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ep.1 5年ぶりに再会した元彼は、御曹司になっていました
2.
◇
銀座の大通りに面した15階建てのホテルは、新緑の季節であれば都会の中で瑞々しい緑に囲まれる。
ホワイトの外観は実に涼しげで、夏であれば避暑地の高原にある年代物の別荘を彷彿とさせる佇まいをしている。
フロントの係員に案内されて榛名が通された会議室は、まさに明治大正のモダンな内装で、まるでタイムスリップしたかのような気分になる。
すぐにやって来た先方の担当者からは、「建て替える前の年代物の什器をそのまま使用しているのですよ」と説明があった。
それに加えて、
「もうすぐ副社長が参りますので、少々お待ち下さい」
予想外の事態が伝えられて、榛名は思わず「えっ」と声に出しそうになった。
そんな榛名の戸惑いは先方にも伝わったようで、
「この度は弊社の副社長のたっての希望で、由比様に商談に来て頂きました」
まさにお客に安心感を与えるホテルマンの如く笑顔で、驚くべき事実が伝えられた。
(例の副社長が、私に!? いよいよ、そのご尊顔をお目にかかれる……興味はないけど)
(それよりも、正体不明の凄腕の副社長を前にして、私はちゃんとプレゼンできるのだろうか……)
緊張した心持ちで待っていると、会議室のドアがノックされて、新たに1人の麗しい人物が入ってきた。
それは、榛名の人生で初めて……いや2度目にお目にかかるレベルのイケメンだった。
しかし、榛名がその人物を見て、驚きのあまり目を見開いたのは、美形だから……だけではない。
「副社長の若宮です。本日はご多忙のところお時間を頂きありがとうございます。由比榛名さん」
彼は「初めまして」とは言わなかった。
凛とした美しい姿勢で名刺を差し出した若宮副社長は、180センチ以上はありそうな高身長、高級そうな仕立ての良いスーツが似合うモデル体型、すらりとした脚の長さには誰もが感嘆することだろう。
清潔感のある黒髪の前髪をアップにしており、形の良い額と整った相貌が一目瞭然である。涼しげな切れ長の目、スッと通った鼻筋、美しい薄い唇。
榛名は彼を知っている。彼女が知っている彼とはまるで雰囲気が異なるけれど。
名刺には『若宮伊吹』と記されていた。現在はそう名乗るこの人物。
この人こそが、榛名が5年前から忘れられない興津伊吹――その人だった。
――「東京で祖父の仕事を手伝う。はるちゃんにはもう会えない」
5年前、大学4年生のクリスマスイブに、伊吹はそう言い残して榛名の前から姿を消した。
大学卒業後は一緒に静岡から東京に出て、ずっと付き合っていけるのだと信じていた。
就職して数年後には伊吹と結婚だってしていると夢見ていた。
……だが、その想いは粉々に砕け散った。
榛名の脳裏に、当時のクリスマス、静岡駅周辺の景色がフラッシュバックする。
去っていく伊吹の乗った車を、茫然としながら見送ることしかできなかった。
「由比様? どうかなさいましたか? どこかお加減でも?」
先方の担当者から心配されて、榛名はハッと我に返る。
「い、いえ、大丈夫です」
慌てて何事もないことを伝えたが、おそらくそちらの副社長のイケメンハンサムぶりにポーっとなっていると勘違いしてくれたことだろう。
(だめだ……今でもまだ全然……)
榛名の過去の傷は、まだ生々しい傷跡を残したまま、癒えてはいなかった。
おそるおそる若宮伊吹の顔を見やると、彼は優しげで涼しげなビジネススマイルを浮かべながら榛名を見つめている。その表情から感情は読み取れない。
(一体……何のつもりで……)
今回、榛名を呼んだのだろうか。
黙ってギリ……と歯を食いしばった。
込み上げてくる怒りと悲しみの感情をやり過ごすと、少し冷静になってきた。
「東京で祖父の仕事を手伝う」――つまりは、その『祖父』が若宮家のご当主であり、ホテルロイヤルヴィリジアンの現社長ということだ。
そして当時は貧乏で苦学生だった興津伊吹は、若宮伊吹という御曹司になっていた。
