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〜総理だけど異世界転移してみた!〜
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序章
[アヴニールの外れにて]
見窄らしい老人は、悪漢どもから後ずさる。蛇に睨まれたカエルのようだ。
「や、やめてくだされ……!」
追い詰めるように三人の悪漢がにじりよる。
「へへへ。じじい! この国はもう終わりなんだ。極度の財政難で、お前らみたいな足手まといを助ける余裕はない!」
「そ、そんな! 新総理はわしら老いぼれも税金で助けてくださると言った。総理ならなんとかしてくださる!」
「税金は俺たち有望な若者のために使うべきだ! お前のような弱いやつこの国のゴミなんだよ! だからこれはゴミ掃除だ! 安心しなじじい、一撃で楽にしてやる!」
悪漢はペロリと戦斧の刃を舐める。
「総理はわしを助けてくださると言った! きっと総理が来てくださる!」
「総理はこない! 今頃お前の総理は、延々とあーでもないこーでもないと会議室で話し合いでもしてるんだろ!」
だが老人はなおも、
「いいや! きっと総理は来てくださる!」
「黙れ! 死ねーーーゴミクズっっっっ!」
悪漢は巨大な戦斧で老人の頭に切り掛かった。すると、突如戦斧の刃先が消えた。刃先だけが神隠しにあったかのようになくなっていたのだ。
悪漢の手には、柄だけが残る。
「ん? な、なんだ? 急に戦斧の刃先がなくなったぞ?」
「まるで引きちぎられたみてーだ」
「ど、どういうことだ?」
「うろたえるな! きっと壊れて脆くなっていたんだよ。こんなじじい素手で十分。一撃で楽にしてやる!」
そして、悪漢は素手で老人に殴りかかった。すると、バキョッ!
鈍さと軽快さが折り混ざったような音が響いた。悪漢の右肩が外されていたのだ。
一瞬、何が起きたのか、悪漢たちは戸惑った。そして、
「ぎやああああああああ! 肩が外れてやがる! な、なんだ俺に何をしやがった? このじじいただもんじゃねーぞ!」
今度は悪漢が老人から後ずさる。蛇に睨まれたカエルのようだ。
老人は肩についたホコリを払うと、
「どうしたんじゃ? 一撃で楽にするんじゃなかったのか?」
鋭い眼光で睨みつけた。先ほどとはまるで違うオーラを放つ。別人になったかのようだ。
「ま、まさかこいつがあの“戦う総理”なのか?」
「慌てんじゃねーよ。そうだとしてもこんな老いぼれ五分で片付くっ!」
老人は、いや……総理はコキコキと肩を鳴らす。そして、
「一分でどうだ?」
悪漢どもに言い放った。
「「「ぶっ殺してやるっ!」」」
そして、三対一の戦闘が始まった。武装した三人の若者と丸腰の老人。戦力は明らかに偏っている。だから一方的な戦いになることは必然だった。もちろん……総理が一方的に悪漢を叩き潰すのだ。
まず、総理は一瞬で肩の外れた悪漢の背後をとった。
「さて、ゴミ掃除といくか」
そして、手刀を首筋にトンと触れされた。
「ぐあっ」
悪漢はそのまま気絶し、地面の褥に沈んだ。
「なんだ? 今何をしたっ?」
「首に手が触れただけでボスが気絶したぞ!」
次に、取り巻きの盾使いの悪漢の方を向いて、
「肉体強化発動!」
総理は全身をパンプアップさせ、筋肉を隆起させる。盛り上がり、膨れ上がった筋肉には青々とした青筋が浮き出ている。みるみると体が若返り、本来の姿を取り戻した。
齢は六十半ばほどだろう。十分初老だが、彼にはそれを感じさせない若さがある。
「それが本当の姿だっていうのか?」
「そうだ」
「何をしたのか知らねーが、俺は防御力特化の盾使いだ。この俺に傷一つつけること――」
言い切る前に、総理の右ストレートが盾を食い破った。
右手は盾を貫通し、悪漢の鳩尾を正確に捉えた。
「ぐおおお」
二人目の悪漢が地面にキスをした。
最後に、銃使いの悪漢の方を向く。悪漢は、
