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闇路の星
Synopsis
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「王都?何のために?」
つむぎは思わず聞き返した。
〔そりゃ、さっきも言っただろ。大陸の進歩と調和と平和のためだよ〕
つむぎは眉をひそめた。大陸の進歩と調和と平和の前に、自分はまず食べ物と水と身の安全を確保したいのだが。
〔じゃ、また後で話すよ。まずはいろんなものの調達だね。で、ブルームを出よう〕
つむぎはうなずいて、街並みをもう一度眺め直した。悲しいような、恨みたいような、泣きたいような、突然そんな気分に駆られて、つむぎは街並みから目を逸らした。
ふぅ。つむぎはブルームの近くの森の木の洞の中で一息ついた。ようやく休憩ができる。
ごみを漁る子供たちを横目に、ごみ捨て場で拾ってきた異世界風の服に、カサブランカに教えてもらった知識で集めた木の実、そして巨大な植物の葉っぱに汲んできた水。衛生的にどうなのかは知らないが、飲めはするらしい。リルが教えてくれた。
衛生といえば、トイレがないのも大変だった。その辺りの藪で用を足さなければいけないということが、どれだけ神経を使うのかわかった。衛生観念という言葉がまだあまり広まっていない世界だからこそ、少し風邪をこじらせればすぐに死んでしまうのではないかということに気がついて、つむぎは怖くなった。
しかし、今は何も考えずに休みたい。そうだ、その前に着替えて、目立たないようにしなければ。
「リルって男?女?」
ふと気になってつむぎはたずねた。そもそも鏡に性別なんてあるのかはわからなかったけれど。
〔あぁ、そういうことね。大丈夫、私はロリコンじゃないから、君の体になんか興味はないよ〕
つむぎは一旦リルを外に投げてから、着替えた。自分の体には少し大きいサイズのくすんだ紫色のマントと、木綿のような素材でできた上着とズボンを身にまとったつむぎはくるりと回ってみた。なんだか異世界っぽい。いろいろなことから、少し救われたような気持ちになった。
〔終わったかい?話してもいいかな?〕
皮肉っぽいリルの声が頭の中に響いた。つむぎはうなずいて、泥まみれになった手鏡を拾い上げた。一応、泉の水で洗ってやる。冷たい。
〔そうそう、丁寧に洗ってね。誰かさんのせいで、せっかくの私の美貌がくすんじゃったからさ〕
もう一度泥の中にリルを放り投げたい衝動に抗いながら、つむぎは濡れたリルを服で拭った。暗くなってきた空の下、今日の宿並び洞の中に戻る。
「大陸の進歩と調和と、何だっけ、平和のためって、どういうこと?」
つむぎは洞の中で、木の実をかじりながらたずねた。苺とブルーベリーが混ざったような果汁の甘みが、口の中に広がる。
〔それはまぁ、言葉の通りだよ。大陸平和を脅かそうとしてるのがいるから、そいつから国々を守ってほしいんだ〕
平和を脅かす。異世界。ぱっと脳裏に浮かんだのは、怖い顔をした魔王の姿だった。小さい頃、あの子の家で遊んだゲームに出てきたキャラクターだ。
〔違う違う。魔王なんかもうとっくに倒したよ〕
「違うの?」
つむぎは少しびっくりした。異世界の敵といえば魔王だろう。
〔私が止めようとしてるのは、少し道を違えちゃった、最強の魔法使いだよ。魔王討伐の立役者でもあるね〕
最強。その響きに気圧されて、つむぎは唾を飲んだ。しかし、どういうことだろうか。魔王を倒したというのなら正義の味方のように思える。なぜ止めないといけないのだろうか。そこまで考えて、ふとカサブランカのことを思い出した。何か、いろいろあったのかもしれない。しかし、なぜ自分なのだろう。
〔予言があるからね〕
「予言?どういうこと?」
つむぎはよくわからずに首を傾げた。話の行先が見えない。
〔二百年前くらいに生きてた、これまた最強の魔法使い、シドニウス君が、ある予言をしたんだ。千年以内に必ず異世界から人間が訪れる。その人間は、何か大きなことをしでかすだろうってね。ちなみに、最強の魔法使いくんと同期だったよ。覚えといてね〕
つむぎは眉をひそめた。その予言が合っていたとして、自分が「何か大きなこと」を実現することができるのだろうか。今の自分はどちらかといえば弱い部類の人間だろう。自分に何ができるというのだろう。それに、なぜ二百年も前のことをリルが知っているのだろうか。わからないことが多すぎる。
〔いちいちに文句をつけるのはやめてくれよ。天は嘘をつかないんだからさ。とにかく、君が頼りなんだ〕
「…私が何かをするとして、何をすればいいの?」
〔よくぞ聞いてくれたね。君には、宝石を最強の魔法使い君から守ってほしいんだ〕
