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お別れ
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「エリー。僕が傍にいるから、落ち着いて驚かないで、聞いて欲しい」
「はい」
「マリーが、何者かによって連れ去られた。乗っていた馬車は、王都の外れで見つかったが…恐らく…複数の盗賊に襲われたと思われる」
「そ…んな…お、お姉様は、無事なのですよね。護衛騎士が、付いていたのですもの。もう直ぐ、戻って来られるのですよね」
ルーカスは、動揺を隠しきれないエレインの肩を抱き寄せた。
「今、現場に捜索隊を向かわせたが、王家からの書状には…マリーは見つかっていないと書かれている」
「馬車を置いて、逃げたのですね。そうですよね」
「そうだな…今は、それを祈るしか出来ない」
国王は、重罪を犯した公爵家を、表立って裁く事が出来なかった。
国内の治安維持よりも、帝国との友好を選んだのである。
しかし、何のお咎めも無い事には出来なかったのだ。
近い内に公爵夫妻は、領地の視察途中で、盗賊に襲われ死亡したと報道される事になる。
だが、その現場を見る者は、誰もいない。
知らぬ者は報道を信じ、公爵家の不幸を嘆いてくれる事だろう、知っている者は静かに処刑されたのだと悟る事になる。
犯した罪は、決して消える事はないと、敢えて分かり易く処置する方法を選んだのだ。
ルーカスはこのシナリオを、エレインにきちんと伝える事が出来た。
これは国家機密なのだから、他言は無用であり、エレインも決して口外しないと誓うのだった。
では、マルゲリーターは、どうなったのか。
ルーカスは、エレインに真実を話せずにいた。
本来であれば被害者である筈なのだが、公爵家の嫡子はあくまでも二人だけ、ルーカスとエレイン以外は認めないと国王はルーカスに言ったのだ。
つまりマルゲリーターは庶子であり、貴族牢へ入る事も許されず、アマンダと共に地下牢で処刑されると言う事になる。
国王は、オルターナ公爵夫妻が重罪を犯すきっかけとなったマルゲリーター毎消し去る事で、今回の事件に対し終止符を打とうとしているのだ。
これにはルーカスだけではなくアルフレッドまでもかなり難色をしめしたのだが、マルゲリーターを救うことは、終ぞ出来なかったのだった。
せめて地下牢での処刑だけは温情を頂きたいと粘った事で、この様な結果になってしまったのである。
ルーカスはマルゲリーターが二度と戻って来ない事を知っているだけに、エレインの心情を考えると、胸が張り裂けそうになるのであった。
せめて愛し傍にいてあげる事が出来なくなってしまった、腹違いの妹であるマルゲリーターの分も、エレインに愛情を注ぎ支えて行こうと誓うのである。
本来ならば公爵令嬢が攫われた時点で大騒ぎになり、捜索も大々的に行われるのだが今回は自作自演だと言う事もあり、早々に打ち切られマルゲリーターは死亡したと報道されたのだった。
この訃報は、王宮の牢にいる公爵夫妻の耳にも届けられた。
公爵はマルゲリーターへの温情が与えられず、地下牢での処刑ではなく王都外で処刑が行われた事に愕然とし、娘の早過ぎる人生の幕引きに立ち会う事も出来なかった愚かな親だったと嘆き悲しんだ。
アマンダは、マルゲリーターの訃報を知らせると、何かに取り憑かれた様に泣きながら笑っていた。
その姿は異様で、数々の罪人の首を落として来た処刑人でさえ、薄気味悪さを感じる程だったと言う。
エレインは、ルーカスからマルゲリーターの訃報を知らされたが、信じる事が出来ずにいた。
公爵邸には無残に切り裂かれた血痕の付いたドレスと、片方だけの靴にエレインとお揃いのリボンで結ばれた、ひと房の茶色い髪の毛が届いただけだった。
乗っていた馬車は修理が不可能な程に破壊されており、荷物や金品は全て持ち去られた後だった為、残された遺品は何も無かったのだ。
中を確認した使用人は一斉に顔を顰め、貧血を起こして倒れた者もいる。
ルーカスはマルゲリーターの遺品を、決してエレインに見せようとはしなかったのだ。
「お兄様、本当の事を教えてください。お姉様は、何処にいらっしゃるのですか。私にも、知る権利があります。どうして何もお話しになって下さらないのですか。お兄様」