「なんで総理が前衛に出て、肉弾戦を行うんだよ! お前の仕事は話し合いじゃないのか!」
「悪いな! それはわしの性に合わないんだ。わしの戦術は、行政でも戦場でも変わらない……前陣速攻だけだ! 魔力覚醒発動!」
そして、総理の左腕を虹色の紋章が埋め尽くした。紋章は日の光を乱反射させ、日輪を霞ませる。
総理は悪漢の目を真っ直ぐに見て、
「一撃で楽にしてやる!」
左手を前に構える。掌を開き、照準を雑魚に合わせる。左腕はエネルギーを孕みながら輝き始めた。脈動するパワーが空気を焼き切っていく。
総理を見て、悪漢は怖気付いた。
「待ってくれ! 待った! 降参する! 俺の負けだ! あんたを支持する! あんたに一票入れるっっっ!」
「悪いな……自分でも力をコントロールできないんだ」
そして、左手から放射状の熱線が雑魚どもを食らい尽くした。空が割れて、大地が引き裂かれた。雲が割れて、空気が溶ける。
草の絨毯を貪欲に貪りながら、総理の一撃は地形を変えた。
黒い煤と蒼白い炎が透明な空気に色を与える。もくもくと漂う煙の中で、
「ふー。片付いたな」
総理が一息つくと、物陰から一人の少女が飛び出てきた。
「ちょ、ちょっとそーじそーり! やりすぎでございますよ?」
と、サヨク。
彼女は総理の付き人。十四歳。幼い外見とは裏腹にしっかりと総理をサポートする。
「すまない。だが命まではとっていない。さ、次の支持者のところへ行こう!」
「もう十分でございますよ! 支持率は七十パーセントを超えています!」
「まだだ。もっと支持率が欲しい!」
総理はギラつかせた目で貪欲に唸った。
総理がこの世界に来たのは、今から一ヶ月ほど前。突然街のそばで目を覚ましたのだ。たまたまそばにいたサヨクに住む場所や食事をもらい、そのお返しにこの国アヴニールに政治的助言をした。
すると、日本の総理時代に培った手腕を認められ、この国の内閣総理大臣となったのだ。(内閣も当然白銀総司が作った)
総理は街の中を闊歩する。静謐な街に革靴の音が響く。
周囲の民は歩く総理に視線の刃を送る。そして、総理に対して、批判の言葉を浴びせる。
「なんでぽっと出のやつがこの国のリーダーなのよ」「あの人、支持率を得るためならなんでもするらしいわよ」「噂では賄賂も使っているらしいわ」「言うことを聞かない人は、拳で黙らせるって」
サヨクは、
「なんか色々言われちゃっていますね……」
「気にするな。それも総理の仕事だ」
そして、総理は、支持率稼ぎのために金持ちの有権者が住む家のドアを次々と叩いた。
大金持ちの奥様に、
「前言っていた条約にはサインをしておきました。次の投票でもわしに一票を」
次に、権威ある伯爵に、
「ええ。天下り先はこちらで用意しておきます。その代わりまた一票を」
さらに、華やかな王族に高圧的な態度で、
「某国との取引は、滞りなく終わりました。次の選挙は確か来週でしたね。わしはあなたのために動いた。そして、あなたには投票権がある。後は……言わなくてもわかるな?」
総理はありとあらゆる手を使って、媚び諂った。
そして、
「そーりー! あんまりお金持ちにばかり偏った行政をすると、支持率が落ちますよ? それに印象も悪くなるし……」
「そうだな。なら庶民層の支持ももらいに行くとしよう」
総理は、小綺麗な民家のドアを叩いた。中に入ると椅子にどっぷりと腰掛ける老婆がいた。齢は百歳をとうに超えているだろう。
「総理? この老いぼれのババの願いを聞いてくださるのですか?」
「ああ、政策に関してでも、この腕っぷしに関してでも、わしにできることならなんでもやろう。ただし、次の選挙ではわしのことを頼みますよ」
「ええ。ええ。総理がこんな貧乏な庶民のことを気にかけてくださるなら、喜んで一票を捧げますじゃ」
その瞬間、総理は下卑た笑みを浮かべた。
総理は、
「それでわしに何をして欲しいのですか?」
「この死にかけのババを、行き別れた家族と会わせて欲しいのです」
「ご家族の行方がわからないのですか?」