銀座の大通りに面した15階建てのホテルは、新緑の季節であれば都会の中で瑞々しい緑に囲まれる。
ホワイトの外観は実に涼しげで、夏であれば避暑地の高原にある年代物の別荘を彷彿とさせる佇まいをしている。
フロントの係員に案内されて榛名が通された会議室は、まさに明治大正のモダンな内装で、まるでタイムスリップしたかのような気分になる。
すぐにやって来た先方の担当者からは、「建て替える前の年代物の什器をそのまま使用しているのですよ」と説明があった。
それに加えて、
「もうすぐ副社長が参りますので、少々お待ち下さい」
予想外の事態が伝えられて、榛名は思わず「えっ」と声に出しそうになった。
そんな榛名の戸惑いは先方にも伝わったようで、
「この度は弊社の副社長のたっての希望で、由比様に商談に来て頂きました」
まさにお客に安心感を与えるホテルマンの如く笑顔で、驚くべき事実が伝えられた。
(例の副社長が、私に!? いよいよ、そのご尊顔をお目にかかれる……興味はないけど)
(それよりも、正体不明の凄腕の副社長を前にして、私はちゃんとプレゼンできるのだろうか……)
緊張した心持ちで待っていると、会議室のドアがノックされて、新たに1人の麗しい人物が入ってきた。
それは、榛名の人生で初めて……いや2度目にお目にかかるレベルのイケメンだった。
しかし、榛名がその人物を見て、驚きのあまり目を見開いたのは、美形だから……だけではない。
「副社長の若宮です。本日はご多忙のところお時間を頂きありがとうございます。由比榛名さん」
彼は「初めまして」とは言わなかった。
凛とした美しい姿勢で名刺を差し出した若宮副社長は、180センチ以上はありそうな高身長、高級そうな仕立ての良いスーツが似合うモデル体型、すらりとした脚の長さには誰もが感嘆することだろう。
清潔感のある黒髪の前髪をアップにしており、形の良い額と整った相貌が一目瞭然である。涼しげな切れ長の目、スッと通った鼻筋、美しい薄い唇。
榛名は彼を知っている。彼女が知っている彼とはまるで雰囲気が異なるけれど。
名刺には『若宮伊吹』と記されていた。現在はそう名乗るこの人物。
この人こそが、榛名が5年前から忘れられない興津伊吹――その人だった。
――「東京で祖父の仕事を手伝う。はるちゃんにはもう会えない」
5年前、大学4年生のクリスマスイブに、伊吹はそう言い残して榛名の前から姿を消した。
大学卒業後は一緒に静岡から東京に出て、ずっと付き合っていけるのだと信じていた。
就職して数年後には伊吹と結婚だってしていると夢見ていた。
……だが、その想いは粉々に砕け散った。
榛名の脳裏に、当時のクリスマス、静岡駅周辺の景色がフラッシュバックする。
去っていく伊吹の乗った車を、茫然としながら見送ることしかできなかった。
「由比様? どうかなさいましたか? どこかお加減でも?」
先方の担当者から心配されて、榛名はハッと我に返る。
「い、いえ、大丈夫です」
慌てて何事もないことを伝えたが、おそらくそちらの副社長のイケメンハンサムぶりにポーっとなっていると勘違いしてくれたことだろう。
(だめだ……今でもまだ全然……)
榛名の過去の傷は、まだ生々しい傷跡を残したまま、癒えてはいなかった。
おそるおそる若宮伊吹の顔を見やると、彼は優しげで涼しげなビジネススマイルを浮かべながら榛名を見つめている。その表情から感情は読み取れない。
(一体……何のつもりで……)
今回、榛名を呼んだのだろうか。
黙ってギリ……と歯を食いしばった。
込み上げてくる怒りと悲しみの感情をやり過ごすと、少し冷静になってきた。
「東京で祖父の仕事を手伝う」――つまりは、その『祖父』が若宮家のご当主であり、ホテルロイヤルヴィリジアンの現社長ということだ。
そして当時は貧乏で苦学生だった興津伊吹は、若宮伊吹という御曹司になっていた。
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