守る?宝石を?最強の魔法使いから?つむぎは慌てて首を振った。そんなこと、自分にできるわけがない。自分はただ、この世界で静かに生きていけたら良いと思っているだけの人間なのに。
〔それが脅かされるかもしれないんだったら、協力してくれるのかな〕
「どういうこと?」
〔最強の魔法使い、フェリクール君はね、シドニウス君の力で、長年弱体化されてたんだ。でも、そろそろ力を取り戻す頃なんだよね。だから、動き出すと思うんだ。大陸から国を全て消し去るために。そうそう、その前に、彼は君に会いに来ると思うよ。自分を阻む障害物なのか、それともお助けアイテムなのか、迷ってるだろうから〕
つむぎは驚いて固まってしまった。どういうことだろう?なぜという単語だけが脳にちらつく。
〔ま、いろいろあってね。彼は自分が全て支配する帝国を創り出そうとしてるんだ。そのためには、各国の力を司る、魔力を帯びた宝石が必要。ってことで、宝石を狙う。それを止めてほしいんだ。フェリクール君は、目的のためには手段を選ばない主義だからね。下手したら、大陸の人口の半分が死んじゃうかも〕
なんとなくはわかった。つむぎは、ゆっくりとうなずいた。ようやく事態の深刻さが身にしみてわかってきた。自分が何かすればその虐殺を止められるというのなら、喜んで手伝おう。人が死ぬのを見るのはもう嫌だ。
しかし、自分の力だけで本当に最強の魔法使いを止められるのだろうか。貧弱な糸の魔法で、どこまでできるのだろうか。それだけが心配だ。
〔魔法は使い方次第だから、糸を操る魔法もそこそこ強いと思うよ。とは言っても、最強を相手にするんじゃちょっと弱いからね。王都に行って、王の力を借りようと思うんだ。予言は、王族の間じゃ有名だしね〕
つむぎはようやく納得した。だから、王都に行こうと言ったのか。ふと、違う疑問が芽生えてきてつむぎはたずねた。本筋には関係ないと思うが、少し気になる。
「そういえば、フェリクールさんは何の魔法を使うの?」
〔自分の周りの時空を操る魔法だよ。応用が効くから倒しづらいんだ〕
なるほど。確かに強そうだ。つむぎはまたたずねた。
「もう一つ、いいかな。何で、そんなにいろいろ知ってるの?」
〔魔法の鏡だからね。さ、君も早く寝なよ。さっさと眠って意識を分散させないと、意識を感知する魔物に襲われちゃう。私に触って寝るといいよ。簡単な結界を作ることはできるから〕
つむぎは釈然としないまま、リルを握った。わからないことがまだまだ多すぎる。でも、今は寝よう。つむぎは冷えてきた木の中で、静かに眠りに落ちた。
つむぎは思わず聞き返した。
〔そりゃ、さっきも言っただろ。大陸の進歩と調和と平和のためだよ〕
つむぎは眉をひそめた。大陸の進歩と調和と平和の前に、自分はまず食べ物と水と身の安全を確保したいのだが。
〔じゃ、また後で話すよ。まずはいろんなものの調達だね。で、ブルームを出よう〕
つむぎはうなずいて、街並みをもう一度眺め直した。悲しいような、恨みたいような、泣きたいような、突然そんな気分に駆られて、つむぎは街並みから目を逸らした。
ふぅ。つむぎはブルームの近くの森の木の洞の中で一息ついた。ようやく休憩ができる。
ごみを漁る子供たちを横目に、ごみ捨て場で拾ってきた異世界風の服に、カサブランカに教えてもらった知識で集めた木の実、そして巨大な植物の葉っぱに汲んできた水。衛生的にどうなのかは知らないが、飲めはするらしい。リルが教えてくれた。
衛生といえば、トイレがないのも大変だった。その辺りの藪で用を足さなければいけないということが、どれだけ神経を使うのかわかった。衛生観念という言葉がまだあまり広まっていない世界だからこそ、少し風邪をこじらせればすぐに死んでしまうのではないかということに気がついて、つむぎは怖くなった。
しかし、今は何も考えずに休みたい。そうだ、その前に着替えて、目立たないようにしなければ。
「リルって男?女?」
ふと気になってつむぎはたずねた。そもそも鏡に性別なんてあるのかはわからなかったけれど。
〔あぁ、そういうことね。大丈夫、私はロリコンじゃないから、君の体になんか興味はないよ〕
つむぎは一旦リルを外に投げてから、着替えた。自分の体には少し大きいサイズのくすんだ紫色のマントと、木綿のような素材でできた上着とズボンを身にまとったつむぎはくるりと回ってみた。なんだか異世界っぽい。いろいろなことから、少し救われたような気持ちになった。
〔終わったかい?話してもいいかな?〕
皮肉っぽいリルの声が頭の中に響いた。つむぎはうなずいて、泥まみれになった手鏡を拾い上げた。一応、泉の水で洗ってやる。冷たい。
〔そうそう、丁寧に洗ってね。誰かさんのせいで、せっかくの私の美貌がくすんじゃったからさ〕
もう一度泥の中にリルを放り投げたい衝動に抗いながら、つむぎは濡れたリルを服で拭った。暗くなってきた空の下、今日の宿並び洞の中に戻る。
