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四皿目 どら焼きと離婚寸前の夫婦
その10 夜中に夕さりで
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寝室としてあてがわれた客間は広く、ひとりで寝ているとなんだか物寂しい。なかなか眠れない菜々美は思い切って起き上がり、スマートフォンだけ手に取ると、客間を出て一階の『夕さり』の店の中に向かった。
「お店の中で、少し気持ちを落ち着けたら、寝れるかな……あれ……?」
誰もいないはずの店内に電気が点いている。そっと中に入ると、朱鷺色の浴衣を着た蘭丸が、テーブルにノートパソコンを広げて仕事をしていた。
色が白い彼は、浴衣姿もよく似合っている。気配で菜々美に気づき、ぱっと振り返った。
「菜々美ちゃん、どうしたの?」
「あっ、ごめんなさい。眠れなくて……」
「そうなんだ」
蘭丸が優しい眼差しを向けていることに気づき、仕事の邪魔をしたのではと不安になった菜々美は、ほっとした。
「初めて咲人さんの家に泊めてもらったので、なんだか緊張してしまって。お店で気持ちを落ち着けてから寝ようと思ったんです。蘭丸さんはお仕事ですか?」
「うん。デザインの修正をやっておこうと思ったんだ。ひとまず終わったところ。あとは保存して……これでよし」
カチカチと打ち込むと、ノートパソコンをパタンと閉じた。
「菜々美ちゃん、何か飲む? 麦茶でいい?」
蘭丸が冷蔵庫から冷えた麦茶と取り出し、硝子のコップに注いで、「どうぞ」とひとつ手渡してくれた。
テーブル席に向かい合って座り、冷たい麦茶を飲むと、乾いた体の中へ浸みていく感じが心地よかった。
(仕事が終わったのなら、話をしてもいいよね)
そう思い、菜々美はコップを置いて、蘭丸を見た。彼は男の人にしては色白で、菜々美より肌がきれいだ。
「蘭丸さんはあやかしの瑠璃さんのお孫さんだから、色が白いのですか?」
「どうかな。僕の父は半妖だけど、少しだけ若い雰囲気があるくらいで、普通のおじさんだよ。色白でもないし。個人差があるんだと思う。そういえば菜々美ちゃんのお父さんって、どんな感じの人なの?」
「え……? お父さん……? あの……ええと」
父の顔も知らない菜々美は、なんと言えばいいかわからず、愕然と口を開閉した。
ふいにテーブルの上に置いた菜々美のスマートフォンが、メール受信を伝える。確認すると美月からだった。
「あっ、美月からメール……」
「菜々美ちゃんの友達?」
「双子の妹です。私と全然似てなくて、東京でモデルをしながら大学生として勉強も頑張っているんです。お盆休みに帰省するって」
大好きな美月に会えると思うと、父のことを聞かれたことを忘れ、気持ちが弾む。
「すごいな、妹さんモデルなんだ。菜々美ちゃんもすごく可愛いから、美人姉妹なんだね」
「は?」
菜々美は恥ずかしくなって、両手を顔の前で勢いよく振った。美人姉妹だなんて、お世辞にも言われたことがない。
「に、似てないんです。本当に。私、きれいじゃないので」
「そんなことないよ。菜々美ちゃん、きれいだよ」
「め、眼鏡をかけたほうがいいと思います。蘭丸さん、目が悪いんです」
蘭丸は優しい笑顔のまま、「僕は目がいいんだよ。菜々美ちゃんはきれいだと思う」と譲らない。
(蘭丸さん、大丈夫かな。目の病気なんじゃ……でも、この人のこういう周囲に流されないところ、うらやましいな……)
思ったことを話し、自分に素直に生きている蘭丸のことを、菜々美は尊敬している。
一緒に夕さりで働くうちに、信頼関係が築けている気がしてした。
「お店の中で、少し気持ちを落ち着けたら、寝れるかな……あれ……?」
誰もいないはずの店内に電気が点いている。そっと中に入ると、朱鷺色の浴衣を着た蘭丸が、テーブルにノートパソコンを広げて仕事をしていた。
色が白い彼は、浴衣姿もよく似合っている。気配で菜々美に気づき、ぱっと振り返った。
「菜々美ちゃん、どうしたの?」
「あっ、ごめんなさい。眠れなくて……」
「そうなんだ」
蘭丸が優しい眼差しを向けていることに気づき、仕事の邪魔をしたのではと不安になった菜々美は、ほっとした。
「初めて咲人さんの家に泊めてもらったので、なんだか緊張してしまって。お店で気持ちを落ち着けてから寝ようと思ったんです。蘭丸さんはお仕事ですか?」
「うん。デザインの修正をやっておこうと思ったんだ。ひとまず終わったところ。あとは保存して……これでよし」
カチカチと打ち込むと、ノートパソコンをパタンと閉じた。
「菜々美ちゃん、何か飲む? 麦茶でいい?」
蘭丸が冷蔵庫から冷えた麦茶と取り出し、硝子のコップに注いで、「どうぞ」とひとつ手渡してくれた。
テーブル席に向かい合って座り、冷たい麦茶を飲むと、乾いた体の中へ浸みていく感じが心地よかった。
(仕事が終わったのなら、話をしてもいいよね)
そう思い、菜々美はコップを置いて、蘭丸を見た。彼は男の人にしては色白で、菜々美より肌がきれいだ。
「蘭丸さんはあやかしの瑠璃さんのお孫さんだから、色が白いのですか?」
「どうかな。僕の父は半妖だけど、少しだけ若い雰囲気があるくらいで、普通のおじさんだよ。色白でもないし。個人差があるんだと思う。そういえば菜々美ちゃんのお父さんって、どんな感じの人なの?」
「え……? お父さん……? あの……ええと」
父の顔も知らない菜々美は、なんと言えばいいかわからず、愕然と口を開閉した。
ふいにテーブルの上に置いた菜々美のスマートフォンが、メール受信を伝える。確認すると美月からだった。
「あっ、美月からメール……」
「菜々美ちゃんの友達?」
「双子の妹です。私と全然似てなくて、東京でモデルをしながら大学生として勉強も頑張っているんです。お盆休みに帰省するって」
大好きな美月に会えると思うと、父のことを聞かれたことを忘れ、気持ちが弾む。
「すごいな、妹さんモデルなんだ。菜々美ちゃんもすごく可愛いから、美人姉妹なんだね」
「は?」
菜々美は恥ずかしくなって、両手を顔の前で勢いよく振った。美人姉妹だなんて、お世辞にも言われたことがない。
「に、似てないんです。本当に。私、きれいじゃないので」
「そんなことないよ。菜々美ちゃん、きれいだよ」
「め、眼鏡をかけたほうがいいと思います。蘭丸さん、目が悪いんです」
蘭丸は優しい笑顔のまま、「僕は目がいいんだよ。菜々美ちゃんはきれいだと思う」と譲らない。
(蘭丸さん、大丈夫かな。目の病気なんじゃ……でも、この人のこういう周囲に流されないところ、うらやましいな……)
思ったことを話し、自分に素直に生きている蘭丸のことを、菜々美は尊敬している。
一緒に夕さりで働くうちに、信頼関係が築けている気がしてした。
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