「ええ。どこにいるのか、今何をしているのか、どんな姿なのかもわかりません。もしかしたらもう死んでいるのかもしれません」
サヨクが、
「ちょ! そんなの無理に決まっているでございま――」
「引き受けましょう!」
「えっ?」
「ありがたい。もし死ぬ前に家族に一目だけでも会えれば、この歳まで生きた甲斐がありましたじゃ……」
「安心してください! わしが必ず、そのどこにいるかわからない家族を探してみせます!」
「本当ですか?」
「ええ! この白銀総司、必ずや公約の実現をします! わしの言葉を……信じてください!」
「ありがとうございますじゃ! ありがとうございますじゃ!」
老婆はとびきり顔をしわくちゃにして、嬉しそうな顔を浮かべた。
家を出て、
「そーじそーり! どうするつもりなんでございますか? どこにいるのかもわからない家族に会わせるなんて言っちゃって、アテなんてあるんでございますか?」
「アテ? アテなんかない」
総理は、ぶっきらぼうに言った。
「え……?」
「ヒントも何もない状態でそんなことできるわけないだろ? それに、そんな面倒なことをする暇が総理にあるわけないだろ?」
「じゃ、じゃあ、支持率のための嘘だっていうんでございますか?」
「当たり前だ」
総理は冷酷に言い放った。
「そ、そんなの酷すぎでございます! 総理にだって、この世界に来る前に家族はいたはずでございましょう! 家族の大切さくらいわかっているでしょう?」
「そうだな。よくわかっているよ」
「総理はご自分の家族に会いたくないんでございますか?」
「今すぐにでも全て投げ出して、会いたいよ」
「元の世界に戻りたいのでございましょう?」
「ああ。日本に戻りたいな」
「家族を愛しているのでございましょう?」
「ああ。世界中の誰よりも愛しているよ。家族のためならこの身なんてどうなってもいい」
「なら総理の愛する家族がひどい目に遭っているところを想像してください! そうすればあのお婆さんの気持ちがわかるはずです!」
「それは無理だ」
「どうして?」
「もうみんな死んだ。わし以外一人残らず殺されたんだ」
総理は続ける。
「日本は滅んだ。ある一人の男によって、滅ぼされた。だからわしはどんな手を使ってでもこの国を守る。日本と同じ目には遭わせない」
「……総理」
「このわしに全部任せておけ……! 戦争はもう起こさせない……!」
戦争が起きたのは、その三日後だった。
[アヴニールの外れにて]
見窄らしい老人は、悪漢どもから後ずさる。蛇に睨まれたカエルのようだ。
「や、やめてくだされ……!」
追い詰めるように三人の悪漢がにじりよる。
「へへへ。じじい! この国はもう終わりなんだ。極度の財政難で、お前らみたいな足手まといを助ける余裕はない!」
「そ、そんな! 新総理はわしら老いぼれも税金で助けてくださると言った。総理ならなんとかしてくださる!」
「税金は俺たち有望な若者のために使うべきだ! お前のような弱いやつこの国のゴミなんだよ! だからこれはゴミ掃除だ! 安心しなじじい、一撃で楽にしてやる!」
悪漢はペロリと戦斧の刃を舐める。
「総理はわしを助けてくださると言った! きっと総理が来てくださる!」
「総理はこない! 今頃お前の総理は、延々とあーでもないこーでもないと会議室で話し合いでもしてるんだろ!」
だが老人はなおも、
「いいや! きっと総理は来てくださる!」
「黙れ! 死ねーーーゴミクズっっっっ!」
悪漢は巨大な戦斧で老人の頭に切り掛かった。すると、突如戦斧の刃先が消えた。刃先だけが神隠しにあったかのようになくなっていたのだ。
悪漢の手には、柄だけが残る。
「ん? な、なんだ? 急に戦斧の刃先がなくなったぞ?」
「まるで引きちぎられたみてーだ」
「ど、どういうことだ?」
「うろたえるな! きっと壊れて脆くなっていたんだよ。こんなじじい素手で十分。一撃で楽にしてやる!」
そして、悪漢は素手で老人に殴りかかった。すると、バキョッ!
