【完結】すり替えられた公爵令嬢

鈴蘭

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学園に来たバーバラ

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 学園の馬車止まりには、エレインを送って来たルーカスの姿があった。
 「また帰りに迎えに来るから、絶対に一人で帰ってはいけない。他者の馬車に同行する事も駄目だ。分かったね、エリー」
 「はい、何時もありがとうございます。お兄様もお気を付けくださいね」
 ルーカスは笑顔で頷くと、額に優しいキスを落として馬車を出すのであった。

 エレインは真っ直ぐに図書室へ行き、本を読んでいるとパトリシアが迎えに来た。
 二人で教室へと向かうと、バーバラが待ち構えていた様に、声を掛けて来たのだ。
 「やっと来たのね、エレイン。遅刻ギリギリではなくって。今日から私も登園する事にしたのよ。だから、貴方を私の侍女に任命するわ、光栄に思いなさい。明日からはもっと早く屋敷を出て、私を出迎えるのよ、分かったら返事をなさい」
 「ごきげんよう、バーバラ様。私は、毎朝図書室に寄ってから教室に来ておりますのよ。例え朝礼に間に合わなくても、何も問題はありませんわ。あと…学園の規則については、生徒手帳に記載されておりますので、一読される事をお勧め致しますわ」
 「余計なお世話でしてよ、エレイン。私に対して、生意気な口を利く事は、許さなくってよ」
 「お言葉ですが、バーバラ様。規則を守らなかった場合、停学や最悪退学にもなり兼ねませんのよ。同級生に侍女の役割を求めてはいけないと、しっかり記載されておりますので、申し出はお断り致しますね」
 「お前。言葉が通じない様ね。今日から私の侍女に任命すると言ったのだから、返事は「はい」の一択でしてよ。規則違反だと言うのなら、お前から望んで私の世話をなさい」
 「何故です?」
 「ルタオ王国の王女なのよ。私の世話を出来るのは、光栄な事だと言っているでしょう」
 「そうですか。どうしても私を侍女として扱いたいのであれば、学園長の許可をお取りくださいませ」
 「何ですって!」
 「お話が他にないのであれば、席にお戻りくださいませ、バーバラ様。何かご不便な事がありましたら、クラスメイトとしてお助けいたしますわね」
 クラスメイトはかたずを飲んで、二人のやり取りを見守る事しか出来ずにいた。
 誰も隣国の王女には、逆らえないのである。
 「そうだわ。バーバラ様、ひとつお話がございました。クラスメイトにも、侍女の役割を押し付けるのは、お止めくださいね。学園長から問題行動を起こした場合、直ぐに知らせる様にと仰せつかっておりますの」
 エレインは、見惚れる程の笑顔で話を締めくくったのだった。
 まもなく教師が来たので、バーバラは大人しく席に着いた。
 『許せませんわ。クラスメイトの前で、私に恥をかかせるなど、万死に値する行為。皇弟妃の娘だとしても、所詮は分家の人間でしょう。直系王族の私の方が、肩書は上なのですもの。エレインが、平伏するべきではなくって』
 怒りを隠そうともしない王女を、冷めた視線でマシューは見つめている。
 王太子の側近である彼は、滅多な事が無い限り、学園内で起こるもめ事に首を突っ込む事はしないのだ。
 最悪、アルフレッドの責任問題にまで発展されては困るのである。
 しかし、今回は国同士の問題になり兼ねない。
 帝国の皇女であるエレインと、隣国の王女であるバーバラが衝突した場合は、迷わずエレインを守る様にとアルフレッドから命を受けている。
 幸い口喧嘩程度で済んだが、エレインを本気で侍女にしようものならば、問答無用で隣国へ送り返す事になっただろう。
 マシューは、学園内でのバーバラの行動を、アルフレッドに報告する命も受けているのだ。
 面倒くさい事になりそうだと、胃がキリキリ痛むのを感じている。
 エレインは、そんなマシューの体調とは裏腹に、バーバラの面倒を見るのは自分の役目だと考えていた。
 侍女の様な対応はしないが、クラスメイトとして接する事はやぶさかでは無いと、思っているのである。
 バーバラはエレインを敵の様に見ているが、エレインはバーバラを敵対視していない事も、バーバラの心境を逆なでしている元凶になっていた。
 