「すまない。不甲斐ない兄で…マリーを護ってあげる事が出来ない兄で、本当にすまない」
「お兄様、嘘は嫌ですわ。お姉様が何処にいらっしゃるのか、本当はご存じなのでしょう。どうして、教えてくださらないのです」
ルーカスは、悲しそうな優しい微笑みを向けているだけだった。
それに見兼ねた執事が、エレインに声を掛けて来た。
「エレイン様。私は、公爵家に送られて来た遺品のドレスを、この目で確認致しました。間違いなくマルゲリーター様が、ご出発される時にお召しになっていたドレスにございます。とてもお見せできる状態ではございませんでしたが、こちらは綺麗に洗いましたので、どうか形見の品としてお持ちくださいませ」
執事は、マルゲリーターが髪に結んでいたリボンを、エレインに差し出したのだ。
それを受け取ったエレインは、確かにマルゲリーターとお揃いで付けていた物だと理解し、その場に泣き崩れるのであった。
ルーカスは、エレインの悲しむ姿を見たくはなかった。
やっと三人兄妹として仲良く暮らせると思っていただけに、落胆も大きかったのである。
泣きじゃくるエレインを抱きしめ、掛ける言葉も見つからずに、ただその場で立ち尽くしているだけで精一杯だったのだ。
マルゲリーターの訃報を聞いたアルフレッドが、心配のあまり公爵邸に先触れもなくやって来たが、それを不快に思う者は誰もいない。
「ルーカス、エレイン嬢。すまない、私が不甲斐なかった」
「王族の癖に、臣下に謝罪等するな。お前は何も責任を感じる必要は無いだろう」
「だが………お前は、私の友ではないか…それに…」
アルフレッドは、そっとエレインの肩に手を乗せた。
「私は其方を、悲しませたくはなかったのだよ」
悔しいと言う表情を隠そうともせずに、アルフレッドは心の内を語るのだった。
「殿下…お姉様は…」
エレインは、ルーカスの胸に顔を埋めて泣いていたのだが、何かを言いたげにアルフレッドを見上げていた。
今更マルゲリーターの、アルフレッドへの思いを伝えたところで、いったい何になると言うのだろうか。
そう思うと、余計に涙が溢れて止まらなくなったのだ。
『今日の話しは、絶対に二人だけの秘密だよ』
これが、マルゲリーターと交わした、最初で最後の約束になってしまった。
エレインの心の傷が癒える間も無く、シルベスの処刑の日取りが決まったと、ルーカスから聞かされたのはそれから間もなくの事だ。
「無理はしなくても良いのだぞ」
「いいえ。最後ですから、きちんと言いたい事を伝えようと思います」
エレインは傷心のあまり学園を休んでおり、この日は久し振りの外出となった。
ルーカスと共に訪れた貴族牢は、思っていたよりも広く清潔な場所で、整備された庭では季節の花が咲き誇っている。
出入り口に警備騎士が立っており、鉄格子を潜ると各個室が並んであった。
案内された部屋に入るとシルベスに枷は付けられてなく、窓越しに庭園が眺められ、出入りも自由に出来る様だ。
その窓から見える庭が、檻で囲まれていなければ、何処かの屋敷の一室にいる様な錯覚に襲われる。
エレインは、真っ直ぐにシルベスを見つめていた。
「お父様。私は、貴方を恨んではおりません。ただお姉様だけではなく、お父様まで失ってしまう事に、深い悲しみを感じております。もしも願いが叶うのであれば…私は、お兄様とお姉様と一緒に、お父様とも親睦を深めたかった。家族として、暮らしたかったと、思っております。この様な結果になってしまった事が、とても残念です」
「エレイン、ありがとう。会いに来てくれた事、心から嬉しく思う。父親らしい事を何もしてあげられず、すまなかった。どうか、ルーカスと共に、幸せになって欲しい。不甲斐ない父親だが、お前たちの幸福を、心から願っている」
最後にエレインは、父親と最初で最後の抱擁を交わし、貴族牢を後にした。
翌朝シルベスは抵抗をする事もなく毒杯を呷った事で、公爵夫妻が事故死したと公表されたのだった。
オルターナ公爵家は、マルゲリーターに続き公爵夫妻の葬儀も、ルーカスとエレインだけで執り行った。
しかし遺体はなく、空の棺だけが埋葬された。
罪人は、先祖代々の墓に入る事さえ許されないのだ。
アマンダはシルベスが処刑された後は放置され、一日一度の食事どころか水を持って来る者もいなくなった。