鈍さと軽快さが折り混ざったような音が響いた。悪漢の右肩が外されていたのだ。
一瞬、何が起きたのか、悪漢たちは戸惑った。そして、
「ぎやああああああああ! 肩が外れてやがる! な、なんだ俺に何をしやがった? このじじいただもんじゃねーぞ!」
今度は悪漢が老人から後ずさる。蛇に睨まれたカエルのようだ。
老人は肩についたホコリを払うと、
「どうしたんじゃ? 一撃で楽にするんじゃなかったのか?」
鋭い眼光で睨みつけた。先ほどとはまるで違うオーラを放つ。別人になったかのようだ。
「ま、まさかこいつがあの“戦う総理”なのか?」
「慌てんじゃねーよ。そうだとしてもこんな老いぼれ五分で片付くっ!」
老人は、いや……総理はコキコキと肩を鳴らす。そして、
「一分でどうだ?」
悪漢どもに言い放った。
「「「ぶっ殺してやるっ!」」」
そして、三対一の戦闘が始まった。武装した三人の若者と丸腰の老人。戦力は明らかに偏っている。だから一方的な戦いになることは必然だった。もちろん……総理が一方的に悪漢を叩き潰すのだ。
まず、総理は一瞬で肩の外れた悪漢の背後をとった。
「さて、ゴミ掃除といくか」
そして、手刀を首筋にトンと触れされた。
「ぐあっ」
悪漢はそのまま気絶し、地面の褥に沈んだ。
「なんだ? 今何をしたっ?」
「首に手が触れただけでボスが気絶したぞ!」
次に、取り巻きの盾使いの悪漢の方を向いて、
「肉体強化発動!」
総理は全身をパンプアップさせ、筋肉を隆起させる。盛り上がり、膨れ上がった筋肉には青々とした青筋が浮き出ている。みるみると体が若返り、本来の姿を取り戻した。
齢は六十半ばほどだろう。十分初老だが、彼にはそれを感じさせない若さがある。
「それが本当の姿だっていうのか?」
「そうだ」
「何をしたのか知らねーが、俺は防御力特化の盾使いだ。この俺に傷一つつけること――」
言い切る前に、総理の右ストレートが盾を食い破った。
右手は盾を貫通し、悪漢の鳩尾を正確に捉えた。
「ぐおおお」
二人目の悪漢が地面にキスをした。
最後に、銃使いの悪漢の方を向く。悪漢は、
「なんで総理が前衛に出て、肉弾戦を行うんだよ! お前の仕事は話し合いじゃないのか!」
「悪いな! それはわしの性に合わないんだ。わしの戦術は、行政でも戦場でも変わらない……前陣速攻だけだ! 魔力覚醒発動!」
そして、総理の左腕を虹色の紋章が埋め尽くした。紋章は日の光を乱反射させ、日輪を霞ませる。
総理は悪漢の目を真っ直ぐに見て、
「一撃で楽にしてやる!」
左手を前に構える。掌を開き、照準を雑魚に合わせる。左腕はエネルギーを孕みながら輝き始めた。脈動するパワーが空気を焼き切っていく。
総理を見て、悪漢は怖気付いた。
「待ってくれ! 待った! 降参する! 俺の負けだ! あんたを支持する! あんたに一票入れるっっっ!」
「悪いな……自分でも力をコントロールできないんだ」
そして、左手から放射状の熱線が雑魚どもを食らい尽くした。空が割れて、大地が引き裂かれた。雲が割れて、空気が溶ける。
草の絨毯を貪欲に貪りながら、総理の一撃は地形を変えた。
黒い煤と蒼白い炎が透明な空気に色を与える。もくもくと漂う煙の中で、
「ふー。片付いたな」
総理が一息つくと、物陰から一人の少女が飛び出てきた。
「ちょ、ちょっとそーじそーり! やりすぎでございますよ?」
と、サヨク。
彼女は総理の付き人。十四歳。幼い外見とは裏腹にしっかりと総理をサポートする。
「すまない。だが命まではとっていない。さ、次の支持者のところへ行こう!」
「もう十分でございますよ! 支持率は七十パーセントを超えています!」
「まだだ。もっと支持率が欲しい!」
総理はギラつかせた目で貪欲に唸った。
総理がこの世界に来たのは、今から一ヶ月ほど前。突然街のそばで目を覚ましたのだ。たまたまそばにいたサヨクに住む場所や食事をもらい、そのお返しにこの国アヴニールに政治的助言をした。
すると、日本の総理時代に培った手腕を認められ、この国の内閣総理大臣となったのだ。(内閣も当然白銀総司が作った)
総理は街の中を闊歩する。静謐な街に革靴の音が響く。
周囲の民は歩く総理に視線の刃を送る。そして、総理に対して、批判の言葉を浴びせる。
