かつて番に婚約者を奪われた公爵令嬢は『運命の番』なんてお断りです。なのに獣人国の王が『お前が運命の番だ』と求婚して来ます

神崎 ルナ

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第12話 ベリルside ④

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 オークフリートはまだ比較的若い街のようだった。

 住民の数も少なく、建物も必要最小限しかないようだ。

(こんなところに番がいるのか)

 彼だか彼女だか分からないが(番は必ず異性とは限らない。俺としては異性の方がいいが)こういった街に住むということは移民か、それとも開発者なのか。

 街を新しく作るには当然手間が掛かる。

 荷物の運搬を優先して馬車道を先に整備させるのか、それとも居住性を重視して建物を先にするのか、また物流のために商業ギルドを優先させるのか。

 どの施策を優先させるかで為政者の資質が分かるというものだ。

 そしてそのどれにもそれぞれの代表者が出しゃばって来るため、余程いい関係を築いていないと調整の段階で難航するはめになる。

(ふむ。それほどひどい匂いはしないな)

 少し意外だった。

 粗末な建物が目に付く中で、下水施設はきちんと管理されているようだった。

(普通はこの辺りの施設は後回しにされると聞いていたが)

 俺達獣人と違って人族はそれほど嗅覚が鋭くないため、それらの施設は後回しにされることが多い。

 だが、それではダメなのだ。
 
 下水施設が貧相だと汚水が道に溢れ、やがて疾病の元になる。

 魔力が高い貴族は生活魔法で身の回りを賄っていることが多いため、これに気付くことが遅くなる。

 そのため最初は勢いがあってもそこで街作りに躓くことが多い。

(しかし、これは――)

 暫く街並みを観察していた俺は違和感を感じた。
 
 水路は新しいのに住宅はそれ以前に建てられたように見えるのだ。

 下水処理のことを知っている為政者が作る街並みとは思えなかった。

(何だ? このちぐはぐさは?)

 その疑念は気紛れに入った食堂で晴れた。

「ああ。ここには領主代行様がいるからね」

 食事を運んで来た女将がざっくらばんに話してくれた。

「ここは元々小さな村だったのさ。そこに先の領主様が人を増やそうって勝手に決めて街にしようとしたんだけどね。てんでダメダメでね」
 
 何かを追い払うように手を振って女将が続ける。

「家を増やして道を整えただけで終わり。って子供の遊びじゃないんだからね。後に続くもんがあるんだから」

 それはそうだ。

 人が定住するには理由が要る。
 
 収入源として商業ギルドや冒険者ギルドを設立し、街の治安もよくしなければ定住は見込めない。

「後から商業ギルドや冒険者ギルドなんてのも出来たんだけどね。ここってさ、山に近いだろう? 畑も開墾し辛いから山からの収入を得ていたんだけどね。そこに新しく税を設ける、とか言われて騒動になったりもしたんだよ」

 全く何でもかんでも税を掛ければいい、ってもんじゃないだろう。 

「と、そこへ現れたのが今の領主代行様でね。まず最初に何をおやりになったと思う?」

「税の免除か?」

 俺が答えると女将は驚いたように目を丸くした。

「おやまあ。一発で当てたのはお客さんが始めてだよ。凄いね。あんたまさかお貴族様とかじゃないよね?」

「まさか。俺はただの獣人さ」

 わざとらしく頭の耳を女将の方へ向けると女将はそうだよね、と頷いた。

「まあ、こんなところにお貴族様が来る訳ないよねぇ。でもあんた、隠さなくていいのかい?」
 
 隣国が獣人の国ということと、人族が望む特産物の流通を握っているお陰である程度の優位を保っているとはいえ、獣人といったものを忌避する輩は多い。

 ここへ来る間に掃った火の粉は俺が予想していたよりも多かったが、俺とて伊達にSランクではない。

「その懸念はない。全部蹴散らして来たからな」

 鷹揚に答えると女将がさもりありなん、というように頷く。

「だよねぇ。あんたかなり鍛えているように見えるしさ。余計な心配だったね」

 でさ、と暇だったのか女将が更に話を続けた。

「税の免除の代わりに家の前を掃除して要らないものを全て出すように、って言われた時はまあびっくりしたもんだよ」

 ほお、と俺は目をみはった。 

 街の住民が何を必要としているのか、またどのような生活をしているのか探るには最も効果的なものに思えた。

 例えばだが、食べかすが大きめであればその住民は食料を豊富に持っている証左になり、布の切れ端が多ければ服の消費が多く、経済が活性化しているのが分かる。

 最もそんなのは王都位のものだ。

 恐らくこの辺りでは――

 俺の予想通り女将は声を潜めて囁いた。

「とは言ってもねぇ。あたしらの生活で要らないもの、って言われても困るんだよね。もうあれ位しかなくてね」

 食事時なので俺も声を潜めた。

「アレか」

 具体的な言葉は避けたが俺の表情から女将も分かったらしい。

「そう!! アレだよ。まあ、誰でも食べれば出るもんだけどね。それ位しか思いつかなくてね。でも、持って行って更に驚いたのはそれを――」

「おーい、こっちお代わりだ!!」

「あいよっ、あら話し込んじゃってごめんなさいね。それじゃあごゆっくり」

 女将が去ると俺は目の前の食事に集中した。

 この辺りではありきたりの黒パンとスープ、茹でたじゃが芋に軽く塩を振ったものだったが、そういった話を聞くと他では食べるより満足感があった。

 最もここに番がいるせいかもしれないが。

 何となくだが俺はこの街に番がいるような気がしていた。



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