 今朝の一件を見ていたパトリシアは、休憩時間になると心配をしてエレインに話しかけて来た。
 「エレイン様、朝から災難でしたわね。バーバラ王女殿下は、噂以上のお方で驚いておりますわ。あのご様子でしたら、今後も何かと騒ぎを起こすのではないかしら」
 「そうね、きっとルタオー王国では、侍女の帯同が認められていたのかもしれませんわね。お友達が、お世話をして下さっていたのかもしれませんわ」
 「ですがこの学園では、生徒はみな平等に扱われております。今後はきちんと、校則に従っていただかなくてはいけないと思いますの」
 「パトリシア様の仰る通りですわ。バーバラ様はルタオー王国でも学園に通われていたと聞いておりますし、態々留学に来る程学ぶことが好きなのですわ。今は慣れていらっしゃらないから、戸惑いの方が勝っているのかもしれませんわね。きちんと教えて差し上げるのも、私の役目だと思っておりますのよ」
 「もう!エレイン様、少しは危機感をお持ちくださいませ。あのお方は、学びたくて学園に来たのでは無いと思いますわよ」
 「あら、どうしてそう思われるのですか」
 「今年二十歳になられるのですよ。悠長に学んでいる場合では、ありませんわ。ルタオー王国では、もうお相手が見つからないと兄から聞いておりますの。間違いなく、アルフレッド殿下の妃の座を狙って来たのです。留学は建前ですわ。それでなければ、初日からきちんと通われておりますでしょう」
 「パトリシア様のお兄様がその様な事を?」
 エレインは胸の奥がザワザワする様な感覚を覚え、アルフレッドの優しい微笑みを思い出して、心がチクリと痛むのであった。
 「エレイン様。不敬かもしれませんが、アルフレッド殿下は晩熟おくてな方ですわ。ご自身から攻めて行きませんと、時間だけが無意味に過ぎて行ってしまいます」
 「その様な事を申されましても、困ってしまいますわ」
 「そうですわね。エレイン様も晩熟でしたわね…うふふ」
 パトリシアは化石採掘に行った時の、微笑ましい二人の姿を想像してしまうのだった。
 「そうだわ、パトリシア様。今朝の勢いですっかり忘れてしまったのだけれど、昨日素敵な発見をしたのよ。お昼休みになったら、ゆっくりお話をしませんか」
 「あら、何かしら。エレイン様の瞳が輝いておりますわ、とても素敵な事があったのですね。楽しみですわ」
 「はい。本当は今直ぐにでもお話したいのですが、もう休憩時間が終わってしまいます。残念ですわ」

 エレインとパトリシアが会話をしている姿を、バーバラは恨めしそうに睨み付けている。
 ルタオー王国では見境なく気に入った男を侍らせており、声を掛けて貰いたくて、熱い視線を送って来る男も絶えた事は無い。
 気に入らない男だったとしても、視線を送られるのは優越感に浸れるため、嫌いではなかった。
 一度バーバラを知ってしまった男は、飢えた獣の様に身体を求めて来る様になり、それがまた虚栄心を増長させていた。
 身体に触れたい一心で、彼女の言いなりになる男共を破滅させるのも、一興である。
 バーバラが望めば、男たちは喜んで婚約者に残酷な言葉を投げつけていた。
 目の前で好きな男から婚約を破棄され、惨めに泣き崩れる令嬢たちの姿を見るのも、彼女の娯楽のひとつなのである。
 あの快楽が心地よくルタオー王国では傍若無人に振舞い過ぎた結果、体よく追い出されたのだが、彼女はその事実に気付いてはいなかった。
 ロイズ王国の王宮では何故か相手にされなかったのだが、学園に来たら男共が騒ぎ出し、その婚約者である令嬢たちが悔しがる姿を想像していたのだ。
 しかしこの国の男たちは、誰もバーバラに声を掛けては来なかった。
 全てエレインの存在の所為だと逆恨みをしているのだが、それは大きな間違いなのである。
 既にバーバラの悪癖は有名になっており、彼女に手を出すと破滅の道が待っている事を知りながら、自ら茨の道を歩こうと思う者がいなかっただけなのである。
 この学舎に通う生徒たちには、輝かしい未来が保証されているのだ。
 しかしそれは男子生徒に限っての事であり、エレインを疎ましく思っている女子生徒たちには好機に見えた。
 上手くバーバラをおだて上げ、エレインに害を為そうと画策したのだが、人一倍プライドの高い彼女が格下の言う事を聞く訳がなかったのだ。
 結果的に、エレインが守られた形になるのだが、バーバラはそんな事すら気付いていない。
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