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そんでその後どうなったかというと。
「現在、勇者一行はダーラ山脈を抜け、魔領ゴグを目指している模様です」
(んーと、この縺れを解くには、ああ、こっちから魔力を流し込むのか。次に……)
「魔王様、聞いておられますか?」
カスケードがかなり不服そうに声を掛けてきた。
カスケードってのは俺の配下のひとりで、俺が偽名に使ったアスタロトと同じ四天王のひとりだ。
「聞いてるよ。もうすぐ最初の魔領へ勇者の奴らが来るんだろ」
そう答えると後ろからため息が聞こえてきた。
「これがどういうことなのかお分かりなのですか? 既に向こうは戦力を調えている、ということですよ。……まだ、こちらは何も出来ていないというのにっ!!」
カスケードが思わず、といったように放った風が頬を掠めた。
普通の人間なら頬が切れるくらいはしてるかもしれないが、残念ながら今の俺は魔王。
今何かあったか、というような顔をしてカスケードを見ると、太い眉を思い切り顰めていた。
(あ、もったいね。普通にしてりゃ、それなりに見られる顔してんのに)
魔族というのはその魔力に比例するように皆、それぞれが美形ばっかりだった。
(前の顔でこっち来なくて良かった)
「ですから」
(んー、こっちがこうなって、と)
今俺がやっているのは、こないだシュウの眼の前から搔っ攫ってきたあの訳の分からんものを元に戻す作業だ。
先代魔王を解放する、って目的もあるが、
(せめて、魂くらいは解放してやりたいよな)
あの鬼畜領主の思惑に巻き込まれた人達も何とかしてやりたかった。
流石に生き返らせるのは無理でもその魂くらいは、と挑戦しいるんだが。
(難しいな)
何をどうしたらこうなるのか、という位こんがらがっているのだ。
(だけど、何とかしてやりたい)
そう思うのは悪いことだろうか。
『兄さんは不器用すぎるよ』
ふいに弟の声が蘇った。
『今回のことだって兄さんはほとんど関係なかったじゃない。なのに何で』
あれは学生時代、バスケ部の不祥事で出場停止どころか、廃部になるではないか、となった際、マネージャーだった俺らが奔走して何とか部を存続させた時だったか。
一応マネージャーだし、と答えると弟は顔を顰めた。
『何がマネージャーだよ、兄さん本当はちゃんとやりたかったんだろ、バスケッ!!』
(あー、うん。そうだったんだけどなぁ)
俺よりも実力がある奴が一杯いてさ、逆にマネージャーが足りない、って言われりゃ、そっち行くしかないよな。
俺の答えを聞いた零人は更に音量を上げた。
『だからっ、それがお人良しだって言ってんだよっ!!』
その後もえんえんとお説教は続いたが、何で兄の俺が説教されなきゃならんのだ。
『ま、そこが兄さんのいいところでもあるんだけど』
その説教は大体その結論へ辿り着いて終わるのが常だった。
(元気でやってるかなぁ)
そんなことを思っていると、
「聞いておられるのですか?」
カスケードが性懲りもなく口を挟んできた。
「聞いてる。勇者の一行が来たんだろ」
わざとぞんざいに答えてやるとカスケードがはやれやれというふうに頭を振った。
「これですから。……ザクエル様の記憶をお持ちなら仕方のないことですけどね」
その言葉を聞いた俺は胃の辺りに重いものが蓄積していくのを感じた。
(まただ)
努めて冷静さを装って目の前の作業に集中するふりをする。
(こいつらは俺をみていない)
気付いたのはいつだったか。
『やはり、サンダーラ様の面影がおありになる』
『いや、あの口調は十一代目のデファクト様と同じだ』
『いやいや、あの歩き方はニール様そのものよ』
魔王が代々の魔王の記憶を繋ぐように、配下の魔族もその記憶を携えてくる。
始めは良いことに思えただろう。
倒されたと思った仲間に再会でき、一から戦術を学ばなくてもすぐに連携が取れる。
けれど、それは諸刃の剣だった。
やがて魔王が代を重ねるにつれ、皆自分が仕えた魔王の面影を捜し始め、当代の魔王を見る者は少なくなった。
(だから最近、人間達と和平を結ぼうとしたのか)
もちろん、それだけではないだろう。
だが、前世の記憶を持つ俺でさえ、時おり虚しくなる時があるのだ。
彼らがそう思ったのも無理はないと思う。
配下の誰も自分を見てくれず、勇者にただ倒されるのを待つ日々。
(こわっ、)
代々の魔王の記憶を持つ、というのはそういうことなのだ。
(……先代魔王の気持ちがちょっとだけ分かったな)
始めは何で勇者と、と思ったけど勇者しかいなかったんだ。
混じりけのない感情で自分を認めてくれる存在が。
やがて、俺の魔力の糸に何かが意思を持って絡んできた。
(ようやくか)
解け始めたそれにほっとしたのも束の間、俺とよく似た魔力が流れ込んできた。
(これは――)
それは先代魔王の記憶。
これまでにないほどの鮮明なそれを見終えて、俺は思わずぼやいた。