喉の渇きと飢えに苦しみながら、王宮の地下牢でこの世を去る事になるのだが、その最後を誰にも知られる事はなかったのである。
「はい」
「マリーが、何者かによって連れ去られた。乗っていた馬車は、王都の外れで見つかったが…恐らく…複数の盗賊に襲われたと思われる」
「そ…んな…お、お姉様は、無事なのですよね。護衛騎士が、付いていたのですもの。もう直ぐ、戻って来られるのですよね」
ルーカスは、動揺を隠しきれないエレインの肩を抱き寄せた。
「今、現場に捜索隊を向かわせたが、王家からの書状には…マリーは見つかっていないと書かれている」
「馬車を置いて、逃げたのですね。そうですよね」
「そうだな…今は、それを祈るしか出来ない」
国王は、重罪を犯した公爵家を、表立って裁く事が出来なかった。
国内の治安維持よりも、帝国との友好を選んだのである。
しかし、何のお咎めも無い事には出来なかったのだ。
近い内に公爵夫妻は、領地の視察途中で、盗賊に襲われ死亡したと報道される事になる。
だが、その現場を見る者は、誰もいない。
知らぬ者は報道を信じ、公爵家の不幸を嘆いてくれる事だろう、知っている者は静かに処刑されたのだと悟る事になる。
犯した罪は、決して消える事はないと、敢えて分かり易く処置する方法を選んだのだ。
ルーカスはこのシナリオを、エレインにきちんと伝える事が出来た。
これは国家機密なのだから、他言は無用であり、エレインも決して口外しないと誓うのだった。
では、マルゲリーターは、どうなったのか。
ルーカスは、エレインに真実を話せずにいた。
本来であれば被害者である筈なのだが、公爵家の嫡子はあくまでも二人だけ、ルーカスとエレイン以外は認めないと国王はルーカスに言ったのだ。
つまりマルゲリーターは庶子であり、貴族牢へ入る事も許されず、アマンダと共に地下牢で処刑されると言う事になる。
国王は、オルターナ公爵夫妻が重罪を犯すきっかけとなったマルゲリーター毎消し去る事で、今回の事件に対し終止符を打とうとしているのだ。
これにはルーカスだけではなくアルフレッドまでもかなり難色をしめしたのだが、マルゲリーターを救うことは、終ぞ出来なかったのだった。
せめて地下牢での処刑だけは温情を頂きたいと粘った事で、この様な結果になってしまったのである。
ルーカスはマルゲリーターが二度と戻って来ない事を知っているだけに、エレインの心情を考えると、胸が張り裂けそうになるのであった。
せめて愛し傍にいてあげる事が出来なくなってしまった、腹違いの妹であるマルゲリーターの分も、エレインに愛情を注ぎ支えて行こうと誓うのである。
本来ならば公爵令嬢が攫われた時点で大騒ぎになり、捜索も大々的に行われるのだが今回は自作自演だと言う事もあり、早々に打ち切られマルゲリーターは死亡したと報道されたのだった。
この訃報は、王宮の牢にいる公爵夫妻の耳にも届けられた。
公爵はマルゲリーターへの温情が与えられず、地下牢での処刑ではなく王都外で処刑が行われた事に愕然とし、娘の早過ぎる人生の幕引きに立ち会う事も出来なかった愚かな親だったと嘆き悲しんだ。
アマンダは、マルゲリーターの訃報を知らせると、何かに取り憑かれた様に泣きながら笑っていた。
その姿は異様で、数々の罪人の首を落として来た処刑人でさえ、薄気味悪さを感じる程だったと言う。
エレインは、ルーカスからマルゲリーターの訃報を知らされたが、信じる事が出来ずにいた。
公爵邸には無残に切り裂かれた血痕の付いたドレスと、片方だけの靴にエレインとお揃いのリボンで結ばれた、ひと房の茶色い髪の毛が届いただけだった。
乗っていた馬車は修理が不可能な程に破壊されており、荷物や金品は全て持ち去られた後だった為、残された遺品は何も無かったのだ。
中を確認した使用人は一斉に顔を顰め、貧血を起こして倒れた者もいる。
ルーカスはマルゲリーターの遺品を、決してエレインに見せようとはしなかったのだ。
「お兄様、本当の事を教えてください。お姉様は、何処にいらっしゃるのですか。私にも、知る権利があります。どうして何もお話しになって下さらないのですか。お兄様」
「すまない。不甲斐ない兄で…マリーを護ってあげる事が出来ない兄で、本当にすまない」
「お兄様、嘘は嫌ですわ。お姉様が何処にいらっしゃるのか、本当はご存じなのでしょう。どうして、教えてくださらないのです」