「なんでぽっと出のやつがこの国のリーダーなのよ」「あの人、支持率を得るためならなんでもするらしいわよ」「噂では賄賂も使っているらしいわ」「言うことを聞かない人は、拳で黙らせるって」
サヨクは、
「なんか色々言われちゃっていますね……」
「気にするな。それも総理の仕事だ」
そして、総理は、支持率稼ぎのために金持ちの有権者が住む家のドアを次々と叩いた。
大金持ちの奥様に、
「前言っていた条約にはサインをしておきました。次の投票でもわしに一票を」
次に、権威ある伯爵に、
「ええ。天下り先はこちらで用意しておきます。その代わりまた一票を」
さらに、華やかな王族に高圧的な態度で、
「某国との取引は、滞りなく終わりました。次の選挙は確か来週でしたね。わしはあなたのために動いた。そして、あなたには投票権がある。後は……言わなくてもわかるな?」
総理はありとあらゆる手を使って、媚び諂った。
そして、
「そーりー! あんまりお金持ちにばかり偏った行政をすると、支持率が落ちますよ? それに印象も悪くなるし……」
「そうだな。なら庶民層の支持ももらいに行くとしよう」
総理は、小綺麗な民家のドアを叩いた。中に入ると椅子にどっぷりと腰掛ける老婆がいた。齢は百歳をとうに超えているだろう。
「総理? この老いぼれのババの願いを聞いてくださるのですか?」
「ああ、政策に関してでも、この腕っぷしに関してでも、わしにできることならなんでもやろう。ただし、次の選挙ではわしのことを頼みますよ」
「ええ。ええ。総理がこんな貧乏な庶民のことを気にかけてくださるなら、喜んで一票を捧げますじゃ」
その瞬間、総理は下卑た笑みを浮かべた。
総理は、
「それでわしに何をして欲しいのですか?」
「この死にかけのババを、行き別れた家族と会わせて欲しいのです」
「ご家族の行方がわからないのですか?」
「ええ。どこにいるのか、今何をしているのか、どんな姿なのかもわかりません。もしかしたらもう死んでいるのかもしれません」
サヨクが、
「ちょ! そんなの無理に決まっているでございま――」
「引き受けましょう!」
「えっ?」
「ありがたい。もし死ぬ前に家族に一目だけでも会えれば、この歳まで生きた甲斐がありましたじゃ……」
「安心してください! わしが必ず、そのどこにいるかわからない家族を探してみせます!」
「本当ですか?」
「ええ! この白銀総司、必ずや公約の実現をします! わしの言葉を……信じてください!」
「ありがとうございますじゃ! ありがとうございますじゃ!」
老婆はとびきり顔をしわくちゃにして、嬉しそうな顔を浮かべた。
家を出て、
「そーじそーり! どうするつもりなんでございますか? どこにいるのかもわからない家族に会わせるなんて言っちゃって、アテなんてあるんでございますか?」
「アテ? アテなんかない」
総理は、ぶっきらぼうに言った。
「え……?」
「ヒントも何もない状態でそんなことできるわけないだろ? それに、そんな面倒なことをする暇が総理にあるわけないだろ?」
「じゃ、じゃあ、支持率のための嘘だっていうんでございますか?」
「当たり前だ」
総理は冷酷に言い放った。
「そ、そんなの酷すぎでございます! 総理にだって、この世界に来る前に家族はいたはずでございましょう! 家族の大切さくらいわかっているでしょう?」
「そうだな。よくわかっているよ」
「総理はご自分の家族に会いたくないんでございますか?」
「今すぐにでも全て投げ出して、会いたいよ」
「元の世界に戻りたいのでございましょう?」
「ああ。日本に戻りたいな」
「家族を愛しているのでございましょう?」
「ああ。世界中の誰よりも愛しているよ。家族のためならこの身なんてどうなってもいい」
「なら総理の愛する家族がひどい目に遭っているところを想像してください! そうすればあのお婆さんの気持ちがわかるはずです!」
「それは無理だ」
「どうして?」
「もうみんな死んだ。わし以外一人残らず殺されたんだ」
総理は続ける。
「日本は滅んだ。ある一人の男によって、滅ぼされた。だからわしはどんな手を使ってでもこの国を守る。日本と同じ目には遭わせない」
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