕方がないよ。でもね、お兄様が帝国に行ったでしょう。凄く寂しかったんだ。私も一緒に行きたいと思っていたのに、連れて行って貰えなかったのは、凄く悔しいよ。でもね、それも私が悪いんだよ。エレインと仲良く出来ないから、自業自得だよね。それも分かっているけど、やっぱりエレインは嫌いだよ」
「そうか」
ルーカスは、マルゲリーターがきちんと自分が置かれている状況を理解していた事に、驚きを隠せずにいる。
そして何も声を掛けてあげられない事にも、もどかしさを感じていた。
「苛めたいと思う。気が済むまで叩いてやりたいと思っているよ。泣いたって絶対に許さない。怪我して歩けなくなったら、ざまみろって思う位憎いよ。あの綺麗な顔がぐちゃぐちゃになるまで、叩いて叩いて二度と人前に出られなくなれば、スッキリするんだろうなって考えただけで楽しくなる。アル様を取り戻して、あの女の前で仲良くしているところを見せつけてやりたい。そんな夢ばっかり見てる」
「そうか」
マルゲリーターが本気で言っているのだと感じてはいたが、咎める気にはならず何故かその気持ちは理解出来たのだ。
心から慕っていた相手が何者かに心移りをされて、婚約破棄までされたのだから、怒りの矛先が相手の女性に向く事は珍しくは無いのだ。
「お兄様」
「なんだ」
「私、頑張るよ」
「何をだ」
「エレインを、苛めない様に頑張るよ」
「!?」
「直ぐは無理かもしれないけど、いっぱい嫌味とか言っちゃうと思うけど、叩いたりはしない様に頑張るから」
「何故だ?無理をしてまで、エレインに会う必要はないのだぞ」
「だって。お兄様と一緒にいたいんだもん。エレインと仲良く出来なかったら、お兄様とも一緒にいられないでしょう。寂しいもん。だから、私頑張ろうと思う。でもね、自信はないから、手をあげそうになったらお兄様が止めてね。そうしたら、私大丈夫だから」
「………」
「アルフレッド殿下は取られちゃったけれど、お兄様は私の傍にいてよ。お勉強は嫌いだし、マナーも悪いけど、一人は寂しいの」
「そうか。頑張りなさい」
「うん」
幼い子供の様に笑うマルゲリーターは、かなり無理をして笑顔を作っているのだと、ルーカスは感じていた。
あれだけ我儘で、自由奔放に生きて来た性格は、そう簡単に変わる物ではないのだ。
実際にエレインと対面したのなら、罵声を浴びせ飛び掛かろうとするのが目に見える。
それでも一人でいるのは寂しいと、ルーカスの傍にいたいと望むマルゲリーターの気持ちは、痛い程理解出来たのだ。
別邸に籠ってしまった母に会いたいと、一人で心細く泣きじゃくっていた幼い頃を、思い出していた。
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