「大陸の進歩と調和と、何だっけ、平和のためって、どういうこと?」
つむぎは洞の中で、木の実をかじりながらたずねた。苺とブルーベリーが混ざったような果汁の甘みが、口の中に広がる。
〔それはまぁ、言葉の通りだよ。大陸平和を脅かそうとしてるのがいるから、そいつから国々を守ってほしいんだ〕
平和を脅かす。異世界。ぱっと脳裏に浮かんだのは、怖い顔をした魔王の姿だった。小さい頃、あの子の家で遊んだゲームに出てきたキャラクターだ。
〔違う違う。魔王なんかもうとっくに倒したよ〕
「違うの?」
つむぎは少しびっくりした。異世界の敵といえば魔王だろう。
〔私が止めようとしてるのは、少し道を違えちゃった、最強の魔法使いだよ。魔王討伐の立役者でもあるね〕
最強。その響きに気圧されて、つむぎは唾を飲んだ。しかし、どういうことだろうか。魔王を倒したというのなら正義の味方のように思える。なぜ止めないといけないのだろうか。そこまで考えて、ふとカサブランカのことを思い出した。何か、いろいろあったのかもしれない。しかし、なぜ自分なのだろう。
〔予言があるからね〕
「予言?どういうこと?」
つむぎはよくわからずに首を傾げた。話の行先が見えない。
〔二百年前くらいに生きてた、これまた最強の魔法使い、シドニウス君が、ある予言をしたんだ。千年以内に必ず異世界から人間が訪れる。その人間は、何か大きなことをしでかすだろうってね。ちなみに、最強の魔法使いくんと同期だったよ。覚えといてね〕
つむぎは眉をひそめた。その予言が合っていたとして、自分が「何か大きなこと」を実現することができるのだろうか。今の自分はどちらかといえば弱い部類の人間だろう。自分に何ができるというのだろう。それに、なぜ二百年も前のことをリルが知っているのだろうか。わからないことが多すぎる。
〔いちいちに文句をつけるのはやめてくれよ。天は嘘をつかないんだからさ。とにかく、君が頼りなんだ〕
「…私が何かをするとして、何をすればいいの?」
〔よくぞ聞いてくれたね。君には、宝石を最強の魔法使い君から守ってほしいんだ〕
守る?宝石を?最強の魔法使いから?つむぎは慌てて首を振った。そんなこと、自分にできるわけがない。自分はただ、この世界で静かに生きていけたら良いと思っているだけの人間なのに。
〔それが脅かされるかもしれないんだったら、協力してくれるのかな〕
「どういうこと?」
〔最強の魔法使い、フェリクール君はね、シドニウス君の力で、長年弱体化されてたんだ。でも、そろそろ力を取り戻す頃なんだよね。だから、動き出すと思うんだ。大陸から国を全て消し去るために。そうそう、その前に、彼は君に会いに来ると思うよ。自分を阻む障害物なのか、それともお助けアイテムなのか、迷ってるだろうから〕
つむぎは驚いて固まってしまった。どういうことだろう?なぜという単語だけが脳にちらつく。
〔ま、いろいろあってね。彼は自分が全て支配する帝国を創り出そうとしてるんだ。そのためには、各国の力を司る、魔力を帯びた宝石が必要。ってことで、宝石を狙う。それを止めてほしいんだ。フェリクール君は、目的のためには手段を選ばない主義だからね。下手したら、大陸の人口の半分が死んじゃうかも〕
なんとなくはわかった。つむぎは、ゆっくりとうなずいた。ようやく事態の深刻さが身にしみてわかってきた。自分が何かすればその虐殺を止められるというのなら、喜んで手伝おう。人が死ぬのを見るのはもう嫌だ。
しかし、自分の力だけで本当に最強の魔法使いを止められるのだろうか。貧弱な糸の魔法で、どこまでできるのだろうか。それだけが心配だ。
〔魔法は使い方次第だから、糸を操る魔法もそこそこ強いと思うよ。とは言っても、最強を相手にするんじゃちょっと弱いからね。王都に行って、王の力を借りようと思うんだ。予言は、王族の間じゃ有名だしね〕
つむぎはようやく納得した。だから、王都に行こうと言ったのか。ふと、違う疑問が芽生えてきてつむぎはたずねた。本筋には関係ないと思うが、少し気になる。
「そういえば、フェリクールさんは何の魔法を使うの?」
〔自分の周りの時空を操る魔法だよ。応用が効くから倒しづらいんだ〕
なるほど。確かに強そうだ。つむぎはまたたずねた。
「もう一つ、いいかな。何で、そんなにいろいろ知ってるの?」
〔魔法の鏡だからね。さ、君も早く寝なよ。さっさと眠って意識を分散させないと、意識を感知する魔物に襲われちゃう。私に触って寝るといいよ。簡単な結界を作ることはできるから〕
つむぎは釈然としないまま、リルを握った。わからないことがまだまだ多すぎる。でも、今は寝よう。つむぎは冷えてきた木の中で、静かに眠りに落ちた。
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