あした僕は鬼になる

高谷 ゆうと

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追及

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「それであいつらと、気まずい関係になったんだ」
 僕が颯太と二人きりで顔を合わせたのは、タイスケとケンカ紛いの事をしてから、四日が経った日だった。
 颯太の部活が終わった夕方に、前にも訪れたドーナツショップに立ち寄って話をしようということになったのだ。
「磯賢治に関する情報を手に入れた」と、学校の休み時間に、颯太が耳打ちをしてきた。ここ(学校)じゃまずいから、あまり話を盗み聞きされないような場所で話そうと取り決めた結果が、ドーナツショップだった。
 ファミレスだと隣の席との間隔が近いからと二人の間で即却下され、ファーストフード店だと、タイスケに出くわすかもしれないから嫌だと僕が我が儘を言い、その挙げ句、じゃあ隣の席との間隔がほどよく、他人の会話を盗み聞きするような人はあまりいないであろうドーナツショップにしようと互いに同意したのだ。
 「僕は、何も間違ってないよね」
 不安感を丸出しの口調で、僕は聞いた。颯太はどうだろうと言いたげな表情をして、僕を見る。
 「俺には何とも言えないな。だってさ、康介の推理が間違いだったとしたら、タイスケは何にも悪くないわけだろ?……だから、冷たい態度は、別に今取らなくても良かったんじゃないかな」
 「冷たくするつもりはなかったんだけど、つい本人を目の前にしたら、だんだんムカついてきて……」
 「わかるよ」
 颯太がドーナツをフォークで切って、口に入れる。わかってもらわなくてもいいと卑屈な思いも抱いたが、僕も同じようにしてドーナツを食べた。
 「それで、颯太が知った情報って何なの?もちろん、磯さんのことだよね」
 「違ってたら、どうする?」
 「場合によっては、怒る」
 「そりゃこえーな」
 颯太が笑う。本気で思っているわけではないらしく、なぜか僕を恐れているように見えたタイスケとは違うなと思った。
 「磯賢治の家族構成と、交友関係について、情報が入ってきたんだ」
 どきりとした。最も知りたい事のひとつだ。僕は唾を飲み込んで、颯太の言葉を待った。
 「磯賢治は、両親と兄と弟の五人家族で、兄は今、二十代。弟は中学生らしい。それから、紅蓮のリーダーとか言ってた柏原って人とは、結構仲が良かったらしいな」
「なんで?柏原さんとは同級生じゃないんでしょ。どうして仲が良かったのかな」
 僕は、磯さんの家族構成なんかよりも、柏原さんとの関係の方が気になった。この間の柏原さんの態度には、どんな理由があったのだろう。
 磯さんと柏原さんは親交があった。仲の良い磯さんが何者かに襲われた後を遼一が目撃したのに、遼一はそれを助けなかった。
 遼一が助けていれば、磯さんは助かったかもしれない。
 そんな遼一の告白を聞いた柏原さんは……。
「どうしたんだ?康介」
 黙りこくった僕を、不思議そうな目で見る颯太。
「いや、なんでもないよ」
 柏原さんを怪しいと思ったのは、それこそ僕の思いつきかもしれない。タイスケの時のように、いくつもの根拠がないのだ。
 他人を疑い始めると、どんどん深みにはまってしまうのだなと思った。
 きりがない。
 そのうち、僕に関わる人全てを疑い始めてしまうんじゃないかと思うと、恐ろしさまで感じた。
「颯太、僕、そろそろ帰るよ」
「あ、ああ、そうだな。俺も」
 颯太はそう言って、僕の分のトレーまで持ち上げ、返却口へ歩いていった。その数歩後ろをついていき、やがて店を出た僕は、あることを考えていた。
 今まで聞いた情報を、萩野さんに伝えよう。警察である彼ならあるいは、僕達をぐっと解決の方向へ導いてくれるかもしれない。

 家に帰った僕は、早速携帯電話で萩野さんに電話をかけた。だが、何回も呼び出し音が耳元で響いていたにも関わらず、萩野さんが電話に出ることはなかった。
 きっと今は忙しいんだと、僕は自分に言い聞かせた。
 携帯電話を脇に置いて、机の上にあった白紙を眺める。
 そして、床に落ちていたシャーペンを手に取り、椅子に座った。これまでの事を、つらつらと書き連ねて整理しようと思ったのだ。

 遼一が死んだ。
 事故現場に行ったら、萩野さんと出会った。
 颯太が僕に話しかけてきてくれた。
 紅蓮ビルに初めて入り、柏原さんやタイスケと出会った。

 そこまで書き出して、僕は妙な感情を抱いた。
 懐かしいような、でも自分がした行動ではないような、よく分からないけど、そんな感じの思いが、心の中に流れ込んできたのだ。
 一体、僕は何をしているんだろう。
 唐突にそう思った。シャーペンを置き、顔をあげる。
 僕はどうして、犯人探しなんかしているのだろう。
 困難な捜査など、警察に任せておけばいいのに。
 第一、犯人を見つけられたとして、その時僕はどうすればいいのだ。そいつを目の前にしても、殴り飛ばす力もない。むしろ立ちすくんで動けなくなりそうだ。
 僕に何の得もない。後に残るのは、ただ、どうしようもない虚しさだけのような気がする。
 やめちゃえよ。
 心のどこかで、声がした。
 戸惑う。
 果たして、同じ人間の考える事なのかと、自分の事なのに疑問に感じた。
 僕はどうすればいいのだろう。そんな、滑稽な疑問を抱く。
 だが、いちいち自分に問いかけなくとも、すでに答えは出ている事にも気付いていた。
「続けるんだ」
 そうだ。僕は、犯人探しを続けるんだ。決意を口に出して、深く心に刻む。何があっても、どんなに行き詰まっても、自分で決めたことだ。
 誰かに頼まれたわけではないんだし、やめようと思えば「無理だった」と言ってやめられるけど、逃げたくはなかった。
 どんな結果が待っていたとしても、最後までやり抜けば、悔やむ気持ちも少なくなるだろう。
 それが僕の考えだ。
 タイスケに、謝ろう。
 限りなく怪しくても、彼はまだ犯人だと決まったわけじゃない。怪しいのは、柏原さんだって同じだ。
 颯太だって、萩野さんだって、犯人じゃないという確証はない。
 ほんの一瞬しか会っていないけれど、タイスケの友達と言っていたジュンヤという少年も、遼一とは面識があるだろうから、僕の中では容疑者リストに入れざるを得ないのだ。
 そうと決まれば善は急げと、家を出た。タイスケは、ああ見えて優しい奴だから、許してくれるだろう。
 たかをくくって、街中を走る。走ることに、ただ夢中だった。息が切れても気にしなかったが、夜遅くに外にいるというのが、少し気がかりだった。

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