「いや、あんたバカだろ」
「現在、勇者一行はダーラ山脈を抜け、魔領ゴグを目指している模様です」
(んーと、この縺れを解くには、ああ、こっちから魔力を流し込むのか。次に……)
「魔王様、聞いておられますか?」
カスケードがかなり不服そうに声を掛けてきた。
カスケードってのは俺の配下のひとりで、俺が偽名に使ったアスタロトと同じ四天王のひとりだ。
「聞いてるよ。もうすぐ最初の魔領へ勇者の奴らが来るんだろ」
そう答えると後ろからため息が聞こえてきた。
「これがどういうことなのかお分かりなのですか? 既に向こうは戦力を調えている、ということですよ。……まだ、こちらは何も出来ていないというのにっ!!」
カスケードが思わず、といったように放った風が頬を掠めた。
普通の人間なら頬が切れるくらいはしてるかもしれないが、残念ながら今の俺は魔王。
今何かあったか、というような顔をしてカスケードを見ると、太い眉を思い切り顰めていた。
(あ、もったいね。普通にしてりゃ、それなりに見られる顔してんのに)
魔族というのはその魔力に比例するように皆、それぞれが美形ばっかりだった。
(前の顔でこっち来なくて良かった)
「ですから」
(んー、こっちがこうなって、と)
今俺がやっているのは、こないだシュウの眼の前から搔っ攫ってきたあの訳の分からんものを元に戻す作業だ。
先代魔王を解放する、って目的もあるが、
(せめて、魂くらいは解放してやりたいよな)
あの鬼畜領主の思惑に巻き込まれた人達も何とかしてやりたかった。
流石に生き返らせるのは無理でもその魂くらいは、と挑戦しいるんだが。
(難しいな)
何をどうしたらこうなるのか、という位こんがらがっているのだ。
(だけど、何とかしてやりたい)
そう思うのは悪いことだろうか。
『兄さんは不器用すぎるよ』
ふいに弟の声が蘇った。
『今回のことだって兄さんはほとんど関係なかったじゃない。なのに何で』
あれは学生時代、バスケ部の不祥事で出場停止どころか、廃部になるではないか、となった際、マネージャーだった俺らが奔走して何とか部を存続させた時だったか。
一応マネージャーだし、と答えると弟は顔を顰めた。
『何がマネージャーだよ、兄さん本当はちゃんとやりたかったんだろ、バスケッ!!』
(あー、うん。そうだったんだけどなぁ)
俺よりも実力がある奴が一杯いてさ、逆にマネージャーが足りない、って言われりゃ、そっち行くしかないよな。
俺の答えを聞いた零人は更に音量を上げた。
『だからっ、それがお人良しだって言ってんだよっ!!』
その後もえんえんとお説教は続いたが、何で兄の俺が説教されなきゃならんのだ。
『ま、そこが兄さんのいいところでもあるんだけど』
その説教は大体その結論へ辿り着いて終わるのが常だった。
(元気でやってるかなぁ)
そんなことを思っていると、
「聞いておられるのですか?」
カスケードが性懲りもなく口を挟んできた。
「聞いてる。勇者の一行が来たんだろ」
わざとぞんざいに答えてやるとカスケードがはやれやれというふうに頭を振った。
「これですから。……ザクエル様の記憶をお持ちなら仕方のないことですけどね」
その言葉を聞いた俺は胃の辺りに重いものが蓄積していくのを感じた。
(まただ)
努めて冷静さを装って目の前の作業に集中するふりをする。
(こいつらは俺をみていない)
気付いたのはいつだったか。
『やはり、サンダーラ様の面影がおありになる』
『いや、あの口調は十一代目のデファクト様と同じだ』
『いやいや、あの歩き方はニール様そのものよ』
魔王が代々の魔王の記憶を繋ぐように、配下の魔族もその記憶を携えてくる。
始めは良いことに思えただろう。
倒されたと思った仲間に再会でき、一から戦術を学ばなくてもすぐに連携が取れる。
けれど、それは諸刃の剣だった。
やがて魔王が代を重ねるにつれ、皆自分が仕えた魔王の面影を捜し始め、当代の魔王を見る者は少なくなった。
(だから最近、人間達と和平を結ぼうとしたのか)
もちろん、それだけではないだろう。
だが、前世の記憶を持つ俺でさえ、時おり虚しくなる時があるのだ。
彼らがそう思ったのも無理はないと思う。
配下の誰も自分を見てくれず、勇者にただ倒されるのを待つ日々。
(こわっ、)
代々の魔王の記憶を持つ、というのはそういうことなのだ。
(……先代魔王の気持ちがちょっとだけ分かったな)
始めは何で勇者と、と思ったけど勇者しかいなかったんだ。
混じりけのない感情で自分を認めてくれる存在が。
やがて、俺の魔力の糸に何かが意思を持って絡んできた。
(ようやくか)
解け始めたそれにほっとしたのも束の間、俺とよく似た魔力が流れ込んできた。
(これは――)
それは先代魔王の記憶。
これまでにないほどの鮮明なそれを見終えて、俺は思わずぼやいた。
「いや、あんたバカだろ」
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