嫌われ公女に転生したけど、愛されたい願望を捨てたら全員がデレてきた

桃瀬さら

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2.消えた感情

 婚約破棄の翌日。
 ナディアは学園の廊下を一人で歩いていた。

 反対側の廊下から、イサークとその友人であるピンク髪の令嬢が歩いてくる。

 ナディアは無表情で二人を見つめた。
 アメジストの瞳に感情の欠片は宿っていない。
 
 今までの私なら、イサークの姿を見つけたらすぐに駆け寄っていただろう。
 けれど、愛されることを諦めた今、そんなことをする必要などない。

 イサークの翠色の瞳と、ほんの一瞬視線が交わる。

 王族に会った時は、挨拶をするのが礼儀だ。
 ここは学園である。たとえ挨拶をしなくても、罰せられることはない。

 ナディアは無表情のまま、イサークに話しかけることなく、二人の横を通り過ぎた。

 その瞬間、わずかに周囲がざわつく。

「え……、王子様に話しかけなかった……?」
「いつもあんなにべったりだったのに……」
 
 生徒たちの囁きが、廊下に広がる。
 ナディアが婚約者である第二王子にくっ付いていたのは有名な話。

 そんなナディアが話しかけることなく、横を通り過ぎた。

 イサークもまた、驚きを隠せなかった。
 無言で通り過ぎるナディアの背中を、振り返って見つめてしまう。

「イサーク様?どうかされたのですか?」
 
 ピンク髪の令嬢――レイチェルが、不思議そうに首を傾げる。
 彼女のピンク色の瞳が、イサークの横顔を覗き込む。
 
「いや……。レイチェル嬢、すまない。」

 歯切れが悪いイサークの声は、どこか掠れていた。
 昨日のナディアの涙を耐える顔が、脳裏に焼きついて離れない。
 婚約破棄を告げたのは自分のはずなのに、なぜか胸がざわつく。
 ……これは、ただの罪悪感か? それとも――。

 
 木陰にあるベンチに座って、ナディアは胸元に手を添えて考え込んでいた。

 転生した記憶を思い出したから?
 イサークを見ても、何の感情も湧いてこなかった。

 憧れ、切なさ、愛しさも……すべてが、綺麗に消えていた。
 もう少し、何かしらの感情を抱くと思ってたのに……。
 でも、いい傾向だ。このままイサークと距離をとって、婚約破棄して……。
 そうしたら、私の破滅ルートは回避できるはず。

 ナディアは小さく頬を緩める。
 イサークから解放される喜びを噛み締めていると、どこからか視線を感じた。
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