ルーカスは、悲しそうな優しい微笑みを向けているだけだった。
それに見兼ねた執事が、エレインに声を掛けて来た。
「エレイン様。私は、公爵家に送られて来た遺品のドレスを、この目で確認致しました。間違いなくマルゲリーター様が、ご出発される時にお召しになっていたドレスにございます。とてもお見せできる状態ではございませんでしたが、こちらは綺麗に洗いましたので、どうか形見の品としてお持ちくださいませ」
執事は、マルゲリーターが髪に結んでいたリボンを、エレインに差し出したのだ。
それを受け取ったエレインは、確かにマルゲリーターとお揃いで付けていた物だと理解し、その場に泣き崩れるのであった。
ルーカスは、エレインの悲しむ姿を見たくはなかった。
やっと三人兄妹として仲良く暮らせると思っていただけに、落胆も大きかったのである。
泣きじゃくるエレインを抱きしめ、掛ける言葉も見つからずに、ただその場で立ち尽くしているだけで精一杯だったのだ。
マルゲリーターの訃報を聞いたアルフレッドが、心配のあまり公爵邸に先触れもなくやって来たが、それを不快に思う者は誰もいない。
「ルーカス、エレイン嬢。すまない、私が不甲斐なかった」
「王族の癖に、臣下に謝罪等するな。お前は何も責任を感じる必要は無いだろう」
「だが………お前は、私の友ではないか…それに…」
アルフレッドは、そっとエレインの肩に手を乗せた。
「私は其方を、悲しませたくはなかったのだよ」
悔しいと言う表情を隠そうともせずに、アルフレッドは心の内を語るのだった。
「殿下…お姉様は…」
エレインは、ルーカスの胸に顔を埋めて泣いていたのだが、何かを言いたげにアルフレッドを見上げていた。
今更マルゲリーターの、アルフレッドへの思いを伝えたところで、いったい何になると言うのだろうか。
そう思うと、余計に涙が溢れて止まらなくなったのだ。
『今日の話しは、絶対に二人だけの秘密だよ』
これが、マルゲリーターと交わした、最初で最後の約束になってしまった。
エレインの心の傷が癒える間も無く、シルベスの処刑の日取りが決まったと、ルーカスから聞かされたのはそれから間もなくの事だ。
「無理はしなくても良いのだぞ」
「いいえ。最後ですから、きちんと言いたい事を伝えようと思います」
エレインは傷心のあまり学園を休んでおり、この日は久し振りの外出となった。
ルーカスと共に訪れた貴族牢は、思っていたよりも広く清潔な場所で、整備された庭では季節の花が咲き誇っている。
出入り口に警備騎士が立っており、鉄格子を潜ると各個室が並んであった。
案内された部屋に入るとシルベスに枷は付けられてなく、窓越しに庭園が眺められ、出入りも自由に出来る様だ。
その窓から見える庭が、檻で囲まれていなければ、何処かの屋敷の一室にいる様な錯覚に襲われる。
エレインは、真っ直ぐにシルベスを見つめていた。
「お父様。私は、貴方を恨んではおりません。ただお姉様だけではなく、お父様まで失ってしまう事に、深い悲しみを感じております。もしも願いが叶うのであれば…私は、お兄様とお姉様と一緒に、お父様とも親睦を深めたかった。家族として、暮らしたかったと、思っております。この様な結果になってしまった事が、とても残念です」
「エレイン、ありがとう。会いに来てくれた事、心から嬉しく思う。父親らしい事を何もしてあげられず、すまなかった。どうか、ルーカスと共に、幸せになって欲しい。不甲斐ない父親だが、お前たちの幸福を、心から願っている」
最後にエレインは、父親と最初で最後の抱擁を交わし、貴族牢を後にした。
翌朝シルベスは抵抗をする事もなく毒杯を呷った事で、公爵夫妻が事故死したと公表されたのだった。
オルターナ公爵家は、マルゲリーターに続き公爵夫妻の葬儀も、ルーカスとエレインだけで執り行った。
しかし遺体はなく、空の棺だけが埋葬された。
罪人は、先祖代々の墓に入る事さえ許されないのだ。
アマンダはシルベスが処刑された後は放置され、一日一度の食事どころか水を持って来る者もいなくなった。
喉の渇きと飢えに苦しみながら、王宮の地下牢でこの世を去る事になるのだが、その最後を誰にも知られる事はなかったのである。
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